ドレス縫製職人になるためには
お久しぶりです。まやです。
note書く書く詐欺をしていたら前回の投稿から半年以上も経ってしまいました。
最近、「ドレス縫製職人になるためにはどうしたらいいですか?」という質問を多く受けるようになったので、
その答えを少し詳しく書いて残しておこうと思います。
そもそも、「ドレス縫製職人」という肩書きは私が作ったもので、一般的な職種として存在するものではありません。
ドレスと呼ばれるもののみを縫い、それを仕事として生きているため、そのように名乗っていますが、違うスタイルでひたすらドレスを作っている方でもドレス職人と言う方はいると思います。
そもそも、ドレス自体、種類がたくさんあります。
以前Twitterでその話題にも触れましたが、
それぞれのドレスを専門に作っている方がいるので、私が今回話すのはあくまでも私の場合は、ということ。
「オートクチュール・ウェディングドレス専門のドレス縫製職人になるために、私はこうした」ということを前提に読んでいただければと思います。
ドレス縫製職人に必要なもの
まず、ドレス縫製職人に必要だと思う要素は以下の4つです。
①服飾の基礎知識
服を作るための専門知識を得ること。
私は中学生の頃から独学で、市販の本を読んだり家庭科の先生や知り合いに質問するなどして演劇の衣装のドレスを作っていました。
今思い返すと、専門用語なんて何一つ知らず、本を見ても2割くらいしか理解できなくて、図説を見ながら見よう見まねで製作し、本当ひどい作りをしていたと思います。
そんな経験から、独学でできることには限界があるということもわかっていましたし、
本格的にドレスを作る仕事がしたいと思ってからはきちんとした知識を学ぶことが必要だと思い、専門学校に行くことを決めました。
学歴・経験不問の縫製工場もありますが、通常のアパレル会社の技術職での就職は、専門学校卒業が必須事項だったからというのもあります。
結果的に、専門学校に通ったことで独学時代とは比べものにならないくらいの知識や技術を身に付けることができましたし、今でも学校で習ったことは大いに役に立っています。
服飾の基礎知識を学ぶ場はたくさんあると思われますが、服飾系の“大学”よりも“専門学校”の方が断然おススメです。
大学は一般教養科目もあるのに比べて、専門学校はひたすら服飾関連の授業のみであることと、製作する量(諸々こなす量)が違うからです。
どの専門学校がいいか、とも聞かれますが、実際に元いたドレスの会社には、色んな専門学校出身の方がいたので、とりわけここでなくてはいけない、というのはないと思います。
それでも、私が文化服装学院を選んだ(並びに文化服装学院をお勧めする)理由としては、
・他校よりも設備がダントツで良いと感じた
・卒業生が多いので就活で有利だと思った(文化の厳しさやレベルを知っている先輩がいれば、そのまま評価・信頼してもらえると思った)
・オートクチュール専攻というコースがあって、ドレス製作に役に立つ授業が受けられると思ったから
です。
実際に三点ともその通りだったと感じています。
ですが、あくまでも専門学校で学べることは基礎で、プロレベルのドレスが作れるようになるわけではありません。
それは、教科書に書かれていることが全てではないことと、ドレスを縫う技術を教えられる先生がそういるわけではないからです。
私も、某オートクチュールアトリエ出身の先生が担任で多くのことをご指導いただきましたが、その先生もドレス専門であったわけではないので、ドレス縫製技術に関しては実際には会社で学んだことの方が多いです。
なので、専門学校在学中にできることしては、基礎を徹底的に学び、自分のものにすること、
それにプラスアルファで、どんなことがドレスの縫製に役に立つのかを考え、素材が自由な課題の時はドレスに使うような生地を選んで練習してみたりと、自ら積極的にドレスに関する技術を取り入れる姿勢が必要だと思います。
②体力・忍耐力
縫製が好きという人は、大人しめで、細かい作業が好きで、おっとりしていて…というタイプの人が比較的多いのですが、
ドレス縫製、とりわけコレクションを発表しているブランドの技術職は修羅場が多く、体力勝負になる場面もよくあるため、そんな佳境をくぐり抜けられる体力と忍耐力が必要となってきます。
はっきり言うと、やわな人にはかなり難しい仕事です。
そもそも普段からドレスを作る際に、丸一日立ちっぱなしの作業×2週間、ということもありますし、ドレス自体大きくて重く(装飾物によっては5キロくらいになるものも)、そんなドレスを扱いながらミシンを踏み続けて腰や首や腕を痛める…なんてこともザラにあります。
そんな日常の作業にも耐えられない人をたくさん見てきました。
その上、納期前やコレクション前は、毎日休みなしで終電まで残業、連日徹夜なんてことも起こります。
オートクチュールのドレスは生地を作る段階から始まることもあるので、いくつもの加工屋さんの工程を待ったり、パターンが来るのを待っていたりすると、皺寄せがくるのはどうしても仕上げをする縫製士なので、限られた日程で貴重な生地・素材で美しく仕上げるというプレッシャーも重くのしかかってきます。
そんな辛い仕事も、一緒に乗り越えている仲間を見ると、みんなしっかり一日三食食べ、寝れる時は寝る、普段は体調管理を徹底していて、
文句を言いながらも(文句は時にお互いの励ましの言葉でもあります)各々責任を持って最後まで仕上げている姿を見ると、
そういうことがきちんとできる人が向いている仕事なんだなと感じます。
(書いてて思い出して辛くなってきた…笑)
華やかな世界に見えて、作業はものすごく地味だし、辛いことの方が多いです。本当に。
だからこそ、資本となる体力と忍耐力はとても大事なのです。
③性格・才能
モノづくりはどんなこともですが、必ず個性が出てきます。
同じものを同じやり方で製作していても、微妙に雰囲気の違うものが出来上がるものです。
そこには、やはりそれぞれの性格や才能が関係しています。
繊細なドレスを縫い上げるドレス縫製職人になるためには、正直な話、性格・才能的にも、向き不向きがあると思います。
ドレスを縫うだけなら、経験と努力次第で誰でもできる仕事ではあると思います。
ですが、オートクチュールのドレスというのはただ与えられたパターンで縫うだけではありません。
パターンの寸法忠実に仕上げることは大前提で、丁寧な縫製(縫い目が均一、ヨレ・ツレがないなど)に加え、より美しい仕上がりになるにはどうしたらいいかを自ら考え模索し、デザイナーの意向を汲み取りながら製作すること、また、指示された縫い方よりもいい方法があれば提案してデザイナー・パタンナーと共に最上のものを作り上げていくことも必要です。
性格としては、執着気質である人が向いていると思います。例えば、
・指示されまものを正確に作る几帳面さ
・細部の細部までこだわる凝り性
・妥協せず作り続ける徹底さ(完璧主義)
・高価なものを美しく仕上げることに対する責任感の強さ
・納期までに仕上げる計画性
・より良いものにするために様々なことを探求し続ける好奇心の旺盛さ
こんなタイプの人であることです。
まぁ、几帳面すぎてもダメ(こだわり過ぎて仕事が進まないみたいなことになる)ということもあるので、これらの性格をベースに持ちつつ臨機応変な対応ができると尚良しです。
そして、もっと厳しいことを言うと、才能の有無も大きく関係してきます。
基本的に、
・細かく丁寧なモノづくりができる器用さ
・美しさを判断する審美眼
・平衡感覚
・工程や完成品をイメージする想像力
・力のさじ加減
・色彩やバランスのセンス
こんな能力が必要となってきます。
能力は、努力次第で身につけることができます。
しかし、やはり感覚的なものが多いため、生まれつきの才能かなと感じることもあります。
ですが、何度も言いますが、だからといってこの仕事が絶対にできないというわけではありません。
才能は努力の結晶という意見もあるように、努力次第でできることの方がはるかに多くあると思っています。
私も本当に才能のある人を目の前にして、めげそうになることはよくあります。
しかしそんな時は、自分にも自分にしかない個性があるということ、自分だってこれから経験を積んだり努力すれば超えられるかもしれないと信じること、そしてドレスが好きな気持ちだけはブレないということを自分に言い聞かせ、己を鼓舞しながら日々頑張っています。
④ドレス愛
色々書いてきましたが、もうなんと言ってもこれです。
これがあれば、と言っても過言ではないかもしれません。
一番言葉で説明が難しいものですが、
とにかくドレスに対する愛、これが気持ち悪いくらいにあることがドレス縫製職人になるための絶対条件となると思います。
アイテムを“ドレスだけ”に絞ることは実はかなりリスキーなことです。
普通のアパレルの縫製職なら、シャツ、ジャケット、パンツ、スカート、ワンピース…など、あらゆるアイテムを手掛けることになるので、それだけ縫製技術も幅広くなりますし、転職先も多くあります。
しかし、ドレスとなるとブランド・会社自体少なく、就職先も限られますし、縫製技術もドレスに特化してしまうと他のアイテムを縫うことはほとんどできなくなってしまいます。
※そのことについてはこちらの記事にも詳しく書いています↓私が〝ドレス専門の〟縫製職人と名乗るわけ
そんなリスクを負ってでも、またどんなに辛い仕事環境においても、この仕事をしたいと思えるかどうか、そこにはドレス愛が深く影響してくると思います。
人それぞれですが、ドレスが好きな人の主な特徴としては、
・ドレスを見てるだけで幸せと感じる
・何をしててもドレスのことを考えている&着目しがち(例えば、映画でドレスが出てきたらストーリーや役者よりもドレスばかり気になるなど)
・刺繍やレース、ビーズ、パールなどのキラキラしたものやお花など、華やかな装飾が大好き、触っているだけで幸せ
・展示されているドレスを舐め回すように見がち
・ドレスを見るとうっとりしてため息が出たり無意識に「かわいい…」と呟く
など。まぁ所謂オタクですね。
「変人」はもはや褒め言葉だと思っています。
そして、ドレスに深い愛情を持っていると、素材の扱い方も丁寧になり、必然的に素敵なドレスが作れるようにもなります。
「ドレス愛なら誰にも負けません!」
と、私も言いますし、よく聞きますが、上には上がいるものです。
言葉に出さずとも、それが滲み出てる人は本当にたくさんいます…
私の尊敬するドレスデザイナーさんたちもそうですね。
そういう人たちが作り出すものはやはりとても素晴らしくて。
私も、もっともっとドレスを愛して、素敵なものを作りたい…!と常々感じています。
ドレス縫製職人になるために進んでやるべきこと
上記で才能の話に触れましたが、才能の有無関係なく、日々の努力は必要です。
それは縫製のテクニックを練習するということだけではなく、積極的にドレスを研究したり、美しいものを作るための感性を磨いたりといったことも含まれます。
「ドレス縫製職人になるために」と前書きしましたが、現在も、これからも続けていくべきと思うことを書いていきます。
①美術館へ行くなどして、審美眼を養う
これは、アーティストなど、モノづくりに関わる人全てに必要なことです。
そして、誰でも、何歳からでも始められることでもあります。
美しいもの・良質なもの・本物に触れる
これは、早く始めれば始めるほど、機会が多ければ多いほど力になります。
ドレスを作る上で本当に大切だなと思うことは、「何が美しくて何が美しくないのか」の判断ができる力です。
これは、感性的なものもありますが、決して養えない力ではありません。
本物を知っていれば、そこまでの高みを目指せます。
けど、知らなければそこまで。
場合によっては時間や予算の都合で、最上のものが作れないこともありますが、良いものを知っていてあえてそこまでではないものを作るのと、最初から良いものを知らずにある程度のものしか作れないのとでは、とてつもなく大きな差があります。
見てもわからない、自分なんかこんなレベルのものは作れない、と言って目を背けるのではなく、
わかろうがわかるまいが関係なく、とにかくひたすら美しいものを見ること。
審美眼はそうして養われていきます。
②本やアプリで、どんなデザインのドレスがあるかを写真でひたすら見る
ドレスに見慣れるための一番簡単な方法です。
ドレスと言っても、本当に色々な種類、ブランド、流行などがあります。
その量は膨大すぎて、全てを追うことはできませんが、できるだけ多くのドレスを見ておくことが大事です。
私がいつも見るポイントとしては、
・第一印象
・デザイン(形、色、ディテール)
・ブランドと生産国(それぞれの特徴)
・縫製の仕組みや丁寧さ
・自分で作る場合に活かせるデザイン、パターン、縫製などをイメージする
といったところです。
ツールは、Instagram とPinterest が主で、本ではVogue Wedding や各ブランドの新作ドレス冊子などで流行をチェックしたり、文化服装学院の図書館(在校生と同窓会員のみ入館可)で輸入雑誌などを見ることもあります。
③1着でも多くのドレスを実際に見たり触れたりする
ドレスを直に見ることができる機会というものは意外と少ないです。
ですが、やはり写真と実物では大きな違いがあります。
なので、1着でも、ドレスを見る機会が巡ってきたら足を運んで見に行くようにしています。
主な手段としては、
・美術館や展覧会での展示
・ドレスショップなどのディスプレイ
・友人の結婚式ドレス選びの付き添い
・無料のブライダルフェア(予約なしで誰でも入れるところ)
実際に見る場合は写真とは見方も変わってきます。
写真を見る時のポイントもですが、それにプラスして、
・素材や生地の質感
・装飾やディテールの細部の作り
・全体のボリューム感
・360度様々な角度からの見え方
・写真とのイメージの違い
・人が着た時のドレスの動きの確認
などを確認します。
欲を言えばドレスの内側の構造(裏側)も、ドレスやブランドにより様々なものがあるので、可能であればチェックしたいところです。(試着できるチャンスがあれば尚良し)
展示ドレスは裾の中を覗いたりすることも…
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私の場合は、専門学校卒業ののち、老舗のウェディングドレス会社に縫製職として就職してそこでドレスの縫製の基礎的な技術を身につけました。
1着丸縫いできるようになって、自分が好き・得意な技術を突き詰めた結果、より高度で美しい縫製が求められるオートクチュールを専門としていきたいと思うようになり、手縫いの技術を磨くためパリに刺繍留学してみたり、自分のペースでドレスを製作する時間を確保できるようフリーランスになったり、アーティストとして作品作りをして自ら技術の検証・追求をするようになったり、という現状になりました。
ドレス縫製職人になるためにはどうしたらいいかという正確な答えはありません。
それだけこの仕事をしている人は多くないし、日本にドレスの会社やアトリエ自体少なく、日本人はドレスを着る機会もあまりないため、需要もないからです。
私も、ドレスだけを作る人になるためにはどうしたらいいか、10年前からずっと模索し続けてここまできました。
もちろん、運もありましたが、やはりチャンスを逃さない行動力と、自分が作りたいものに必要な技術を取り入れるための挑戦、そして人との縁を大切にしてきたことで、夢を叶え好きな仕事をし続けることができていると思います。
私もまだまだ挑戦者です。
フリーランスの今、明日仕事がなくなることだって当たり前にあり得ます。
そんな時に、他の収入のいい仕事や普通のアパレルの会社で働くのではなく、“ドレス”を作り続けるためにはどうしたらいいか。
ドレスから離れなくて済むようにするためには。
私はまだまだ技術を磨きます。
私の技術を認めてもらい、私にドレスを作って欲しいと思っていただける人を増やすために。
というわけで、新たなチャンスを求め、8/5からワーキングホリデーでパリに行ってきます☆
一年後、レベルアップして帰って来れますように…!!
2019.7.7 まや
いつもありがとうございます! サポートいただけたら、仕事ではなく、ただ好きなこととして、自由にデザインした個人的な作品ドレスを作るための材料費の一部に当てさせていただきたいと思っております。