食糧危機は本当なのか?(それと余談)
<本編>
昨今、将来の食糧危機が議論されている中、例えば日本の農林水産省の2050年の世界の食糧需給予測モデルは、価格を媒介とした各品目の需要と供給を世界全体で毎年一致させる「部分均衡分析モデル」を採用し結果を簡単に説明すると、北米、中南米、オセアニア、北欧のすでに豊かな国では2010年に比べて食糧供給の増加量が食料需要の増加量よりも上回るため、純輸出量が増える。その一方で中東やアフリカでは経済発展と人口増加により、食糧需要の増加量が食糧供給の増加量を大幅に上回り、純輸入量が大幅に増える。そして、アジアでは米の純輸出量が増え、小麦は食生活の多様化により、トウモロコシや大豆は飼料用の需要増加により純輸出量が増加すると予想されている。
つまり、このモデル通りであれば2050年では食料危機は起こらないとも言える。ただ、高所得国での輸出量が増え、発展国での輸入量が増えるという状況は、高所得国側の外交上の切り札となりうるために、発展国では食料自給率が問題視されるだろう。
ちなみに、日本に関しては言及されていなかったが、人口がここから大幅に増加するとは思えないし、急激な経済発展が起こるとも思えないため、食糧需給は数十年たっても変わらないままだと予想できる。ただ、この日本の食糧需給を問題視する声もある。
日本の農水省によれば日本の食料自給率は4割弱という結果が出ており、他の先進国と比較して低いという主張がある。しかし、この数値はカロリーベースで計算した食料自給率であり、このカロリーベースを基にした食料自給率の算出は世界でも珍しい。
国際基準の自給率は生産額ベースで算出されているが、これによると日本の食料自給率は7割弱という結果になる。この算出方法による結果のギャップは、生産している品目が野菜などのカロリーの低い物であればカロリーベースでは低く算出されてしまうことある。
ただ、食料自給率という概念自体に欠陥もある。それはその国の地域の気候や土壌によって生産できるものと出来ないものがあるため、仮に食料自給率が100%であったとしても、自国で生産できない品目に関しては輸入に頼る必要がある。そのため、自国の食料自給率が100%だからと言って、世界的な食糧需給とは無関係とするわけにはいかない。少なくとも輸入に頼っている品目に関しては世界的な動向を見守りつつ、あわよくば技術支援を行わなければならない。
さらに言えば、日本では農業生産者の高齢化や、農業人口の減少が問題視されている。この問題を解決するためには、農業の制度上の問題を解決する必要がある。それは農水省によって、新規に企業規模の農業の参入が妨げられている点にある。企業規模の農業であれば業績によって雇用者、つまり農業従事者を増やすことができるし、株式会社として資金を調達して企業規模が拡大すると共に、農業の経営規模を拡大することができる。しかしながら、現段階では企業規模の農業が特区のような場所を除いて認められていないため、現在のような農業の問題が起こっている。
もし、日本において農業の生産性を上げようとするならば、農業法人を解体して企業で農業ができるように農水省が取り決める必要がある。日本の中で農業を産業として捉えて、企業規模の農業を増やし、大規模生産を行えば、日本の農業生産量は増加するし、輸出量の増加も見込める。
〈余談〉
一応自分の専門とも絡めて話してみますが、魚類の養殖なんかはまだまだ発展途上なので、採算が取れるようにするのが精一杯なんですよね…
【水産物養殖は食糧問題に解決策を与えるか?】
まず問題視せねばならないのは、食糧問題の議論に水産物、とりわけ魚類の生産量が含まれていないことである。これは水産物がまだまだ天然物に依存していることと、水産物の生産量の問題は水産物の資源量における問題の方が重要であるというが理由として挙げられる。つまり、水産物養殖は天然物との価格の均衡によって決まることを意味する。天然物が安ければ養殖コストを下げないとマネタイズできないし、 逆に天然物の量が減れば、養殖コストがある程度高くてもマネタイズできる。そして、養殖コストを限界にまで下げることができれば、天然物に依存しなくなるはずである。こういう状況になって初めて、水産物養殖は食糧問題の解決策の候補に挙がりうる。養殖コストを限界にまで下げるためには、そもそも養殖の採算が取れて養殖の研究が盛んなる必要性があり、採算の取れている魚種も増えてきているものの、食糧需給を語る上では現段階ではまだまだ未発達の分野である。
ただ、食糧需給だけではなく、食の多様性や豊かさの観点から水産物は重要な食糧の地位にある。高所得の国だけではなく、発展途上の国にも食の豊かさを提供する観点からは、水産物の養殖は非常に意味のある分野だと考える。