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子ども時代には不思議なことがいくつもおきる

波津彬子か今市子の漫画にあったセリフだと思うんだけど、どうしても思い出せない。子どもが不思議な体験をして、そのお膳立てをした大人が陰でつぶやく。「子ども時代には不思議な事がいくらもあるもんだ」

2020年の春、自粛期間の終わりに、わたしもおそらくは子どものおこぼれで、ちょっとふしぎな体験にあずかった。

ザリガニ釣りで、池の「主」にごあいさつ

うちの末っ子(5歳男子)が、「ザリガニ釣りに行きたい」と言い出したのは5月のはじめ、真夏のような暑さの午後だった。

オンラインの授業に追われる上の子どもたちに手がかかるせいで、自粛生活中、特にこの末っ子にはなにかと我慢をさせてきたように思う。

行きたいと言うのなら、行ってみようじゃないか。ザリガニ釣り。

持ち物は5つ。
タコ糸・ハサミ・さきいか(途中のコンビニで買った)・バケツ・網。
釣りざおは、現地で適当な木の枝を調達すればOK。

いざ、自転車で10分ちょっとの、ザリガニ池へ。

池のまわりには、4~5組の子どもたちがいた。
午後のけだるい暑さの中、みな思い思いに池をのぞき込んだり、釣り糸をたらしたり、網でさらったりしている。
つきそいの親たちも、ちょっと疲れた顔だったり、子どもの手から釣りざおをひったくりそうな勢いだったり、いろいろだ。

子どもは着くや否や大興奮で釣りざおになる木の枝を見つけてきた。そこに1mくらいの長さに切ったタコ糸を結んで、糸の先にサキイカをつけてやるのは、わたしの仕事。
池に深さがあるときは、サキイカをつけるのに書類を束ねるダブルクリップを使うと、重しにもなってよい。いつもそれを忘れてしまって、小石を代わりにくくりつけてしのいでいる。

手作りの釣りざおが完成し、子どもが「えいっ」と糸を池に投げる。
ここ最近の暑さのせいか、池には藻がびっしりと生えて、水が濁っている。ザリガニの姿は、見えない。

中学生になった上の子どもたちも、小さなころはここでよくザリガニ釣りをした。
だからわたしは知っているのだ。

この池のザリガニは、近隣の子どもたちが豊富にえさ(ザリガニ釣りのためのサキイカ)をくれるので、午後には満腹になってしまう。
そうするともう、ごちそうを目の前に垂らしたって、食いつきが悪いったらないのだ。

しばらくトライさせて、適当なところで諦めさせないとなるまい。それか、人の少ない畑の用水路のほうまで足を延ばしてみようか。

…と思っていたら、5分もせずに、子どもが大きな声で叫んだ。

「いた!」
ほんとうに、池の中の岩の上に、大きなザリガニがいた。しかも、こちらに手をふるようにハサミを向けているではないか。

「釣れた! 釣れたよ」
バケツと網を取って戻るその一瞬の間に、ザリガニはもう池の中からふわっと釣りあげられて、子どもの足元にいた。

体長が20㎝くらいもあるような、ちょっと見たことがないくらい大きなザリガニだ。
小さなバケツに、窮屈そうにおさまった。

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忘れられないのは、ここからだ。

いつもならテントウ虫だのダンゴ虫だの、見つけたら持って帰って飼いたいとせがむ子どもが、「池に帰す」とすぐに言う。

「えっ、いいの?」
何回聞いても、答えは同じ。たしかに飼うのは大変だから基本はいつもキャッチアンドリリースだけど、でも、今の今よ?
バケツの蓋を外しつつ、もう一度聞いてしまう。「いつもみたいに、お家に帰るときに、池に戻してあげたらいいんじゃない?」

「池に帰す」子どもがもう一度そう言ったとき、ザリガニが、大きく跳ねた。尻尾をぶんと振り上げて、バケツのふちを叩き、ぐるんと宙返りして外に飛び出したのだ。

びっくりしているわたしと子どもの目の前で、ゆうゆうと池のふちへ向かって歩いていくその背中に、かろうじて「バイバイ」と「ありがとう」を叫ぶ。
なんと、釣ったザリガニが自分で、池に帰っていった。

そして、そのあとはもう一匹も釣れなかった。

子ども時代には、不思議なことがいくつも起きる。
あれは、池の主があいさつに来てくれた、としか思えない出来事だった。

虫・虫・虫修行!

自粛中だった2020年の春、子どもの体力発散のために、人通りの少ない畑沿いの土手を毎日うろうろしては、たくさんの命が芽吹くのを見た。

桜のつぼみが、満開のぼんぼりになって、散り、小川の花筏になる。
土手にはカラスノエンドウのつるが伸びて、やがて小さなお豆のさやが実る。

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子どもの背中を見下ろしていなければ気がつかなかった、1㎝ほどの小さなしゃくとり虫を見つけたり。

葉っぱから今まさに飛び立とうとしている、かわいいテントウ虫に気がついたり。その周りに点々とグロテスクな幼虫を発見してのけぞったり。もちろん、近くにはびっしりとアブラ虫もついている。

ダンゴ虫の赤ちゃんが小さくても丸まること。ひらひら舞うちょうちょはモンシロチョウ、モンキチョウからアゲハへと増えていくこと。

女王アリの結婚飛行も見た。生まれてはじめて!
ものすごく久しぶりにオタマジャクシも捕まえた。もう足が出ていて、あっという間にカエルになった。

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足元の葉っぱが揺れて、しゃがんでみたらバッタの赤ちゃんがたくさん跳ねていたことも!

自粛生活は、本当に大変だったし、きっとまだこれからも続く。
活動範囲が狭められる、息苦しさがある。

けれども、足元にも宇宙は広がっている。
小学生だったころ、大きな水たまりをまたぎながら、もしアリになったらこの水たまりが海のように見えるのだろうかと想像したことを思い出す。

子どもと一緒にいろんなことを再発見した春だった。

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葉桜になった桜の幹に、琥珀のような樹液。

6年目にして母子の蜜月、お散歩タイム

ところで、上の子どもたちと年の差でわが家にやってきた末っ子と、実はこれまで2人で公園にいったりしたことが、ほとんどなかった。

上の子どもたちの学校の用事があるし、仕事も忙しいし。
姉弟で遊びにいってくれるし。…言い訳はいくらもできる。

自粛期間中は、保育園をお休みしていた末っ子と、1~2時間の散歩に行くのが日課だった。ずっと家にいると、わたしも子どもも息がつまってしまう。人通りの少ない畑の横の土手をずーっと歩いて、公園に少し寄って家に帰る。

それだけだったけれど、特別な時間だったと感じている。きっと、わたしだけでなく、子どもも。

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「つつじの蜜を吸うときは、犬のおしっこがかかっていない、上の方の花を選ぶと安心」
とかね、大切なことも伝えられた気がするよ。

きっともうすぐ長い梅雨が明けて、本格的な夏がはじまる。
その前にありきたりだけど言わせておいて。
なんでもない日に、ありがとう。

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