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決めつけない人③

人生初めて書いた、小説めいた代物。

提出してホッとしたというより、
何かを言の葉に移すという事が
こんなにもエネルギーを使い果たすもののか?
という事に衝撃を受けていた。

振り返ってみて、
ずっと疑問が拭えない事があった。 

そもそも、何故私に参加の打診が?
そして、何の経験も知識も無い自分が
二次審査に進めたのか…。
モヤモヤしたまま数日が過ぎ、面接の日を迎えた。

10/9(月)
朝から冷たい雨の降る、善き日だった。 

事前に届いた面接に際しての案内メールには、
こう書き添えられていた。

"自分のたぎる想いを表現できるもの
執筆した作品などがある場合は、
面接会場までご持参ください。"

なにしろ、"執筆"は生まれて初めてだったから
作品と呼べるものはなかった。

部屋に積まれていた、
まだ額装されていない書を収めたファイルを
何冊か詰め込んで家を出た。

雨の匂いを肌で感じながら、穏やかな氣分でいた。
少し早めに出たので、近くにあった神社へ
ご挨拶に立ち寄ってみた。
ビルの谷間にある小さな神社。
大國主様の社だった。

面接会場があるビルへ向かう。
少し前に受付に伺い、雨の雫を拭いながら待機。
暫くして、スタッフの方が迎えに出て来られて
面接の流れを説明して下さった。

到着から面接中、終わってからのインタビュー、
ビルを出て帰る姿まで、ドキュメンタリー風に動画撮影されるとの事で、カメラマンとしてずっと同行して下さった。

審査員のお一人で、
私に参加の打診メールを下さったご本人が
いらして面接会場の会議室まで案内して下さった。

道々、冒頭に書いた疑問をぶつけてみる。

私の描いた書を見て下さり、小説界にはかつてない新しい風を起爆剤にして、
芸術の存在意義を広めたい想いが返ってきた。

なるほど。
我ながら、ちょっとだけ納得。
歩きながらお話するうちに、会場に到着。
面接スタート。

着席した正面にいらっしゃる審査委員長の背後、
上方にある神棚が視界に入って、
緊張が一瞬で落ち着いた。

更には、同じく背後の棚に
大きなブタのぬいぐるみが!!
(ブタ好きな私…)
なんだか、もう、完全にリラックスして
もはや楽しくなってきていた。
始まる前の数秒で緊張が全て消えていた。

まずは、ホワイトボードに書かれた
3つのテーマに対して
私の想いを自由にお伝えする時間。
あまり悩まずに言葉が出てきた。 

それから、審査員の皆様からの質問が続いた。
提出した作品の内容について、いろいろと細かく
聞かれるのかなぁ…?と予想していた。

それはほとんど無かった。

創作を通じて私が何を届けたいか?
想いや私自身の向き合い方に関する、
心の深淵に切り込んだ質問が繰り返された。

夢中だったので、詳細を覚えていないけれど、
丁寧に、飾る事なく、
湧き上がってきた想いを返しながら、
同時に自分の中で何かがパズルのピースが
ひとつひとつ、正確にはめこまれていくような
そんな感覚があった。
質問に答えながら、何か自分を整理整頓するような。

あっという間に決められた1時間が迫り
最後に審査委員長からのお話。

締切三日前にようやく書き始めた事、
綿密な準備なく、浮かんだ世界を書かされた感覚で仕上げた事を正直にお伝えすると、苦笑いされていらっしゃった。

作品の批判は控えて、
作品として読者を惹きつける要素となるものに
どんなものがあるか?
を分かりやすく、誠意を持って説明して下さった。

リアルタイムで、小説の書き方講座をマンツーマンで
受けているような贅沢な時間だった。

自分の書いた作品は、作品と呼べるようなレベルでは全く無いと自覚していたので、
そんな稚拙な作品でも、時間をかけて読んで下さったことにひたすら感謝しかなかった。

面接終了の時間間際に、

「私は、小説作品が無いので、
それに代わるものを持参したので
見て頂けますか?」

と。伝えてみた。

みなさん、見たい、見たい!
と、熱心に見て下さった。
そこからまた、いくつか質問を頂いたりした。
私の方が面を食らったくらいに、みなさん、
本当に嬉しそうに興味深く見て下さった。

ちょっと泣きそうになった…。
書ききれないほど、ミラクルな会話が飛び交って
面接終了。

試験のような感覚で臨んだ二次審査は、
贅沢な學びと素晴らしい出逢いの場だった。

あの可愛いブタさんを
参加賞でもらいたいなぁ…
なんて、バカなことが浮かびながら
お礼をお伝えして、会場を後に。

別室に案内されて、
最後に少しお話をする。
次のコンテストに参加される方への
メッセージ動画の撮影をします。
と。
ぶっつけでカメラ目線で浮かんだ事を話す。

1時間少しの時間だったけれど、
本当に貴重な経験をさせて頂いた。
人と人、ちゃんと会って話す大切さを
また実感。

そうそう、話を少し戻して、
面接の最後に私の書を熱心に見て下さって、
何度も何度も、

「生で見せてもらえて良かった!」

と伝えて下さった審査員の方が、急に
手を止めて私を見て、

「繊細なところを
ご自身で感じることありますか?」と。

昔から、自分では、雑で大雑把で
ガサツでしかないと思っていたけれど、
友人達からは、誰一人残らず、
繊細な人だと言われる…という事を
伝えると、

「そうですよね…この、
生で拝見した墨の感じから伝わってきたので。
もしかしたらそうかなぁ?と。」

とても遠慮がちに、少しだけ
嬉しそうにおっしゃっていた。

審査中、メインで鋭い質問を繰り返しされた方。
質問ひとつひとつに誠意が溢れていて、
自分が求める答えを得ようと探るのではなく、
目の前に居る私がどんな想いで坐る人かを
寄り添い、知ろうとする優しさが終始、
伝わってきた。

商業的な何かをどうやって生み出すかよりも、
人として、どんなふうに豊かに生き、
それが誰かの琴線に触れて広がっていくか。

お金では買えない大切なものの尊さを
見据えていらっしゃるように感じた。

何ひとつ決めつけずに、
真摯に向き合う姿勢。 
私もそう在りたいなと。

不思議な流れで、
貴重な経験をさせて頂いた。
本当に。
何より、楽しかったな…。
経験することに、
何ひとつ無駄なことは無い。

辛いことが続いて、
心が折れそうな毎日だったけれど、
それを乗り越えるための
嬉しいことも
ちゃんと起きるようになっている。

自分を信じて許すところから。
少しずつ動き始めたんだなぁ…と感じる。

面接終了後、忙しくてなかなか出られなかった
同期と後輩のヨガクラスに久しぶりに出て
高揚した心を鎮めてから帰宅。

玄関で、
おかえりなさい、頑張ったね
と、花達が静かに待っていてくれた。

ただいま。
ありがとう。

氣付かないうちに
たくさんエネルギーを費やしていた
身体と心。
ゆっくり戻していこう。








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