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FL50mmF1.4IIの素晴らしいポテンシャル
1968年のオールドレンズ
キヤノンが1968年にリリースした「FL50mm F1.4 II」なるオールドレンズを気に入って使っています。私が購入したのは15年以上前ですが今でも変わらず中古品の相場が8,000円〜10,000円程度と安価。オールドレンズの価格が軒並み値上がりしている中で、このFL50mm F1.4IIは余程人気が無いのか価格も低空飛行を続けています。
F1.4の被写界深度
開放値F1.4で写すと、被写界深度の浅さ(=ピントの合っている範囲の狭さ)が印象的な写真となります。以下、絞り開放F1.4で撮影した写真を集めてみました↓
上記はキヤノンのミラーレス一眼「EOS R」にマウントアダプター経由で「FL50mm F1.4II」を装着して撮影した階段。ピントは中央にある茶色いベンチに合わせていますが、その手前は激しくボケが出ているのが分かります。
ピントを合わせた中央の解像度は必要十分と考えますが、拡大表示すると(上記画像をクリックいただくとFlickrの掲載ページに飛び、拡大表示が可能となります)レンズのフリンジ(=色収差。境界線に緑や紫の色が生じる現象)や滲みが確認できます。また開放値で撮ると四隅が暗くなる周辺減光も強く出るのが分かります。
上記写真でボケの感じを確認すると、後ろの木々のボケ感がややザワついているものの、それ程イヤな感じは受けません。いわゆる「トロけるような」感じとは違いますが、手前に写る照明スタンドと背景もしっかり分離できていて良い描画と考えます。
私はオールドレンズによく見られる「ぐるぐるボケ」と言われる渦を巻くようなボケ感が生理的に苦手なのですが、この「FL50mm F1.4II」は、そうした渦巻き状のボケでは無いのも利点です。
夕暮れの団地を撮影(F1.4 , 1/320 , ISO 400)。中央に写るオレンジのミラー板はしっかり解像してくれていますし、何よりこれだけ暗くても黒潰れせず階調がしっかり再現できているのは素晴らしいですね。
並んだワインボトルを撮影(F1.4 , 1/320 , ISO 200)。こうした直線的な構造物を撮影しても歪曲が少ないため違和感がありません。距離と明暗が複雑に絡む写真ですが、手前のボケ感も良い感じに溶けています。奥の木々はやや「ザワついた」ボケ感ではありますが、全体的にエモーショナルな描画をしてくれると考えます。
川の止水弁ハンドルを逆光で撮影(F1.4 , 1/1250 , ISO 400)。印象派モネが描く水面のような玉ボケが気に入っています。
カフェにて次女を撮影(F1.4 , 1/250 , ISO1250)。彼女の右目にピントを合わせています。まつ毛も判別できる程よい解像度がありつつ、開放で撮影すると全体的にフワっとした柔らかな描画になってくれます。
また、着座した場所、背景が店のカラトリー置き場になっていたのですが、絞り開放にすることで、そうしたゴチャゴチャがボケで飛ばせたのも良かったです。
パン屋の会計を撮影(F1.4 , 1/200 , ISO 100)。レジを打つ一番手前の女性に合焦したものですが、周辺減光の作用で中心の人物にフォーカスされた感じに写ってくれています。
マニュアルフォーカス時代のレンズはピントリングの感触も適度なトルク感があるので慎重なピント合わせがしやすいものですが(&その感触を愉しむものでもありますが)、私の持つFL50mm F1.4 IIは、グリスがやや硬くなってきており、どこかのタイミングで分解メンテが必要そうです・・・
自宅にて(F1.4 , 1/80 , ISO 640)。FL50mm F1.4IIの最短撮影距離は60cmなので、テーブルフォトは正直苦手。上記写真を撮る際も結構ギリギリまで引いて撮っています。
ボケ感は盛大に出て、輪郭も程よく溶けていて気持ち良いのですが、若干”引っ張られ”感のあるボケ味なのは否めません。ただ、全体的に言えることですがイヤな感じの写りにはならないのが、このFL50mm F1.4IIの良さだと考えます。
歪曲と周辺解像度
FL50mm F1.4IIのレンズ歪曲と周辺解像度を検証してみます↓
開放値F1.4で撮影すると、中央ど真ん中こそ、それなりに解像していますが全体的にモワっとした滲みある柔らかな描画となります。
加えて周辺減光も相応にあります。歪曲については若干見られるものの、わざわざ手作業で補正する程では無い印象です。
F5.6まで絞ると、いっきに現代的な写りになりますが面白味はまったくありません。敢えてこのレンズを使う意味を見出せないので、オールドレンズを愉しむなら、やはり絞りは開放値付近が良さそうです。
接写リングで最短撮影距離をコントロール
FL50mm F1.4 IIの最短距離は0.6mmですが、いわゆる「接写リング」を用いることで、最短距離を縮めることができます。キヤノンが1970年代に販売していたFDレンズ接写リング「エクステンション・チューブM」がFLレンズにも装着できるので、これを流用してみます。
この「エクステンション・チューブM」、50年も前の品ですが、いまだにメルカリ等で2,000円〜3,000円で見かけます。
ちなみに上記は「M5」という5mmオフセットするためのリング。この接写リングをカメラとレンズの間に咬ませると下記のような接写が可能となります↓
ちなみに、上記時計はセイコー・メカニカル「SARB035」。端正な面持ちを持つ「Poor man's Grand Seiko」(貧乏人のグランドセイコー)の愛称で親しまれる(?)名機です。
FL50mm F1.4IIは、もっと評価されて良い
FL50mm F1.4 IIは、昨今のキレキレなデジカメ専用レンズに飽きた人や、違ったアプローチで撮影したい人には趣きある写真が撮れる手頃なレンズとして重宝する1本ではないでしょうか。
正直、FL50mm F1.4IIは、もっと評価されても良いレンズと私は考えます。〔了〕