ホビーシーンの転換点、ホビージャパンの「松本零士」特集とは?③
ここまで月刊ホビージャパン(以下、HJ)で組まれた2回の「松本零士」特集を読み解いてきた。最初はスケールモデル中心のホビーシーンに一石を投じる「異色特集」、次は松本零士の架空機を表紙にフィーチャーした挑戦的な企画だった。
そして、3回目は、いよいよ本格的にキャラクターモデルが前面に出てくる。タイミングは1978年の春、『機動戦士ガンダム』放映開始の1年前だ。
HJ誌上初、キャラクターモデルの表紙
HJ 1978年5月号の「総力特集 松本零士の世界 PART-3」は、過去2回の特集の反響を受けて組まれている。目次に書かれた説明文を引用する。
「前2回を上回る規模」と書かれているとおり、26ページが割かれている。さらに、これまでの「松本零士」特集は、メイン特集があったうえでの第2特集の扱いだったが、今回は堂々の巻頭特集である。
掲載されている作品は、これまで通り『戦場まんがシリーズ』から「鉄の墓標」「オーロラの牙」「零距離射撃88」「夜の蜉蝣」「亡霊戦士」のほか、ついにSF作品『銀河鉄道999』が登場する。
この号の表紙は、松本零士が描くメーテルと星野鉄郎を背景に発車する銀河鉄道999の模型。999は、オオタキ製1/50スケールC-62蒸気機関車の改造作品(八木繁 作)だ。柿沼秀樹著『HOW TO BUILDホビージャパン ガンプラブームを作った雑誌ができるまで』(ホビージャパン刊)によれば、キャラクターモデルがHJの表紙を飾ったのは、この999が初めてのこと。ついに漫画のキャラクターがHJの顔を飾ったのだ。なお、『銀河鉄道999』アニメ放映開始は1978年9月なので、この特集が出た4月は漫画原作しか存在していない。
特集の軸は「戦場もの」から「SFもの」へ
特集の前文は「氏の語る戦場そしてSF」という見出しからはじまる。松本零士が描く『戦場まんがシリーズ』とSF作品の共通項を考えながら、日本人の魂にまで言及する熱いテキストだ。一説を引用する。
SFのキャラクターモデルを「戦場もの=ミリタリーのスケールモデル」と同様にとらえられないか、そんな編集部の意図が感じられる。
特集の中には「松本零士 オリジナル・メカ」と題して、SF作品のカットやアニメ用設定画を紹介したページも用意されている。ガンプラブーム以降、当たり前になったメカの「設定画集」である。
その中で、アルカディア号搭載戦闘機スペースウルフ(※)について「どこかのメーカーから準スケールモデルででないものか」と書かれているのが印象的。玩具の延長としてのキャラクターモデルではなく、HJで取りあげられる本格的な模型を求めた声だ。これは読者を代弁してのコメントかもしれない。
読者から寄せられた松本零士作品のイラストも、「われら零士ファン」として見開きで紹介されている。『戦場まんがシリーズ』以上に、『宇宙戦艦ヤマト』や『宇宙海賊キャプテン・ハーロック』の投稿が目立つ。読者モデラーの嗜好も「SFもの」へと広がってきた証拠だ。
1978年は、『未知との遭遇』と『スター・ウォーズ』というSF大作が日本に上陸した年でもある。筆者の推測というか妄想に近いが、表紙のキャラクターモデル採用、そして特集の前文の内容からも、編集部はSFブームをうけて「来るべき新しいホビーシーン」を予感していたのかもしれない。「異色」からはじまった「松本零士」特集、3回目にしてキャラクターモデルを軸にした模型の楽しみ方をホビーシーンに宣言したのである。
※:スペースウルフのキット化は、本特集の33年後に実現。ハセガワからクリエーターズ・ワークス「CW01 スペースウルフ SW-190(宇宙海賊キャプテンハーロック)」として、2011年12月に1/72のキットが発売された。
「松本零士」特集の時代背景 ~1978年のおもなトピック~
第3回「松本零士」特集が出た1978年は、SFブームに拍車がかかった年だった。なんといっても映画『スター・ウォーズ』の日本公開の影響は大きい。映画『宇宙からのメッセージ』、その造形や美術を流用した特撮ドラマ『宇宙からのメッセージ・銀河大戦』は、どこからどう見てもスター・ウォーズの影響を受けている。
アニメ作品では松本零士関連作が目立つ。極めつけは『銀河鉄道999』だろう。また、NHKで放送された『未来少年コナン』や『キャプテン・フューチャー』など、ロボットものとは一線を画すSF作品が登場している。
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