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ホビーシーンの転換点、ホビージャパンの「松本零士」特集とは?④
70年代後半にHJで3回にわたって展開された「松本零士」特集は、スケールモデル中心のホビーシーンに、「漫画を題材にプラモデルを好きに楽しんでいい」「架空の兵器やSFだって模型のジャンルだ」と、あらたな切り口を提案してきた。
そして時代は1980年代に突入、HJは1980年10月号で4回目の「松本零士」特集を組む。それは、過去3回からホビーシーンのあきらかな変化を感じさせる内容だった。
キャラクターモデル中心につくられた特集
HJ 1980年10月号の巻頭特集は、「好評特集 松本零士の世界 Part.4」。表紙こそ特集定番の『戦場まんがシリーズ』の作例だが、冒頭のグラビアページからアルカディア号やメーテルと星野鉄郎のフィギュアが登場する。あきらかに特集の主役は、SFのキャラクターモデルだ。
特集の中身に触れる前に、第3回と第4回の特集の間にホビーシーン周辺で何が起きていたのか確認してみよう。おもにその後のSFアニメを中心としたキャラクターモデルのブームに関連する流れを時系列で整理した。
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『スター・ウォーズ』公開、『機動戦士ガンダム』放映開始とプラモデル発売、SFアニメ関連雑誌の創刊など、その後のホビーシーンに大きなインパクトを与える動きが同時多発的に起きているのがわかる。こうした背景をふまえて、第4回の特集に目を向けよう。カラーページ掲載の前文を引用する。
キャプテン・ハーロックや銀河鉄道999、宇宙戦ヤマト、そしてコクピットをはじめとする戦場マンガ・シリーズ。松本零士の描くマンガの世界は、我われに夢とロマンを与えてくれる源泉となっている。そのユニークな世界の主役たちを横型で再現する第4弾。
前述のとおり、特集の主役はあきらかにキャラクターモデルに変わった。「松本零士の描くマンガの世界」と書かれているが、999やヤマトの人気を考えれば、このマンガにはアニメも含まれていると解釈してもいいだろう。取り上げた作品もバラエティ豊か。さまざまな松本零士作品からの造型が並ぶ。
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作例数は、これまでの特集よりも圧倒的に多い。そして、15作例の内『戦場まんがシリーズ』出典は、わずか4点しかない。あとはSFもの、キャラクターモデルである。先ほどの年表にもあるとおり、SF人気はホビーシーンにおいても無視できなくなっていたのは明白。なんと言っても、この特集がガンダムのプラモデル発売開始時期とかぶっているのは象徴的だ。
4回目の特集が組まれた、もうひとつの背景
今回の特集は、最後に過去3回分の作品が「誌上リバイバル」として再掲されている。読者は、これまでの「松本零士」特集を総括する内容として受け取っただろうが、ちょっとしたHJの裏事情もあったようだ。この点については、柿沼秀樹著『HOW TO BUILDホビージャパン ガンプラブームを作った雑誌ができるまで』(ホビージャパン刊)に興味深い記述がある。
’80(昭和55)年10月号は、部数の向上のためには従来の人気特集の踏襲を、との主張どおり「松本零士の世界4」と題して同氏の作品の中から(中略)戦闘機やサイドカーを製作。タカラから発売されていたテレビ版「アルカディア号」を映画版へ改造。(中略)以前に掲載した作例十数点を一挙に再掲載しているが、これも人員不足の表れだ。(後略)
当時のHJは、社員の退社もあり、編集長と柿沼氏の実質二人で編集をしていたらしい。4回目の特集は、そんな厳しい編集体制の中、苦肉の策として過去の成功事例をふまえての企画だったわけだ。
ただ、筆者は4回目の特集を“事情の産物”と片付けてしまうのは、ホビー史的にもったいない気がする。それは時代背景をふまえて、作例の方向性が大きく変わっているからだ。初期の問題提起から、SFものをフィーチャーした切り口まで、「松本零士」特集は一貫してホビーシーンに新しい視点をもたらしてきた。結果論かもしれないが、この4回目ぐらい幅広く模型を楽しむ特集こそ、編集部が本当にやりたかった企画だったのではないだろうか。
HJ 1980年10月号「好評特集 松本零士の世界 Part.4」こそ、編集部が5年かけて到達した「松本零士」特集の完結編であり、当時のホビーシーンになかったキャラクターモデル文脈の編集企画のひな型となったと筆者は考えている。このHJの取り組みは、当時すでにはじまりつつあったガンプラブームで、さらなる企画へと昇華されていくこととなる。
松本零士の影響は終わらない
70年代後半からHJで4回にわたって展開された特集は、ホビーシーンにおけるメディア(専門誌)の役割として歴史的な意味がある。松本零士の作品世界が持つ魅力とホビーとの親和性を段階的に顕在化させた画期的な取り組みであり、キャラクターモデルのブームにつながる転換点となったからだ。
しかし、松本零士の存在は、過去の話にとどまらない。松本メカは、ミリタリーとSFの両面から、多くのモデラーにインスピレーションを与え続けている。メーテルやエメラルダスなど、氏の生み出した美女の多くは、のちの女性キャラクター造型に多大な影響を及ぼしている。それは今後も変わらない。松本零士作品から新たなプラモデルも登場するだろう。製品を手にしたモデラーたちは腕をふるって作例を発表するはずだ。松本零士の影響は終わらないのだ。
(おわり)
「松本零士」特集の時代背景 ~1980年のおもなトピック~
SFブームが盛り上がった1980年、最大の目玉は、スター・ウォーズの第2作となる『帝国の逆襲(エピソードⅤ)』だろう。また、『スター・トレック』の劇場第1作も本国の1年遅れで日本公開されている。
TVアニメは『伝説巨人イデオン』『無敵ロボ トライダーG7』といったサンライズ作品が目を引くが、本格的なリアルロボット路線へのシフトはもう少し先。
印象的なのが、アニメ・特撮とも、ウルトラマン、仮面ライダー、鉄人28号、鉄腕アトム、サイボーグ009など、過去タイトルのリバイバルや新作として発表されている点。
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