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マーチャンダイジングが変えたスポンサーのあり方

 アニメや特撮のテレビ番組において、マーチャンダイジング(おもに玩具やプラモデルなど)が権利者にとって大きな利益をもたらすビジネスとして成り立つ節目のひとつが、マルサン/ブルマァクによるウルトラ怪獣ソフビのヒットだった。しかし、当時の番組制作においてスポンサーの主流は、玩具メーカーや模型メーカーではなかった。
 では、番組制作を支えた“燃料”を投下したスポンサーは誰だったのだろうか。80年代のリアルロボットブームの頃、バンダイやタカラなどがスポンサーとして全面に出てきたが、その前の時代からの変化を振り返り、ホビー史との関連性を探ってみたい。


テレビアニメや特撮番組、一社提供の時代

 日本最初の長編テレビ用連続アニメ『鉄腕アトム』が、放送開始になったのは1963年の元日。毎週30分枠で放送されるアニメ番組の原点である。さらにマーチャンダイジングによるビジネスを確立したことも含めて、日本のアニメビジネスは、アトムからはじまった。しかし、スポンサーは玩具や文具など、マーチャンダイジングを手がけたメーカーではない。お菓子の明治製菓だった。
 それ以降のおもなアニメや特撮作品のスポンサーを以下にまとめてみた。その後のホビー史に関係しそうな作品を筆者が独断でチョイスしているので、「アレが抜けている」というご意見もあるかもしれないが。


60年代・70年代のおもな作品とスポンサー(筆者作成)

 60年代から70年代にかけては、一社提供の時代だった。2018年、国民的アニメ『サザエさん』が「50年続いた東芝一社提供ではなくなる」というニュースが流れたのをおぼえている人も少なくないだろう。表を見てもらうと明確だが、アニメ・特撮番組のメインスポンサーは、食品飲料・生活用品や家電の大手メーカーが名を連ねている。巨大ロボットの元祖『マジンガーZ』も、メインスポンサーは大塚製薬だ。今の視点では、意外なラインナップに見える。しかし、番組制作の“燃料”は、そういったメーカーが提供していた。
 前回、前々回と取り上げたマルサンも、ウルトラ怪獣ソフビでブーム玩具というマーチャンダイジングの新しい流れをつくったものの、あくまでも権利元から商品化権を得ての商売だった。もちろん、番組と連動した盛り上げにつながったが、メインスポンサーではなかった点は、改めて認識しておきたい。
 一社提供のスポンサーが増えた背景には、広告代理店の存在があるだろう。テレビが新たな媒体として成長していく中、子どもに訴求できる=家族の消費につながる「新しいコンテンツ」としてアニメ・特撮を売り込んだのは、想像に難くない。
 広告ビジネスという側面からも、60年代・70年代のアニメ・特撮のスポンサーの一社提供はブームだったのかもしれない。この段階でマーチャンダイジングは、あくまでも二次的なビジネスだったと言えるだろう。

『宇宙戦艦ヤマト』という特異点

 番組制作の“燃料”投下というスポンサーの観点から注目してほしいのは、1974年の『宇宙戦艦ヤマト』だ。表では、スポンサー欄に(なし)と記載しているが、これはヤマトのプロデューサー西崎義展氏の戦略による。牧村康正・山田哲久(著) 『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』(講談社)には、次のように書かれている。

西崎はスポンサーの意向に左右されがちな広告代理店とは一線を画し、あくまでも局(筆者註・テレビ局)の現場への売り込みにこだわった。これは企画内容に関する信念を示すと同時に、代理店に権利を絡め取られたくないという意思表示でもあろう。

出典:牧村康正・山田哲久(著) 『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』(講談社)

 西崎氏は、自社制作したアニメの放映権をテレビ局に売り、番組制作の“燃料”投下をスポンサーに頼らずに利益の最大化を図ったわけである。なお、ヤマトはスポンサー不在のため、放送中に流れたCMは、おそらくスポットCMだったのだろう(スポットCMとは、テレビ局が指定した時間に放送されるCMのこと)。
 スポンサーの“燃料”に依存しない制作からも、『宇宙戦艦ヤマト』は、これまでのアニメ・特撮番組のビジネスモデルと一線を画す、ある種の特異点と言えるだろう。

「超合金」以降のマーチャンダイジングとスポンサーの変化

 先ほどの表、1975年以降、玩具メーカーがスポンサーとして台頭している。この節目は、なぜ起きてきたのか。その端緒となったのが、ロボットアニメのマーチャンダイジングとして、新たな流れをつくった『マジンガーZ』の超合金がヒットしたことだろう。
 これ以降、合金玩具というカテゴリーが生まれ、玩具×アニメの結びつきが強くなったこと。ある意味で二次的なビジネスだったマーチャンダイジングが、作品と連動し始める。その象徴が玩具発信でデザインされた『勇者ライディーン』である。そのあたりの詳細は、過去の記事でも触れたとおり。

 『機動戦士ガンダム』のメインスポンサーであるクローバーも、合金玩具のガンダムを発売している。70年代半ば以降、玩具メーカーが番組制作の“燃料”を投下して、さらに番組をつかって商品を売る流れが当たり前になっていく。

まとめ

 玩具×アニメの流れは、ホビーシーンへと波及していく。1977年の『宇宙戦艦ヤマト』映画化で、アニメ・SFファンのすそ野は、学生・青年層まで広がる。年少者向けの玩具には満足できない彼らは、精緻な模型を求めていく。その先に空前のガンプラブームと80年代のリアルロボットブームがあるのは、言わずもがなだ。
 
 今回は、アニメ・特撮が制作される“燃料”を提供するスポンサーの移り変わり、それにともなうマーチャンダイジングが副次的なビジネスからメインストリームに昇格してきた流れを見てきた。この流れは単純ではない。テレビ局や広告代理店による広告モデルの側面、玩具の進化による玩具メーカーの役割変化、作品のあり方の変化が生んだ新たなニーズ…… など、さまざまな節目が絡み合っている。多角的に時代の変化を捉えることで、キャラクターモデルのマーチャンダイジング史の見え方は変わってくる。


  • 〈参考文献〉

  • 牧村康正・山田哲久(著) 『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』(講談社)

  • 小野塚謙太(著)『超合金の男 ―村上克司伝―』(アスキー・メディアワークス)

  • 別冊映画秘宝『特撮秘宝』vol.7(洋泉社)

  • 五十嵐浩司(著)『ロボットアニメビジネス進化論』(光文社新書)

  • 谷口功・麻生はじめ 著『図解入門業界研究 最新アニメ業界の動向とカラクリがよ~くわかる本[第3版] 』(秀和システム)


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