カメラメーカーのビジネスモデルの変革期〜マウント規格公開の話〜


先日書いたものにて、富士フイルムはマウント規格を公開したので好感が持て、Nikonはそうでないから心が離れ気味だと書いた。

しかし実は、規格公開はそう単純な話ではない。

それは、ビジネスモデルに関わる話だからだ。

さてその前にまず、各社がマウントを公開しているか確認していこう。


マウント情報の整理


マウント情報公開の具合は以下のようだ。(個人調べ)

そもそも企業連合であるもの
 マイクロフォーサーズ(オリンパス、パナソニック、シャープほか多数)
 Lマウントアライアンス(ライカ、パナソニック、シグマ)

1企業開発の規格を公開しているもの
 SONY Eマウント
 富士フイルム Xマウント

1企業開発、非公開の規格
 Nikon Fマウント、Zマウント
 Canon EF、EF-S、RF、EF-Mほか各種
 ペンタックス Kマウントほか

注1)Lマウントはもともとライカ単独開発だがアライアンス化したもので、初めから共同開発のマイクロフォーサーズとは少し事情が違う。
注2)富士フイルムが最近Xマウントを公開したことがインタビュー記事などに出ているが、企業公式リリースとしては出ていないようで、確実なソースはない。SONYは公式リリースが出ている。


カメラメーカーのビジネスモデル

さてさて、じゃあマウント規格くらい公開すればいいのではないか、と思うがそうではない。

そこには、カメラメーカーが昔から取ってきたビジネスモデルが関わっているからだ。

実はカメラメーカーは、カメラ本体ではなくレンズを売ることによって収益を得るビジネスモデルで成り立っているのだ。

つまり消費者がカメラ本体を買った後、どんどん自社レンズを買い足していってくれることを望んでいる。

だからサードパーティ製レンズが発達しては困る。


ここからは眉唾のネット上の噂だが、カメラメーカーはサードパーティレンズを締め出そうとする動きを見せることがある。

例えば「nikon sigma 訴訟」で調べれば出てくる話。(詳細略)

それからカメラメーカーから新製品が出るたびに、レンズメーカーからレンズ動作の不具合の情報が出る。
これについて一部では、カメラメーカーによるレンズメーカーの締め出しではないかと見る向きもある。
(↓サイトで「(レンズメーカー名)+ 動作(あるいは動作不具合、AF動作などなど)」などと調べると、新型カメラで動作不良が出たという話がたくさん見つかる


要するにカメラメーカーは、自社レンズを買ってもらわないと困るのでレンズメーカーのレンズを使いにくくしている。


潮流が変わってきた近年のビジネスモデル


さてしかし、最近はその流れが変わってきた。

ポイントは2つあると思っている。
1つめはサードパーティレンズの高性能化。
もうひとつはSONYの成功だ。


1つめ。
以前のサードパーティレンズと言えば、高価な純正レンズが買えない人のための選択肢という風情があった。
サードパーティレンズは安いのだが純正からは性能も劣るため、要するに「安かろう悪かろう」だった。
しかしある時期からその風向きが変わった。

まず、とんでもなく高性能なレンズが出てきた。
その代表格として、このところのシグマのArtシリーズが挙げられるだろう。
小型化を考えず性能に全振りし結果性能もとんでもないレンズを立て続けに出し(サイズもとんでもなかったりする)、大いに話題になった。

シグマ以外にも、純正では出てこないようなマニアックで尖った魅力のあるレンズがどんどん用意されてきた。

この結果、サードパーティレンズは「積極的に」選ぶレンズになってきた。


さて2つめ。
SONYの成功だ。

SONY Eマウントは、2010年に発売と、歴史が浅い。
しかし各販売店のランキングを見ると、トップ10の半分以上をEマウント機が占めることはざらである。
SONY機がトップ3を独占しても、大して驚くこともなくなってきた。

この歴史の浅いマウントが成功した要因のひとつとして、マウント規格公開を上げる人は多い。

さてここで、新マウントの弱点について語ろう。

新マウントが登場したときに、その最大の弱点は対応レンズの少なさとなる。

だから新マウントを出したメーカーは、大慌てで対応レンズを出していく。
それは最近新マウントを出したNikon、Canonもそうで、レンズをどんどん発売している。
それだけでなく、Nikon、Canonに関しては旧マウントの製品がたくさんある。
そこで旧マウントとのアダプターを出し、しかもそれがきちんと動作することを必死にアピールし、レンズ数が足りないという印象を持たれないようにしている。


SONYに話を戻すと、SONYは驚きの方法でこれを解決した。
SONYはなんと、Eマウント発売の翌年にはマウント規格を公開した。
これは、以前のレンズで稼ぐビジネスモデルからは考えられないことだった。
しかし実際には、これは大成功した。

公開によって、Eマウント対応レンズは初期から充実し、レンズが足りないと思われる時期が短った。
そして今では、1番充実しているのではないかと思われるくらいにまでなっている。

ここで改めて確認すると、マウント規格公開で大事なのは、そのマウントの物理的な形だけではない。
昨今のカメラの高性能化で、一番キモなのはボディとレンズの間の情報通信となる。

ボディとレンズの間には電気的な通信用のピンがある。
それを介してオートフォーカスやらなんやらの情報がやり取りされる。
最近はさらに、レンズの特性に合わせて補正を掛けたりするので、ますますここが重要になってくる。

マウント規格が公開されていない場合、レンズメーカーはこれをリバース・エンジニアリングなる手法で解析する必要がある。

これには時間と手間がとても掛かる。

Nikon Fマウントや、Canon EFマウントの場合はそれなりに歴史があるので、レンズメーカー各社もそれに対応できている。
新機能が出たとしても、その部分だけ追加して(多分)対応している。

しかし全くの新しいマウントになると、そうはいかない。
(Nikon F→Zだとピンの数も増加しているので、通信アルゴリズムをガラッと変えている可能性すらある)

しかしSONYは、それをさっさと公開してしまった。
Eマウントという歴史が浅く普及していないマウントをお金を掛けて解析するというのは、レンズメーカーにとっては勇気がいる。
その障壁をさっさと取り払ってしまった。

その結果SONY Eマウントは、登場直後からそれなりにレンズが揃うという状況になった。

しかも最近は、オートフォーカスやレンズの特性に合わせた補正などが高度化している。

サードパーティレンズはそれらの一部が使えない、ということが純正に劣る点として不満の種になったりするのだが、Eマウントは情報が公開されているので、それらも純正レンズと同等に作動する。


さてその状況で、先程書いたように、サードパーティレンズ自体が魅力的なものになりつつある。

するとどうなるかというと、サードパーティレンズで遊びたい人がSONY機を買うようになった。

マウント非公開な他社カメラに比べて、動作が確実で、機能の制限もないからだ。

結果、Nikon、CanonからSONYへ人が流れる状況が発生してしまっている。


パナソニック、シグマの動き


2018年、ライカ、パナソニック、シグマの3社がLマウントアライアンスで協業することを発表した。

パナソニック、シグマともフルサイズに参入しようとしていた。
(シグマに至っては、規格参加より前に単独マウントがそれなりに完成していたらしい)

しかし、それぞれ別々のマウントではシェアが少なく、また対応レンズも限られている。

そこでライカのLマウントを採用することで、発売の段階から多数のレンズが用意でき、また今後もそうなってきくことを目指して、アライアンスとしてマウントを共有することになった。


富士フイルムの動き


これらに追従して(かどうかは分からないが)、富士フイルムがマウント規格を公開した。

先程述べた通り、マウント規格の解析は、通信情報を解析することが肝であり、リバース・エンジニアリングを用いてそれをするのは時間と手間が掛かる。

富士フイルムのXマウントは、2012年に始まったもので歴史も浅く、シェアもそれほどでもないので、レンズメーカー各社は富士フイルム対応レンズの発売に及び腰であった。
(※リバース・エンジニアリングの要らない、通信ピンのないMFレンズはすでに出ていたが)

それが今回、規格公開となったことで、サードパーティレンズが今後どんどん発売されていくものと思われる。

そして消費者側からも、ネット上の意見を見ているとそれを好意的に捉える声が大きい。
もちろん私も好意的な側だ。



他社はどうなるのか


このように、サードパーティレンズが安い以外の魅力を持ったものに生まれ変わり、またそれを取り込んだSONYが成功したことで、
サードパーティレンズにきちんと対応しよう
というのが最近の流れに見える。

実際、魅力的なサードパーティレンズを安心して使いたいがためにSONY機を買う、という人も出てきているし、シグマのレンズを「純正品として」使えるという理由でパナソニック機を買う人も出てきている。

さて、単独マウントで頑張る残り3社、Nikon、Canon、ペンタックスはどうなるのか。

特にNikon、Canonは新マウントが始まったばかりで、その普及が肝となっている。

ネットを見る限り、やはりマウント規格を公開して早く対応レンズを増やせ、という声は多数ある。

「レンズを売って稼ぐ」という従来型のビジネスモデルにこだわるのか、それとも「サードパーティレンズを取り込んでマウントを普及される」に舵を切るのか。
(※ただNikonはシグマと訴訟をやってしまったので、少なくともNikonから頭を下げに行く流れは考えにくい。)


おまけながら私は、マウントを公開した富士フイルム、あるいはSONYにNikonから流出しかねない状態です。


今後各社がどう動くか、しばらく目が離せない。

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