東名の箱根越えが好きという話。
※2019年に書いたものの再構成です。
東名の箱根越えが好きだ。
その理由について長々と語る。
理由1、峠越えだから
そもそも論だが峠越えというのは面白い。
鉄道もそうなのだが、峠という難所を超えるところというのは路線の走り方や構造にいろいろな工夫が必要になっていて、それを見ているのが楽しい。
また難所というのは同時に絶景ポイントになりがちである。
山肌に張り付いて走るところから酒匂川の深い谷が見えたり、はるか富士山が見えたりするところはとてもよい眺めだ。
人工物としてもアーチが3つ並んだ皆瀬川橋、カーブした上路トラスの酒匂川橋、斜張橋の東名足柄橋と見どころがたくさんある。
理由2、右ルート左ルート
大井松田ICから下り線は右ルート、左ルートに別れる。
これが足柄SA手前まで続く。
なぜこうなるかといえば、右ルートはもともと上り線だからである。
初め下り2車線、上り2車線であったところを、交通量の増加に伴って車線を増やすことになった。
そこで行われた工事はこうである。
まず上り線用には3車線の道路を新しく設けた。
そして、それにより空いた旧上り線は下り線に転用され、もともとあった下り線と合わせて2車線+2車線の構成にしたのだ。
この転用された旧上り線が右ルートであり、もとからあった下り線が左ルートというわけである。
この、路線構成が楽しい。
特に右ルートを走る場合、もともと上り線であったところを、謂わば「逆走」しているわけである。
もちろん今は下り線として整備されているが、左ルートを眺めるとやはり逆走しているように見えてくる。
さらにいうとこの区間は上下線が左右逆転していて右側通行のようになっている。
この意味でも「逆走」しているようで面白い。
理由3、上り線の構造
新設された上り線だけでも路線の構造が面白い。
上り線は下り線をまたぐ吾妻山トンネルと都夫良野トンネルの間(ストリートビューを見ると鍛冶屋敷第一橋というらしい。)付近を境に雰囲気が全く異なる。
まず都夫良野トンネルより手前、すなわち西側は、完全に新ルートである。
急勾配、急カーブが連続する旧ルートに対して、こちらは巨大な橋梁と長大なトンネルで急峻な地形を克服し穏やかな線形を実現している。
東名は高速道路のなかでは初期に建設されており、下り線は初期のものらしく、トンネルは短くカーブも急な道で峠を越えていく。それに対しこの新ルートは、その後の土木技術の発達を顕示し、見事な対比を成している。
しかし一方で、都夫良野トンネルを越えると、一転して急勾配に急カーブとなり、やにわに運転が難しくなる。
これは、ここからは新ルートを取るのでなく、旧線に沿って建設されたからである。
のみならず、もともと険しい地形にどうにか上下線を通していたところにさらに新しく追加するのはなかなか難しかったようで、新しく作られたこの新上り線のほうがむしろ厳しい線形になっているようにも受け取られる。
これは運転が難しい。
しかもただ線形が厳しいのではなく、それまでの穏やかな新ルートから険しいルートに一変する、さらに同時に勾配が上りから下りに変わりスピードが出やすくなる、と危険要素が重なっている。
従って、事故多発の難所として悪名が高い。
そうは言っても、私はこの区間が大好きだ。
それはやはり、歴史がその構造にはっきり見ることができるからだ。
具体的には、旧線の構造から東名が初期の高速道路だと、その後需要が増加し線増が図られたのだと、新ルートの建設時期には土木技術が大きく発達したのだと、など分かってくることである。
ちなみに、似たようなことが鉄道でもある。
それは、単線を後から複線化するときだ。
もともと一本しか線路が無かったところに2本目をどう通すか。
だいたい
①1本目に沿って2本目を通す
②別ルートで2本目を通す(上下線で全く別のところを通る)
③新ルートで複線を作る(旧線は廃止)
の3パターンとなる。
東名をこれに例えると、東側は①、西側は②のようだ。
東名の箱根区間は短い中に2パターンある見られて面白いのだ。
まとめ
以上のように東名の箱根越え区間にはおもしろ要素が満載なのだ。
だから私は大好きだ。
さて、現在この区間に並走する部分の新東名が建設中である。
きっと新東名は上り線新ルート以上に巨大な橋梁と長大なトンネルでさらに滑らかな線形を実現するだろう。
それはそれで楽しみだが、そうなってもやはり、私はあえて東名のこの区間を走り続けたくなりそうな気がする。
難所を難所らしく越えていくのは味があるし、おまけにそういう区間はたいてい景色が良い。
新東名ができれば道が空くだろうから、その時は先人の努力を感じながらゆったりと走ってみたい。