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猫町倶楽部 二村組 『これはただの夏』by燃え殻
猫町倶楽部 二村組の読書会(zoom)に参加した。
少人数のテーブルに分かれていろんな感想や疑問を人それぞれに聞けたのが良かった。著者の燃え殻さんもゲスト参加。質問に対する燃え殻さんの答えがすごく具体的で、燃え殻さんの本棚を見せてもらうような贅沢な時間だった。
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1作目『ボクたちはみんな大人になれなかった』から時が経ち、1作目のヒリヒリ感はもうない。
『真夏の果実』のシーンは大関も電話で参加していて全員揃うシーン。いろんな音や料理をしながらの会話がお互いに寄り添っていて優しい。状況を考えたら「お前らばかりずるい」と言ってもいいのに大関は「真夏の果実の邪魔をするのも悪いからもう切るわ」と言う。いつもみんなを庇っている大関が健気で切ない。
燃え殻さんの小説は細かいディテールがなされているのが味わい深い。
p160からの流れも印象的だ。
プールで遠くから明菜を探す秋吉が明菜と目が合うシーン。
【季節風のような心地いい風がボクの背中からプールサイドのほうに吹き抜ける。その風に誘われるように明菜がこちらを振り向く。逆光の太陽が、視界を妨げる。植物の匂いがした】
このとき秋吉はもうすぐ夏が終わってしまうこと、3人と別れなくてはいけない日が来ることに気づいてしまう。秋吉の気持ちがさまよって一瞬、時が止まる。
だがそこで終わらない。ページをめくって見開きの静かなプールサイドの画像を挟むと、秋吉のテレビマンとしての気持ちを吐露するような言葉があり、優香が「人生って何度でもやり直せるとは思ってないけど、何度かはやり直せそうな気がしてるんだ」と話す。その日、明菜は誕生日であることを誰にも告げずに1人で抱え込んでいた。大関もまた、自分の病気のことを仕事関係者には知らせないことを決心している。
この物語は夏が終わる切なさを描いている。と同時にその夏の数日間を一緒に過ごした仲間が自分の道をみつけていく物語だ。
長い時間一緒にいた人より、ほんの短い時間の関係性での何気ない言葉や、その人の面影を、時が経っても、遠い記憶の隙間にふと思い出すことがある。私も誰かの記憶の隙間でふと思い出される存在だったらいいなと、この小説を読んだ夏の終わりに思った。
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アフタートークで、明菜と優香は幽霊だということ、装丁の煙突は中村一義の『金字塔』のジャケットを擬えていること、章立ては『ふぞろいの林檎たち』を模したことなど、興味深いお話が聞けた。先人たちへの深いリスペクトが所々に散りばめられて、それらが寄り添ってくれるこの小説は私にとってアルバムの中の好きな1曲だ。