『湯布院奇行』by燃え殻
本作は朗読劇もDVDで観ることができる。朗読劇は役者さんの表情や声に狂気が憑依して凄い迫力。小説のじんわり溶けていく感じとはまた違う世界だった。舞台(LIVE)は生き物というのは本当だと思った。
大きなあらすじは、主人公の僕が、朝の満員電車から逃げたくなり、バグを起こして湯布院の古い温泉宿に行き、気がついたらそこで百日を過ごしていたという不思議な話だ。
そこで僕は虚実を行ったり来たりする。そこで起きるすべては僕の想念の出来事なのかも知れない。
温泉宿には忍と、瓜二つの片桐という二人の女性がおり、入れ替わり立ち替わりふっと現れ、何かを話しては消える。
湯治をするうちに、僕は子供の頃の話を真剣に聞いてくれない母親や身勝手だった彼女との切ない出来事を思い出す。
忍に優しさを、片桐に、母親や、東京の彼女の面影を重ね合わせる。
忍と片桐は、作家のなかの女性の「陽」と「陰」の両面なのだろうか。
村人の仲間になりたくて百個の塚をつくった鬼の話も印象的だ。湯布院に古くから伝わる民話とのことだが、こういった土地に根づいた物語が入っていることが小説のアンカーになってるような気もする。
都会に住めば何がか変わる…と、「大人」と呼ばれる形状に擬態しようと努力する。しかし現実はままならない。自分がいなくなったとしても、代わりの人はいくらでもいる。生きていくのが大変な世界。
すべての疲れは未練からやってくる。ならば、時には遠くに行っていろんな未練をすっかり溶かしてしまいたい。