祝‼文化勲章 橋田壽賀子氏:斬新すぎるストーリー設定と寸止めの美学が光る「となりの芝生」 ②
橋田壽賀子氏は御年95歳である。お元気だから良かったものの、今更文化勲章なんて、20年遅い。と思う。
わたしが選んだ橋田ドラマのベスト3についてだが、この3作品は、女性向けテレビドラマが、映画産業衰退後、映像文化の王道となるにあったっての、いわば、ホップ・ステップ・ジャンプだったのではないかと思う。
日本ドラマ史に残る金字塔「おしん」が1983年に放映される前に、橋田氏は1976年に「となりの芝生」、1981年に「おんな太閤記」を書いている。
そのころ時代は、1975年の国際婦人年をきっかけに、女性の社会進出が叫ばれはじめ、石油ショックはあったものの、日本経済もまだまだ元気だった。まあ、今と違って、名実ともにアジア№1の日本だったのだ。
斬新すぎるストーリーと寸止めの美学「となりの芝生」でまずホップ
1976年制作のこのドラマは、高度成長の終焉と共に、それまで幸せの象徴とされてきた家族の在り方の「揺るぎ」を描いた問題作だ。
首都圏の新興住宅地で一戸建てもマイホームを手に入れた次男の家に、長男夫婦と折り合いの悪くなった母親が同居する。そこから、おこる嫁姑問題を発端にして幸せだった家庭におこる波紋を描いたドラマだ。
この設定が凄い。どうしてこんなことが思いつくのかと感服した。
サラリーマンの夫と専業主婦の妻、2人の子どもという典型的な核家族が
夢のマイホームを手に入れたところで、姑が現れて、その予定調和を崩していくなんて、その姑だって、けして悪人ではない。悪人は誰もいないのに、幸せ×幸せ=不幸の始まりなんて、すごい設定だと思う。まさに、日本の高度経済成長の終焉を象徴しているような気がする。
ひとつの時代が終わる時、その時代にモデルケースであった家庭も崩壊していくというドラマはよく作られるけれど、今でさえ、原因は夫の浮気が定番である。というか、それしか思いつかないのか。それなのに、姑という存在で、戦後もしぶとく残っている家意識をあぶりだし、女性の社会進出とは何かを考えさせるなんて、そんなことどうやったら思いつくのだろうか。
ドラマ制作でアジア№1といわれる韓国で、あの「愛の不時着」の歴代最高視聴率を塗り替えた「夫婦の世界」でさえ、幸せな家庭の崩壊を描くのに、夫の裏切りの不倫からストーリーが始まるのに。
だから、夫の浮気がばれたところで、結末が読めちゃうんだけど、橋田ドラマでは、浮気から始まらないので、逆に先が読めないのだ。
これを言ったら、身もふたもないけど、夫が浮気しなくたって、時代の変わり目で、新しい価値観が生まれるとき、家庭は崩壊するからね。
そのうえ、橋田ドラマの凄いところは、ギリギリまでいくけど家庭は崩壊させない。寸止めの美学がある。そこが「辛口ホームドラマ」といわれる所以なのだが。だからどうなるか逆に最後まで結末が読めない。そこが凄いと思う。
このドラマは、何度かリメイクされているけど、やはり、「NHK銀河テレビ小説」の山本陽子と沢村貞子の嫁姑が一番いいのではないだろうか。
「役者が違う」ってこのことだよねと、NHKアーカイブでちょっとだけ映像見ても思う。NHKオンデマンドでもやってくれないかな。
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