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【MTG回顧録1】地方格差のあった頃~ネメシスのトップレアはXXXだ~

 格差と言うか「集まる人数の差」は今も昔もあります。なので正確には、「めっちゃ差があった頃」ですね。2000年前後、22年ほど前の自分がまともにプレイしていた頃のことです。
 インターネットが今ほど普及しておらず、プレイヤー間の技量差も激しかった。一時期までの地元PTQ(※当時の世界大会予選)は、後に世界で活躍する面子であるM藤さんI田さんI原様、そして世紀末覇者が確定に近いくらい枠をもぎ取っていました。

   ・

 2000年、3月頃。
 最新エキスパンションが出てしばらく経ってのこと。

「ネメシスのトップレアはXXX」

 そう当時のカードショップ店長は言っていた。関西へ出張に行き、そこで出た結論なのだとか。当時の関西とは、すなわち関東と二強を分け合っていた土地だ。ひるがえって、かつての九州を思い返すと……強い人は強かった、が正確なところだろうか。
 ともあれ、2000年当時の話に戻ろう。
「ネメシスのトップレアは《からみつく鉄線》」
 意味が分からなかったのが正直な所だ。

 ネメシス。その小型エキスパンションは、当時としては強力なカードでひしめいていた。直前のウルザブロックでは大量の禁止カードが出たが、このブロックはそこまででもない。弱くはないが、壊れているまではない。その位が、当時の認識だったと思う。
 では、当時「強い」と思われていたのは何だったのか?
 既存のレベルデッキーーリクルート能力クリーチャーで構成された白主体のデッキーーの強化は、《果敢な勇士リン=シヴィー》と《パララクスの波》で明らかだった。
 強化で言えば、赤緑のビートダウンもそうだ。《ブラストダーム》は相手のライフ15点かブロッカー3体をもぎ取り、《はじける子嚢》はコンボ抜きでも9点からのダメージを刻む。
 コントロールから出てくる《まばゆい天使》は頭痛の種で、《蓄積した知識》に《コーの安息所》《浄化の印章》が脇を固める。
 一方ドラフトでは、《ベイベイの鎧》のあまりの硬さに頭を痛める……。

 そこに来て、こうだ。

「トップレアは《からみつく鉄線》」

 うん。分からない。
 分からなかったのも当然だ。
 何しろ、見方を誤っていたのだから。

 あらためて、そのテキストを見てみよう。

からみつく鉄線 (3) アーティファクト

消散4(このアーティファクトは、その上に消散(fade)カウンターが4個置かれた状態で戦場に出る。あなたのアップキープの開始時に、それから消散カウンターを1個取り除く。できない場合、それを生け贄に捧げる。)

各プレイヤーのアップキープの開始時に、そのプレイヤーはからみつく鉄線の上に置かれている消散カウンター1個につき、そのプレイヤはからみつく鉄線の上に置かれている消散カウンター1個につき、そのプレイヤーがコントロールするアンタップ状態のアーティファクト1つかクリーチャー1体か土地1つをタップする。

 このカードは単体では何もしない。互いに被害をもたらし、そのまま消えていく……それだけのカードと思っていた。
 誤っていたのは、使い方と用途だ。このカードはアップキープに「消散カウンターを減らす」を先に選べる。そして《からみつく鉄線》自体もパーマネントであり、タップ出来る。これがどんな事態を引き起こすか。

 ・相手のターンに4つパーマネントを倒される。
 ・次の自ターンに自分は3つ(実質2つ)のパーマネントを倒される。
 ・相手のターンに3つパーマネントを倒される。
 ・次の自ターンに自分は2つ(実質1つ)のパーマネントを倒される。

 ……公平どころではない。相手の方が被害は大きい。
 そして《からみつく鉄線》のコストは3と、序盤から唱えることができた。序盤では4個もパーマネントが並ばないこともあり、そんな時のこのカードは、相手の1ターンを奪い取るに等しい。

 明らかに、《からみつく鉄線》は時間を稼げる。問題はここからだ。稼いだ時間を、そのまま勝利ルートへ変換できるデッキがあったのだ。
 今なら、今となっては、その答えが明確だ。
 直前、メルカディアン・マスクスで出た《リシャーダの港》。
 直前のウルザブロック、《ラノワールの使者、ロフェロス》《ティタニアの僧侶》《ガイアの揺籃の地》らでバックアップされる3ターン目からの《すき込み》。
 あるいは、ネメシスで出た追加コスト要求カウンターの《目くらまし》。
 そして……正しい手順を踏めば相手を拘束する《からみつく鉄線》。
 いくつかが文字通り絡み合い、「トップレア」に至ったのだ。

   ・

 その数カ月後、確か2000年7月。日本選手権予選でのことだ。
《補充》デッキを使い4連勝した後、問題のデッキに突き当たった。

 相手は1ターン目に《森》から《ラノワールのエルフ》を唱えて来た。
 自分は《島》を置いてターンを返す。
 そして相手の先攻2ターン目、《森》を置いてからのこと。

「3マナで、その《島》に《休耕地》を打ちます」
「へっ?」

 3マナを使い、土地を相手のライブラリー上へ戻すカード。
 知ってはいる、しかしトーナメントで打たれたのは初めてだった。
 その後に、《からみつく鉄線》と《すき込み》を打たれたのは覚えている。試合には、大げさでなく何もできずに負けた。
 何かしようとして、何も実ることはなく。ただただ訳の分からないまま負けたその事をーー20年以上経つ今もーー鮮明に覚えている。

 結局、その日本選手権予選は6勝2敗で終わった。確か7位か8位だった。その年の出場権は6位まで。
 あの時、あるいは……と、今になって思う。《からみつく鉄線》について、まともに考えていたなら、あるいは……と。

   ・

「公平に見えて公平でないことがある」
「実際に使ってみると分かることがある」

《からみつく鉄線》ならば「相手の方が先に被害が行く」のだ。
 今にして思えば、1998年10月に出た《煙突》もそうだった。自分のターン、0個を生贄に捧げる。カウンターを置く。では相手のターン、どうぞ1個を生贄に捧げて下さい……。
 ネメシスの発売は2000年2月だった。ともあれ1年数カ月ぶりの「不公平」を、またしても察せなかった訳だ。

 そうして《からみつく鉄線》は、個人的に一種の教訓となった……訳ではない。当時そこまで、言語化できてはいなかったのだから。
 そのツケは2002年3月、《陰謀団の先手、ブレイズ》ーー「相手が先に」被害を受けるカードーーとして、ふたたび見ることになるのだけれど。   (続く?)

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