謎の覆面作家、浅利準(ナポレオン文庫)
かつて、津原泰水氏は述べたことがある。
作風の話はさておき、およそ知られていない、にも関わらず上手い謎の作家は存在する。ただ、当人が明かすのは稀な例で、たいていは囁かれるだけ囁かれて謎のままだ。
本稿で取り上げる、浅利準もそんな作家だ。若年層向けの官能小説レーベル、ナポレオン文庫。そこで一冊のみで消えた覆面作家。
覆面作家……現代でそう認識されているのだろうか?
だいぶ怪しいが、覆面作家なのはおよそ疑いようがない。
ではその根拠だが……ナポレオン文庫通例の後書きがない。著者紹介文も既刊紹介もなく、浅利準名義の作品はこれきり。
にも関わらず上手い、いや上手すぎる。
では驚異の新人だったかというと、それは怪しい。
繰り返すが、本書には後書きがない、編集部の解説も。
無論、著者の紹介文も……つまるところ、一切が謎なのだ。
ひょっとしたら倉田悠子(稲葉真弓)では?
……と思うも、これは今のところ勘であって、根拠に乏しい。
なので、ここではひとまず、浅利準の異様な上手さを紹介しておこうと思う。もし古本屋で見かけたなら、ぜひ手にとって見てほしい。
※ただし成人向け小説ではあるので、その点はご留意を。
では、本編に行こう。
1・冒頭
まず現代(出版された90年代半ば当時)、高校生のバイクシーンから始まる。
それはまだいい、問題はここからだ。
心理描写とともに、バイク乗りの光景が3ページ続く。ヒロインの登場は3ページ目も最後になってからだ。
なのに退屈ではない、むしろ面白い。
この時点で、卓越はおよそ明らかと言っていい。
以下、その3p目を引こう。
亮はキャラクター名、TZRはバイクの機種名だ。
ここで付け加えることはあまりない。
青春小説の名作と述べたとして、不思議はないだろう。
2・描写のバランス
本作の主軸は実にシンプルだ。
「高校生の幼馴染同士が、吸血鬼(?)高校生の転向をきっかけに連帯し結ばれる」
そして、この「吸血鬼」のバランスが素晴らしい。
不可思議な現象もあり、三人称の文で吸血鬼との呼称もある。そのミステリアスさはあくまで、主人公たちの錯覚や吸血鬼(?)の誇大妄想で説明できる範囲なのである。 ※以下、その匙加減に敬意を払い、本作の「吸血鬼」には(?)を付加しておく。
たとえば吸血鬼につきものの洋館は、吸血鬼(?)の親が持っているディスコに置き換えられている。現代もの(当時)として丁寧に換骨奪胎しているのだ。
そのバランスは吸血鬼(?)の出現から堅守され、最後、主人公たちの感慨に至る。読み心地は至って爽やかなものだ。
3・綺麗な構成
本作の筋立ては極めて簡潔だ。的確に削ぎ落とされている、と言っても良い。では、あらすじはどうか。
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