マレット巻き直しについて思うこと

こんにちは。マチュア・パーカッションの田中です。

最近マレットの巻き直しをされている方が増えましたね。私が会社を立ち上げた2007年当時はホームページなどで巻き直しを宣伝している業者は弊社くらいでしたので現在の様に多くの方が巻き直しを仕事して承っている現状に驚いています。

そして巻き直しについての質問やご要望も昔より細かくなってきました。以前は「直せるか直せないか」だったものが「純正に近く巻けるか」とか「違う硬さや音にして欲しい」など多様化しています。
そんな時にいつも思っている事を、あるお客様に対してのご回答をアレンジして書かせて頂きます。

ご質問の内容はカトーマレットさんのマレットを同じ様に巻けるのかという趣旨です。

↓以下アレンジしたご回答です↓

まず前提として

現在のカトーマレットさんと
10年前のカトーマレットさんと
20年前のカトーマレットさんと
更に22年前の発売された当初のカトーマレットさん

の新品で全て巻きが違っています。
つまり製作メーカー自体の純正の巻きも時期により変化をしています。

何故それを明言できるかと言いますと、最初にカトーマレットさんが量産を開始してJPCで販売を開始した1999年頃から2007年までの加藤さんへの発注のメイン担当者が当時パーカッションシティの社員だった私だったからです。

その後も多くのカトーマレットさんの巻き直しをマチュア・パーカッションの仕事として請け負いましたのでその後の変化もある程度知っております。

お客様が巻き直しというものに何をどこまで望まれているかは存じませんが、復刻を望まれるにも下記のどの時期がよろしいかは決めて頂きたく思います。

販売初期のものはシンプルな縫いの他に仕上げ縫いもしていて今と形状が違い、その前に行うヒダ起こしも入念です。少しプレイウッドなどに近い形状でした。

その後、起こしをあまりしなくても上手く縫って根本の方にヒダを集めて絞られる様になり形状も更に美しくなります。私はこの頃の巻きが美しさと独自の音の特徴(締め付けなくても適度にコアにフェルトが巻き付いていてフェルトの自然な弾力性も生かされている)を持っていて一番好きです。

その後量産化がさらに進むと側面のヒダこそ少ないですが絞ったフェルトヒダの根本の集まりは私的にはあまり美しさを感じず演奏してみた時のバウンド感にも均一性を欠いていると感じられ正直なところあまり好きではありません。

さらに現在の巻きは更に簡素に手早く仕上げられている感を見かけから感じますし、演奏してみた時にもさほど特殊ではない一枚巻きのモデルも素直にコアに達しない感触が感じられ、正直なところ現在の巻きも好きではありません。

そしてこれらの変化を知っていて巻き直しの技術をある程度持っている私が巻いて真似をしようと試みても、加藤さんご本人ではありませんので違いは出ます。


結論として

巻き直しというものは基本的には「復元ではなく作り直し」だと思います。

たとえ同じ高レベルのマレット職人2人に

全く同じ材料で
同じ道具で
同じサイズのフェルトを
同じ縫い方法指定

して巻いてもらったとしても「それぞれ違った音の出る違うものがそれぞれに出来上がるだけ」

というのが巻き直しというものだと思うのです。

ですので巻き直しをご依頼される方には是非様々な巻き直し業者に巻き直しをご依頼頂き、その違いを楽しんで頂きたいと願っています。そして気に入った業者が見つかったらそこをリピートご利用頂ければと思います。

逆に何が何でも純正に近く戻すのが1番!の方は製作者や製作会社に巻き直しをご依頼されるのが良いかと思います。

最後にもう一度言いますが巻き直しは基本的には二次創作的なものであり、製作者本人の作品でも大昔のものは同じ様にならない(というかしたがらない)と考えた方が良いかと思います。

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