湯島聖堂〜わたしたちの「東京物語」〜⑥
それでも母は一生懸命話を聴いていた。そんな姿を間近で見る事はないのでとても新鮮だった。お話をして下さった方に何度も何度も「ありがとうございました」と言って頭を下げる母。よほど嬉しかったのだろう。良かったね、お母さん。私は心から思った。
湯島聖堂を出た通りには、遅ればせながらの金木犀がたくさん並んでいた。近くで匂いをかいでもあの甘い匂いはしない。「風に乗っていい香りがするのよね」そう話しながら友人とはそこで別れた。
「年に一度でいいから湯島聖堂に(東京物語)来たいなー。」と母。「元気でいれば何度でも来られるよ」そんなやり取りと共に後ろ髪を引かれながら聖堂を後にした。そして母のウキウキ湯島聖堂への旅〜わたしたちの「東京物語」〜は終わりを遂げる。
帰りの特急に乗る時、弟と孫たちも見送りに来てくれた。またまた母は笑顔である。いつまでもあの笑顔の母でいて欲しい。そう願ってやまない。