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マーケットイン/プロダクトアウトを超えて:相互変容型イノベーションの可能性

「うちの会社は変わらなきゃいけない。今のままの事業では未来がない。」

同じような言葉を、本当に色んな企業や業界から耳にする。僕がお会いするのは新規事業や経営企画、イノベーション系の方が多いけれど、意外と既存事業(いわゆる現場)の人たちも同じようなことを言っている。

人口動態が変わって全産業的な市場シュリンクがほぼ確定的に予想されている一方で、国際的な経営ルールの変化によって持続可能でグリーンな事業モデルへの転換もしなきゃいけない。2030年や2040年の目標なんて遠い未来だと思っていたけれど、パンデミックや戦争でドタバタ(緊急で重要な対応)している間にもう目と鼻の先に近付いてきてしまった。

「色んな方法論で新規事業にトライし続けているけれど当たらない。」「頑張ってサステナブルな商品を出したけれど消費者が買ってくれない。」

企業が変わらなきゃと考えるペースに対して、生活者が新しい形を評価して、受け入れて、ライフスタイルが変わっていくペースは概して遅い。色々な調査で言われているように、日本ではサステナビリティや環境、動物福祉などの長期思考的な生活者ニーズもまだまだ広がっていない。

変わりたいけれど、変われない問題

こんな状態で、一体どうすれば変革を成功させられるだろう?

イノベーションや事業開発には、大まかに二つのアプローチがある。

ひとつはアウトサイドイン。市場やユーザーをよく理解し、それに合わせた製品やサービスをデザインする。デザイン思考やユーザー中心デザインなどがこちら寄り。 ”人が欲しがるものを作れ”、リーンスタートアップ、などの考え方も基本的にはこちらの思想。言うなれば、顧客に合わせて自分たちを変えるアプローチ。

もうひとつはインサイドアウト。自社の技術シーズや歴史に目を向け、それをぐうの音も出ない品質のプロダクトに昇華させたり、ビジョンやパーパスとして言葉にして世の中に提唱していく。インパクト思考や問題提起型の事業開発・ブランディングの方法論としても近年注目が高まっているように思う。言うなれば、自分たちに合わせて顧客を変えるアプローチ。

大雑把に分けたときの2つのアプローチ(考え方)

このどちらもがよく知られるようになっていて、流行り廃りなどもありつつ、さまざまな企業で試行錯誤が行われてきた。それなのにまだ、先ほどの問題は残り続けている。

顧客に合わせて自分たちを変えようとすると、基本的には現状の合理性、あるいは目に見える課題解決の範囲を出られない。
自分たちに合わせて顧客を変えようとしても、そんな簡単に人々は動いてくれず、サステナブル商品や新規事業は市場性がないと判断されて失速していく。

どちらの側も、あちらが変わってくれたら自分たちも変われるのに、と言い張る膠着状態のまま、時間だけが進んでいく。

この「鶏と卵問題」を、僕は何とかして解きたい。

2軸を超えたアプローチ

結局のところ、自分たちを変える・顧客を変える、これは同時に解かなきゃいけない問題なのだ。

2023年に「行動変容」に関するリサーチ結果をまとめたスライドを公開してからここ1年、ありがたい機会や相談をいただいて、様々な業界・企業における変容設計を支援してきた。同時に、表層的な行動変容テクニックの限界も見えてきて、システム思考、トランジションデザイン、コミュニティオーガナイジングなど、大きな仕組みの変容に活かせそうなノウハウを学び、組み合わせていった。

この領域はまだまだ発展途上で、世界中で色々なデザインフレームワークが提唱されつつある。

その上で、いま僕が可能性を感じ、社内外で試し始めているのが、行動変容とトランジションデザインを掛け合わせたアプローチ。自分たちと顧客が共に目指せるビジョンを描き、変容とトランジション(移行)設計の方法論を活用して、両者を同時に変えていく。

これを暫定的に「相互変容型イノベーション」と呼ぶことにする。

自社を変えながら、顧客を変える

基本的なステップは、システムチェンジやトランジションデザインと同じような考え方だ。現状の課題を構造的に(システミックに)捉えたうえで、それらが解決された姿を共有ビジョンとして描く。そして、現在と未来のあいだを繋ぐ戦略とストーリーを構想していく。

具体的な対象者を動かす「行動変容」と、組織や社会システムの大きな変化をロジカルかつ多層的に描く「トランジションデザイン」を補完させ合い、今日から未来までをできる限り解像度高く構想していけるようになっている。
(詳しいプロセスやフレームワークに興味のある方はぜひ連絡してほしい。)

実際の順番は、現状→ビジョン→行動変容→トランジション

参考までに、ハルモニア社内でこのフレームワークを基にデザインし、先日のSKS JAPAN 2024で発表したのが Food Reconnection Visionだ。

不確実性に向かってのジャンプを成功させる

自社と顧客を同時に変えていく考え方自体は、鶏と卵問題を越える方法として賛同してもらいやすい一方、現実的に企業で取り組もうとするとハードルがある。

アウトサイド・インにしろインサイド・アウトにしろ、イノベーションや変革に挑む際にはリスクや不確実性がつきものだ。どちらか一方を変えるだけでも大変だというのに、両方の足を地面から離して不確実性の空間に飛び込むようなチャレンジを僕たちはできるのだろうか?

これを躊躇なくやってしまえるのはゼロ・トゥ・ワンを目指す起業家くらいなもので、多くの企業では(特に組織規模や既存事業が大きいほど)ある程度リスクコントロールと合意形成を図りながら進めていく必要がある。

両足離してジャンプ?

その時に思い出したいのが、自社にも顧客にも色々な考え方・行動規範の人がいるということ。通常、顧客を新しいソリューションへの積極性で分類する「イノベーター理論」は、自分たちの社内でも比喩的に転用できる。

  • ビジョンがあれば動いていける社内の超積極派(例:経営者やイントレプレナー)は、まず顧客のなかのイノベーターと共創関係を築き、可能性を示すことに集中する。

  • その可能性や新奇性に賭けて、社内の意欲的な部門(例:新規事業や成長事業)も動き出し、アーリーアダプターに商品を供給していく。

  • そして確実性や先例が増えてくれば、既存事業やマジョリティ層も動いていく・・・。

一度に全体を動かそうとするのではなく、それぞれの層の行動条件を見極めて、往復運動によって変化のムーブメントを段々と増幅させていく。自分たちを変える←→顧客を変える の連続的なピボットでリスクを抑えつつ、各ステップに一定の到達基準を握りながら取り組んでいくのはどうだろうか。

連続的なピボット(トラベリング)

あちら<>こちらの関係性を越えていく

究極的には、これは「あちら」と「こちら」の分断の問題にたどり着く。

誰かを思い通りに変えることなんてできない。変えられるのは自分だけ。あるいは自分を含む私たちだけだ。

生産者と消費者。
新規事業部門と既存事業部門。
経営者と従業員。
マイノリティとマジョリティ。
●●派と▲▲派。

「私たち」と「彼ら」に線を引いたまま、「彼ら」を変えようとしても変わってくれない。

ビジネス領域だけじゃない問題

であるならば、私たちにできることは「私たち」の境界を広げることだ。

足元の立場や意見が異なっても、長期的なビジョンや普遍的な課題認識の共有を通じて、同じ地平に立っていることに気付き合っていく。私たちの範囲が広がっていけば、共に変化を進めていく規模を大きくすることができる。

変えられるのは「私たち」だけ

僕自身も積極的に業界やセクターを越境して学び続け、プロジェクト等でご一緒する皆さんとは横断・俯瞰的なワークショップを通じて、こうした認知や発想の広がりを促進していく。

ひとりのファシリテーターとして、相互変容の探求とトライを続けたいと思う。先が見えにくい世界だからこそ!


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