スタートアップのプライシング戦略要諦【マーケットプレイス編】
ベンチャー、スタートアップが手掛けるサービスの代表的なカテゴリーについて、それぞれのプライシング戦略・価格設定の要諦を考えてみます。前回はSaaSのプライシングについてまとめました。
第2回はマーケットプレイスです。
メルカリ、スペースマーケット、クラウドワークス、ココナラなど。
2-sided Marketplaceと呼ばれるような、売り手と買い手(または貸し手と借り手)2種類のユーザーが居て、サービス上でマッチングするようなビジネスモデルです。より大きなところでは、ヤフオク、楽天市場、Amazon、Airbnbもマーケットプレイスですね。
Uberなどにも乗客とドライバーの2種類のユーザーがいますが、「オンデマンドサービス」としての特性が強いので、サービス業の回で紹介します。
●基本的には価格を直接決められない
マーケットプレイス企業はあくまで市場の管理者の立場であり、直接的に価格を決めるわけではないビジネス。
従来は価格が不透明だった業界において情報をオープン化することに貢献していて、「市場が価格を決めるに任せる」という考え方もあります。
コントロールできるもののひとつにマッチングが成立したときの手数料率の設定はありますが、その業界の相場としてビタビタに決まっていることも多く、戦略の選択肢としては検討タイミングがあまり多くないはずです。
(マーケットプレイスの手数料率はOpenTableの1.9%からShutterstockの70%まで多岐に渡っています。ちなみにAirbnbはゲストに請求する手数料率に6~12%程度と幅をもたせており、単価の高い予約ほど低めの手数料率が適用されるモデルを採用していたようです。)
●売り手支援の機能を拡充させ、GMVを拡大させる
マーケットプレイスの収益は、GMV(流通取引総額) × 手数料率で基本的には決まります。
たくさんの売り手と買い手が集まり、より多くの売買が行われるほどマーケットプレイス企業も儲かる、ということでこうした企業は主に売り手に向けてプライシングの支援機能を提供していることがあります。
例えば、Airbnbは「スマートプライシング」という機能をホストに提供しています。ホストが設定した上限〜下限の範囲内で、似たような宿泊場所の需要変動に合わせた値上げや値下げを行ってくれる機能です。
Amazonは「Automate Pricing」という機能をストア向けに提供しています。他のストアが設定している最低価格に一致させる、といったルールを決めておくと自動で価格変更をしてくれます。
メルカリは出品者に対して「売れるかチェック」という機能を提供していて、似ている商品の平均価格を集計し、出品者が相場を大きく外さない価格設定ができるようにしています。
●マッチング確率と売買単価のバランスコントロール
直接の価格を決められないマーケットプレイス企業が取り組むべきは、GMV拡大のための売買促進です。GMVは、マーケットプレイスに参加する売り手・買い手のマッチングの件数 × 取引平均単価で決まります。
マーケットプレイスに蓄積されたこれまでの出品や取引履歴を分析すると、次のような2軸のグラフに表せます。
縦軸に出品された商品の売買が成立したマッチング確率を取り(スペースレンタルの場合は稼働率など)、
横軸に出品単価(スキルシェアの場合は設定報酬額など)を取ります。
同じような商品であれば、出品単価が安いほど買い手が見つかりやすくマッチング確率が高くなるはずです。一方で安すぎる価格帯では売り手が損するため出品数が激減するはず。
例えば、ある商品セグメントの出品・取引データをグラフにすると次のように表せるかもしれません。
ここから考えられる打ち手は大きく3方向。至極単純ですが。
1. 十分に高いマッチング確率の価格帯の出品には値上げを促す
2. 低すぎるマッチング確率の価格帯には値下げを促す
3. そもそもの出品数が足りないことでマッチング確率の低いセグメントは手数料率を下げる等で参加を促す
1. 十分に高いマッチング確率の価格帯の出品には値上げを促す
2. 低すぎるマッチング確率の価格帯には値下げを促す
需要が高く、出品するとすぐにマッチングしているような価格帯には、出品者に対して値上げを促すことで取引単価を引き上げることができます。
反対に、なかなかマッチングしない価格帯の出品に対しては、相場に近いところへの値下げを促します。
その際には「このセグメントでは◯◯%の取引が◯◯円〜◯◯円の範囲で成立しています」「◯◯円で出品すると取引成立確率が◯◯%になります」など、出品者の意思決定の参考になりそうな客観的なデータを示すと良いでしょう。
肝心なのはセグメントの切り方です。
スペースレンタル系であれば、同じ価格帯であっても、地域による需要の差や、曜日や時間帯による需要の差があると考えられます。
需要の差はマッチング確率(またはマッチングまでにかかる時間)の差として現れるため、どのようなセグメントで商品を区切って、マッチング確率 × 取引単価 を引き上げる施策に繋げるかに分析の魂を込めることになります。
3. そもそもの出品数が足りないことでマッチング確率の低いセグメントは手数料率を下げる等で参加を促す
セグメントに分けて見ていくなかで、まだ出品数が足りずにあまりマッチングが成立していない商品群が見つかることもあります。
新たにサービスを拡大したばかりの地域、カテゴリーや、またはマーケットプレイスを新規に立ち上げている場合にも同様かもしれません。
2-sided Marketplaceの特性上、クリティカルマスを越える売り手と買い手を集め、「出品したら本当に売れる」という体験をセグメントの成長初期段階から提供することは重要です。
このようなセグメントにおいては、キャンペーン的に手数料率を下げる等も検討し、まずは参加を促すことに優先して取り組むべきです。
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マーケットプレイスにおけるプライシングとは、各セグメントで十分なマッチング率を保って市場参加へのインセンティブを高めながらも、その業界にマーケットプレイスを設立させた意義として、あるべき価格帯へのシフトを促していく取り組みと言えるのではないでしょうか。
(不透明で高価すぎた業界は安く流通できるようにしていく、安価すぎたフリーランスマーケットは適切に高くしていく、などマーケットプレイス企業それぞれの想いがあるはず。)
お読みいただきありがとうございました。何かお手伝いできることがあれば、いつでもハルモニアや自分に声をかけてください。
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参考リンクを貼っておきます。
前回まとめたSaaS編はこちら
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