ピンボールの話
小学校低学年の頃、ピンボールにハマった。
今では考えられない画質のWindowsに標準装備されている意味不明なゲーム達。
マインスイーパー、ソリティア、そしてピンボール。
マインスイーパーやソリティアは大人になってやると超面白いのだが、当時はあまり理解できなかった。
なので直感的にできるピンボールをひたすらにやっていた。
「俺世界大会でれるんじゃね」と思うくらいやり込んだのだがおそらく井の中の蛙である。
なんせ1人でずっとやっていたし、学校でそんな話題が出ることはない。
ポケモンピンボールにもめちゃくちゃハマったが周りでは誰もやっていない。
みんなポケモンの本編ばかり。
本編という言い方であってるのかはわからないけど、
私はポケモンなんとかver.とかにそんなに興味はなかった。
ポケモン多すぎやしないかい?
モンスターボール連打しても捕まえられないし、通行人めっちゃ話しかけてきて急に戦わされるのうざいし、ポケモン進化したら大体可愛くないし、ジムリーダーDQNみたいなやつばっかりだし。そう思っていた。
世界観東京かよ。
先日打ち合わせで久しぶりに中目黒へ
途中渋谷で乗り換えなければならないのだが、井の頭線から東横線の乗り換えが1番嫌いである。
とりあえず遠い。
四天王倒すくらい遠い。
モンスターボール投げまくってるみたいにナンパしてる奴は全く捕まえられていないし、
途中待ち合わせしてる人が話しかけてきてバトルに発展しそうだし、ファッションやメイクが進化しすぎて可愛くないし、ジムリーダーばりのDQNばかりだし。
東京だな。
(所々偏見もプラスされているので悪しからず)
そんなこんなで乗り換えは10分ほど歩くのだが、なぜかみんな私にぶつかってくる。
いや、私がぶつかりに行っているのかもしれない。
まさにピンボール状態である。
ピンボールだったらかなりの高得点になるだろう。
きっと世界大会へ出れるかもしれない。
ヤンキーと肩がぶつかって「どこみとんのじゃワレェ」なんて言う描写がよくあるのだが、「ぶつかった時点でお互い様じゃねえの?」とよく思う。
しかしぶつかると大体の人がうざそうな目で見てくる。
「俺もウゼェって思ってるからな」と心で思い「すみません」と口から吐く。
所詮この町では私はそういう弱い人間なのである。
(たぶんどこでも同じ)
たまに想像するのだが、この世界がウォーキングデッドみたいになったら逃げ切れる気がしない。
敵が多すぎる。
ダリルですら即死ですわ。
スクランブル交差点のゾンビの多さなんてもはやダンスフロア、芋洗い。
井の頭線から東横線の乗り換えだけで映画一本できそうだなと思いながら中目黒へ着く。
当然中目でも同じ状況が続いている。
都会の喧騒を離れ誰ともぶつからない場所で物思いにふけたい、そう思いながら打ち合わせ場所へ行くとそこは19階。
街ゆく人々がゴミのようだ。
私はこんなにも高い場所からゾンビ達を見下ろしている。
ピンボールゾンビ達を見る神なのである。
そんな事を考えながら打ち合わせは無事終了した。
また東横線から井の頭線の乗り換えが待っている。
だが先ほどまでの私ではない。
19階からお前達を見下ろしていた神なのだ。
「あぁ〜すみません」
「おっとごめんなさい」
「会釈」
「すみません」
あれおかしいな。
行きと全くと言っていいほど同じである。
うざそうな顔をされるのにも慣れてしまったが、「なんか悔しいよぅ」と心の中で叫びながら急足で電車に乗った。
すると帰宅ラッシュのダンスフロア広がっていた。
芋洗いである。
我々同室のダンサー達は摩擦で火が起こせそうな状態のまま揺れている。
「この摩擦エネルギー発電にでも使えよ」と思わずツッコんでしまった。
最寄りの駅に着く頃には摩擦エネルギーはほとんどない。
だが私のHPもほとんどない。
駅に着くと目の前にバスキンロビンズが見えた。
私は絶対に31と言わない。アメリカ育ちを舐めてもらっては困る。
(アメリカに行ったことはない)
「こんな所にバスキンロビンズあったっけか」と思いながら、光に吸い寄せられる虫の如く入店してしまった。
お会計が終わり商品を受け取った際、店員さんにありがとうと言いお辞儀をしながら少し下がったらものすごい勢いで何者かがぶつかってきた。
すごい衝撃のあまりめちゃんこびっくりしながら「す、すみましぇん」と噛んでしまった。
すぐ振り返るとお店の看板だった。
「めっちゃ気まずい」
店員さんの冷ややかな目を感じそそくさと退店したのだが、看板にぶつかって謝って店員さんに何コイツ顔されるとは思っても見なかった。
たいして都会でもないのにこの様である。
「悔しいよぅ」と心の中で叫びながら急足で帰路に着く。
駅から出ると雨が降っていたのだが、打ち合わせしたオフィスに傘を忘れてきたことに気づく。
「今日全然ツイてないじゃん」と思ったが、仕方がないので小走りで帰ることにした。
歩道に入ってすぐ、めっちゃでかい木にぶつかった。
また冷ややかな視線を感じる。
「クソ恥ずいやん」と思い急足でその場を離れようとしたら次はポールにちんこをぶつけた。
「誰だよこんなとこにポール建てたやつ、行きはこんなん見てねえぞ」と思ったのだがクソ恥ずかしいので急足でその場を離れると、今度は枝垂れている木に顔面からつっこんだ。
雨が降っているので当然全身ビチョビチョになった。
ここまでくるとおそらく私が悪いのだろう。
往復でぶつかった人達に深くお詫び申し上げたいところである。
「てか前見て歩け」と言われそうだが、街の景色とか人見ちゃうんですよね。
こればっかりはすみましぇん。
家に着き棚の角で小指をぶつけ半べそを掻きながらバスキンロビンズを食べ、ピンボール男の長い1日が幕を閉じた。
坂本九には申し訳ないが、これからはもう少し前を見て歩こうと誓った。
そしたら涙は溢れるどころか出もしないし恥ずかしい思いもしないで済むだろう。
そういう話。
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