決戦の土曜日 後編
こんにちは、マタイです。前編を読まれていない方は下記リンクより、すでに読まれている方はありがとうございます。後編も読んでいただけたらと思います。
前編はこちら
一点補足として。
前編では初デートと書いてありますが、10月に一度デートしていましたね。仕事絡みの展示会に行き、そのあと終電まで一緒にいました。そのときはお昼過ぎに待ち合わせ、展示会、時間が微妙だったので栄周辺をぶらぶらで夜ご飯でした。なので今回のような美術館へ行ったなどというデートらしいデートは今回が初めてです。
ガウディとサグラダ・ファミリア展(補足として)
撮影禁止エリアばかりで詳細をお伝え出来ないのは心苦しいですが、間違いなく言えるのは1800円払う価値のある展示だということです。手書きの詳細な図面には技術職の私も彼女も関心しきりでした。
またサグラダ・ファミリアの建設には日本人も携わっています。電波少年の加賀谷さんじゃないですよ。彫刻家の外尾さんが参加されています。実際に外尾さんが担当された彫刻の展示もあります。是非ご覧になっていただきたいです。
再び名駅へ
名古屋市美術館から名古屋市科学館の脇を通り白川公園を出ると、ビルを抜けてきた風が吹き寒さを強く感じました。何気なく車道側を歩く彼女に
「こっちは僕の歩く道なので、もう少し避けてくれないかなぁ?」
ほんの少し、本当に半歩分だけ避ける彼女
「・・・マタイさん紳士、あの人絶対気付かないから・・・」
寒さのせいか私と彼女の距離はぐっと縮まっていました。手が触れ合うほどの距離。それでも私は「あの人」というフレーズの中に彼女の隠されている気持ちを感じて手を繋げないでいました。
(やはり彼女は旦那さんのことを愛しているんだ・・・当たり前だけど・・・)
でも本当は彼女は温もりを求めていたのではと今では思っています。「あの人」に対する期待値を今では何となく分かる気がするからです。
駅までの数分、色々な事を話しました。これからの仕事のこと、本当はどんな仕事がしたいか、転職活動のこと。
「本当はマタイさんの下で仕事がしたいです・・・それなら転職する必要もないんですけど・・・」
「一緒に仕事出来たらこんなに素晴らしいことはないね。技術者としての感性や分析力、仕事をやり遂げる責任感。全てにおいて安心して仕事を任せられるし、僕の経験値や知見を加えれば僕を凌駕する技術者になると思う。何より一緒に仕事するときっと楽しいはず」
「うん・・・何年か前に新しい室ができて、マタイさんが室長になって私が入る構想があったの知っています?部長が青写真の段階だけどって話してくれたことがあって、でもマタイさんその後すぐに休職しちゃったから話が消えてしまって・・そして私も異動になって・・・」
「そうだったのか・・・」
私は絶句しました。
私は2年前に過労によって2か月間休職をしています。現在ではその休職分を取り戻して余りあるところまで来ていますが、もしこれが本当であれば取り返しのつかない損失。これも運命なのか・・・そう思わざるを得ませんでした。
電車の中は混雑していたこともあり2人とも無言でした。私は彼女から聞いた話で頭が混乱していました。今となってはどうしようもないことは分かっていましたが、それでも悔いが残ります。当時の部長どころかすでに部長は2人変わっていて、この構想が今に引き継がれている可能性は皆無。言いようのないやりきれない気持ちになりました。
そして再び名駅へ
肉を喰らい大いに語り合う
前回のデートの時も夜は焼き肉を食べましたが、正直あまり美味しくなく彼女に悪いなぁと思っていたので、今回は何度か行ったことのある肉の美味しいお店でリベンジです。
彼女の好き嫌いがあまり良く分からなかったこともあり、コースにせず適当に注文。私事ながらここのビールは大好きなプレモルの香エールなので、ビールオンリーで飲み続けられます。
ここでも話は主に仕事のこと。時々旦那さんとの話になったりでした。その中でも特に印象に残っているのがやはり一緒に仕事がしたいと言ってくれたことと「あの人」ことでした。
現在彼女は私の上司と仕事をしていますが、私の上司の仕事に対する姿勢や配慮のなさに辟易している様子です。例えば私の上司⇒彼女というふうに仕事が時系列的に直列である場合、私の上司は予定を2・3日程度平気で超過します。完了日が決められている場合、これは彼女にとって負担でしかありません。超過したことに対する謝罪もなければ責任感もありません。自分が終わればその仕事は終わりという認識しか持てない人で、当然リカバリーなんて考えていません。
「次も開発側の担当は私になったので、生技側はマタイさんがいいなー」
「ほかのラインの生準が被っているからね、どうだろ?うちの上司じゃダメなの?」
「Iさん、何でも頭ごなしで否定して来てちょっと怖いです。予定も普通に遅れるし。年末の最終日なんて16時まで工事してて、その後私が設備を触らなきゃいけなくて・・・本当は前日で終わっている予定だったんですけどね・・・」
「そりゃ大変だったね。Iさんはいつもそんなもんなんだよね・・・ちなみにその日Iさんはとっとと定時で帰っていったよw」
「そんな人なんですね・・・やっぱりマタイさんと仕事したいなぁ」
「オーケー、声が掛かったら死んでもやるよw 声が掛からなかったらゴメンね。でも相談には乗るから」
そして「あの人」のこと。
彼女が「あの人」と言うと後ろめたいような、照れているような表情になります。しかしネガティブな感情を読み取ることは出来ません。私も奥さんや家族の話をするときは、何となく後ろめたいような気がします。そして彼女も若干身構えたり、どうやって反応したらいいのか分からないような表情をします。きっと私も同じような表情をしていたはずです。
お互い家族を持つ身。でも2人でいるときは2人だけの世界。お互いバックグランドは忘れている(忘れているように振る舞っている)だけで、ほんの少し振り向けばそこには普段の世界が横たわっています。家族の話をすることは、2人の非日常の世界に普段の日常の世界が割り込んでくることなのです。非日常に日常を持ち込む後ろめたさなのかも知れません。
ただ彼女はやはり「あの人」を愛しています。これからの結婚生活のことも少しですが話してくれました。子供は欲しくないけど親のプレッシャーが厳しいだとか少し郊外に家が欲しいなど。老後も快適に過ごせる家はどんな家だと思いますか?などなど。
私も同じように家族を捨ててまで彼女と一緒になる選択肢はありません。恐らく今のような近ず離れずが飽きるまで続くのがいいのでしょう。
焼き肉店を出て近くのバルで飲み直しましたが、話題は同じ。彼女は少し飲みすぎた様子で眠たそうでした。
帰りの電車で彼女は間違いなく寝るだろう、そう思い彼女を最寄りの駅まで送ろうとすると、彼女は頑なに大丈夫だ言って首を縦に振りません。彼女は1人になると気が抜けるタイプ。私もここは譲りませんでした。
あんなに頑なだったのに電車に乗ると何だか嬉しそうに話し出します。このギャップが私にはたまりません。
(えー!さっきまでツンツンしてたのに、今度はデレデレしてるやん。何このギャップ、めっちゃ可愛いんですけどwww)
堪えきれずにニヤニヤしていると
「何が可笑しいんですか?」
「いや、何だか楽しそうに話すからこっちまで楽しくなってw」
「楽しいに決まってるじゃないですかw」
「楽しいに決まってるねw」
時より窓の外を見ては明るいとここの景色がきれいだとか、ここの坂は春になると菜の花がたくさん咲いてきれいだとか話してくれました。
彼女と一緒に電車を降りると彼女は言います。
「お疲れ様でした。また明後日お会いしましょう」
私たちは明後日から仕事始め。
「なんか嫌な響きだなw でも今日は楽しかった。お疲れ様。今日はすぐに電車に乗るけど、とりあえず家に着いたは知らせてね」
「大丈夫ですよ、忘年会の時とは違います」
彼女は忘年会のとき飲み過ぎて千鳥足でした。
「ぶーっ!ダメダメ。あなたはしっかりしているようでしっかりしていないキャラだから、心配でならん。必ず連絡、オーケー⁉︎」
「分かりましたよw もー心配性だなぁw」
こうして彼女との夢のようなデートは終わりました。
私はぼーっとしながらただ彼女が姿を消した暗闇をしばらく眺めていました。
(寂しい? いや気持ちが満たされているし今日は本当に楽しかった。本当にありがとう。今はそんな気持ち)
この気持ちが今でも続いていて、とっても彼女に恋焦がれているのに穏やかな気持ちでいます。いつまでこの気持ちが続くのか分かりませんが、この気持ちを大事にしていきたいと思います。
終わりに
ここまで読んでいただいてありがとうございます。稚拙なところもありますが、これが先日彼女と起こったことですし、今の気持ちです。
「今日は付き合ってくれてありがとう。本当に楽しかった!」
(また今度も付き合ってほしいな・・・これはとりあえず我慢)
「こちらこそ、とっても楽しかったです!」
我慢をして次を誘うのをやめました。とても親密な雰囲気だったので逆に距離が空いてしまう可能性を考えた為です。ですが今のところそれはなさそうなので次を誘ってみようかなー?
終わり