How are you? I'm fine. の効用
How are you?
I'm fine, and you?
カナダに住むようになってから何百万回?何千万回?と繰り返してきたこのやり取り。いつもの挨拶として、しばらくぶりに顔を見たとき、見知らぬ人に声をかけたいとき、店員に話しかけられるとき、電話口で、コミュニケーションのきっかけとして…とにかくいつでもどこでも使うことができる便利なフレーズ。
最悪の日であっても、"How are you?" と聞かれて "I'm bad." と答える人はいない。"I'm okay."はあっても、ネガティブな答えをする人は見たことない(もちろん、その後の立ち話でぽろぽろと本音が出ることはあるが)。
返事がわかっていながら聞く、つまり本当に尋ねているのではない。お決まりの、ほぼ形骸化しているこのやりとり。「返ってくる言葉はわかっているのに、なんで毎度毎度同じことを聞くんだろう?」と斜に構えた時期もあった。
そんな時期を経て今は、このやりとり、実はとても良い習慣ではないかと思っている。
人生はいい日ばかりではない。朝出掛けに鍵が見つからずに大慌て、やっと見つけて家を飛び出せば、そんなときに限ってバスが遅れて遅刻する。職場でメールを開いてみれば、先日片を付けたはずのややこしい問題が送り返されてきている。おまけに緊急案件が同時にふたつ。さらにマネージャーからも呼び出しが。Ahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!
こんなとき、誰かに"How are you?"ときかれ、嘘でもいいから"I'm fine."と返す。自分の口でポジティブな言葉を発し、自分の耳でそれをきく。言霊のパワーをかりて自分の脳をだまして、なんとかその場を乗り切る。一人にきかれ、三人にきかれ、五人にきかれ、その度に"I'm fine."と繰り返して答えるうちに、自分自身もだんだん大丈夫だと思えてくる。
"How are you?" "I'm fine."には、そんな効用があるのではないだろうか。だからこそ、毎日毎日誰もが同じやりとりを繰り返す。いい日も悪い日も。幸せな日も悲しい日も。"How are you?" "I'm fine."は、生きるための知恵なのだ。