【古き良き日本の夏を旅する#2】島根県/出雲地方
紺碧の海にみなぎる壮大な気配
(写真)日御碕灯台:日御碕灯台の高さは43.65m。明治36年に設置され、国の登録有形文化財にも選ばれている。 参照元:島根県観光連盟
潮香る灯台の街で安らぎのひととき
夏の海風が心地良い景勝地日御碕。この季節には訪れる人も多く、海辺の岩山には釣り人の姿もちらほら。
岬の先端にそびえる日御碕灯台を下から見上げると、日本一の高さに目がくらんで空に吸い込まれそう。灯台内部の狭いらせん階段を登るのは少し大変ですが、展望台からの眼下に広がる日本海と島根半島の雄大な景色は一見の価値ありです。
灯台を降り、松並木に囲まれた海岸沿いの遊歩道をのんびり散策。潮風の香り、岩にぶつかる波しぶきの音、進むほどに景色は姿を変え、何十年、何百年の年月をかけて自然が造り出した奇岩や絶壁の造形美にしばし日常を忘れるようでした。
(写真)参照元:PhotoAC
長い遊歩道を歩き終えて駐車場に向かう道に差し掛かると、イカ焼きの香ばしい匂い。見るとあちこちの店先でサザエのつぼ焼きやイカ焼きが売られています。エプロン姿のおばちゃんが「食べて行かんかねー?」と甘い誘惑。歩き疲れてちょうどお腹も減った頃なので、イカ焼きと名物の海鮮丼を注文しました。店に入ると畳のお座敷に昔懐かしい扇風機。贅沢に盛り付けられた魚介に秘伝のタレをからませて豪快に味わい、日本海の旨さを堪能しました。イカ焼きは持ち帰りで、行儀悪く歩きながら食べるのが醍醐味。通りの商店に並ぶフグ提灯や貝殻のネックレスに海辺街の情緒を感じ、昔訪れたことがあるような懐かしさに和みながら日御碕を後にしました。
(写真)肉厚でジューシーなイカ焼きは名物の一つ。
(写真)名物の「みさき丼」 参照元:島根県観光連盟
日常に溶け込む神々との暮らし
(写真)神社建築の中で日本一の高さを誇る出雲大社。平安時代には現在の約倍の48mあったといわれている。
日御碕を海沿いに降りて行くと海岸「稲佐の浜」があります。ここは秋の神迎神事に全国の八百万の神たちをお迎えする神聖な場所。
八百万の神とは―。日本では古来、森羅万象に神が宿ると考えられました。山の神、海の神、田畑、台所、果ては米粒一つにも神様がいることを、親から子へと伝え、自然の実りに感謝し、災害には祟りと恐れ、苦難の時には心の拠り所にして八百万の神と共に生きてきた長い歴史があります。
現代では昔ほど神を普段から敬うことが少なくなりましたが、この地方は神事が残る土地柄でしょうか、日常的に神を敬い日々感謝をして暮らしているのだと感じます。
(写真)稲佐の浜は出雲大社の祭神、大国主命が国譲りの談判をした場所としても知られる。
例えば神在月の十月、稲佐の浜に降りられた八百万神様たちは出雲大社で縁結びの会議を開かれるのですが、その期間この辺りは「お忌みさん」といって神様たちの会議の邪魔にならないよう、静かに過ごす習わしがあります。そのように神様と共に生きる姿勢が、この土地には当たり前のように残っているのです。
出雲大社を参拝。神域である境内には森厳な空気が流れ、なにか巨大なものの気配があるようです。浮雲ただよう青空に突き刺さるような千木を仰ぎ見ると、壮大な神代の世界がここに存在したことは想像に難くありません。
神々の国、出雲。私たち現代人が置き忘れてきた何か大切なことを思い出させてくれるような気がします。
番外編(冬)
(写真)雪化粧の出雲大社御本殿(なかなか出会えることは少ない)