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Mabuhay(マブハイ)!フィリピンバスケット事情(プロリーグ編)

 NBAもBリーグもシーズンオフの現在、バスケットファンの皆様はいかがお過ごしだろうか。以前の記事(https://note.mu/matsusho/n/nd7e82e55defa?magazine_key=mc1d2fc447a49)で、フィリピンがいかにバスケットボール愛にあふれた国であるかをご紹介したが、今回はそこからさらに踏み込んで、日本ではほとんど知る機会のないフィリピンのバスケットに具体的に迫っていきたい。

本記事においては同国のプロリーグであるPBAについてご紹介しようと思う。こんなマニアックな話題に誰が興味を持つのか、自分自身がそう感じつつも書き進めている。読み始めた人は暇つぶし程度に読んでいただければ幸いである。

なお、ご存知の方もいるだろうが、先日のワールドカップ予選でフィリピン代表はオーストラリア代表と大乱闘を起こした。ただの「小競合い」ではなく、「大乱闘」である(※詳しくは文末リンクをご参照)。

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写真:CNN https://edition.cnn.com/2018/07/02/sport/australia-philippines-basketball-brawl-video-spt/index.html

そのようなフィリピンのバスケットに対しては複雑な心境の方もいるかもしれないが(あの一件に関しては筆者も大変残念な心境である)、良心的なフィリピンのバスケットファンはあの一件について、恥じて、悲しんでもいる。フィリピンバスケをこれだけで判断しないで頂ければと願うばかりだ。

さて、気を取り直して。

■そもそも、PBAとは?

 PBAとはPhilippine Basketball Association の略称であり、冒頭にも述べたようにフィリピンのプロリーグである。意外なことに、同リーグは1975年に始まり、現行の世界のプロバスケットリーグの中ではNBAに次ぐ長い歴史をもっている。参加チームは12チーム、それぞれのチームは企業が保有しており、選手はプロとして活動している。この点は日本のプロ野球のようなものか。

ただし、興味深いことに12チームのうち半数のチームをたった2つの企業グループが占めている。同国最大のビールメーカーであるSan MiguelグループはSan Miguel Beermen、 Barangay Ginebra、Magnolia Hotshots という3チームを保有しており、また電力・通信などを手掛けるMVPグループはTNT KaTropa、NLEX Road Warriors、Meralco Boltsの3チームを傘下に持っている。

実に奇妙な構図のため、これに違和感を覚えているフィリピン人も少なくないようであり、1企業(グループ)1チームにすべきとの議論も噴出している。

■リーグはどこで開催?アリーナは?

 NBAやBリーグとは異なり、PBAにはチームごとの「ホームアリーナ」が存在しない。基本的にマニラ近郊にあるMall of Asia(モール・オブ・アジア)、Araneta Coliseum(アラネタ・コロシアム)の二つのメイン会場を中心に全チームが試合をしている。

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写真:アラネタコロシアム   https://es.wikipedia.org/wiki/Archivo:Araneta_Coliseum_Basketball_with_Big_Cube_2011.JPG

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写真:モール・オブ・アジア(筆者撮影)  

この2つの会場はどちらも1.5~2万人程度の収容人数であり、規模としては日本に存在するほとんどのアリーナより大きい(写真参照)。また、開幕戦やファイナルなどのビッグイベントにおいてはフィリピン・アリーナが使われることもあるが、同アリーナはインドアアリーナとしては世界最大級であり、5万5千人もの人が収容できるという桁違いのスケールである。2017年のガバナーズ・カップファイナル第7戦では、ほぼ満員に近い5万4千人の観客を集めたという。

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写真:フィリピン・アリーナ(筆者撮影)  

筆者は実際にこれらのアリーナに足を運ぶ中で、バスケットボールの試合でこの規模のアリーナを埋め尽くすファンの熱気に驚きと羨望を覚えた。いつかは日本も・・・!と思うばかりである。

ただし、ファンの熱気は凄まじい一方で、別の観点から眺めると、運営のオペレーションや会場の導線、誘致テナントの質、グッズ販売の方法など、あらゆる点で荒い部分が目立ち、改善の余地は大きいと感じたのも事実である。そのあたりはいわゆる「フィリピンあるある」でご愛嬌とも言えるが、プロリーグとして質を高める上では大切な要素であるため、今後の改善が望まれるところだ。

■シーズンやルールは?

 PBAはシーズンについても極めて特殊な形態を取り入れている。フィリピン・カップ、コミッショナーズ・カップ、ガバナーズ・カップという3つのシーズン(「カンファレンス」と呼ばれているが、いわゆる「所属地区」としてNBAなどで使われているカンファレンスとは異なる)に分かれており、それぞれのシーズンでレギュレーションが異なる。

例えば、コミッショナーズ・カップ、ガバナーズ・カップでは外国人選手の出場が1名認められているが、コミッショナーズ・カップでは外国人選手の身長が約208cmに制限されており、ガバナーズ・カップでは約195cmと決まっている。さらに、フィリピン・カップにおいてはフィリピン人しか参加することができないという閉鎖的なルールを設けている。また、シーズンの開催期間もFIBAの大会などに合わせて変わることも多い。試合のルールとしてはNBAとFIBAのルールを組み合わせたものが採用されている。

■人気チーム・選手とその実力は?

 人気チームNo.1は何といってもBarangay Ginebra(バランガイ・ギネブラ)であり、他のチームとは一線を画す存在である。また、選手たちの実力はどうかというと、日本と比較して決して低いわけではない(むしろ高いと言えるかもしれない)。特に平均的には身長が低めのフィリピン人は、ガードポジションは熾烈な争いであり、豊富なタレントが存在している。とりわけ、ウィリアム・カストロやテレンス・ロメオといったフィリピン代表にも名を連ねるガードのスター選手は、1対1の力強さや爆発的な得点力を持っており、個人的にはBリーガーでも止められる人はそう多くないと思われる。

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写真:テレンス・ロメオ FIBA  http://www.fiba.basketball/news/terrence-romeo-raring-to-play-for-gilas-once-again

 筆者は現在のところ10試合程度しか観戦できていないが、基本的にフィリピンのバスケットスタイルは「個」が強く、小さいながらも強いフィジカルを活かした一対一が特徴と言えるだろう。またストリート文化も強いためか、ハンドリングやパスもクリエイティブなプレーが目に付く。日本の基本的なスタイルとは大きく異なるため、一ファンとして興味深く観ている。

 以上、今回はPBAについて簡単に紹介させていただいた。歴史もあり、同国に根付いているプロリーグであるため、依然として根強いファンがいるリーグであるが、その一方、実はビジネス施策の拙さやガバナンスが疎かな点が露呈しており、近年では人気が下降傾向だとも言われている。筆者もそれらの観点からは言えることがまだ山ほどあるが、本記事においては差し控える。

様々なことを述べたが、日本を出て他国のバスケに触れることは純粋に面白く、興味深いものだし、学ぶことも多い。筆者は日本とフィリピンのバスケットをつなぐ取り組みにもチャレンジしようと思っており、今後もフィリピンバスケについて、情報を発信していこうと思う。

※なお、以前にも述べているが、タイトルのMabuhayはタガログ語で「万歳」、「乾杯」、「ようこそ」などの意で使われている言葉である。

【参考】
http://www.pba.ph/
https://en.wikipedia.org/wiki/Philippine_Basketball_Association
http://news.abs-cbn.com/sports/10/27/17/pba-league-record-attendance-reset-as-54086-attend-game-7
※注:フィリピンーオストラリアの乱闘
(※7月2日のワールドカップ予選でフィリピン代表がオーストラリア代表と大乱闘を起こし、フィリピン9人、オーストラリア4人が退場処分となり、試合は途中で中断となった)
https://basket-count.com/article/detail/6418
https://www.theguardian.com/sport/video/2018/jul/02/mass-brawl-australia-v-philippines-basketball-game-video

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