狂気のディテール_金沢にて
昨日から出張で金沢に来ている。
金沢に来たのは初めてだ。せっかくの機会なので帰りの飛行機を遅い時間にして、仕事の予定が終わったと、3時間ほどレンタサイクルを借りて町を散策した。
歴史のある街らしく、日本海側の地方都市にありがちなとってつけたような感じがなく、お城を中心として自然も多く、古い町なみが美しい。
金沢に行く機会があれば行ってみたかった美術館を二つ巡る。
一つ目は「金沢21世紀美術館」。設計は妹島和代と西沢立衛による建築ユニットSANAA。直径112mの円形のガラス張り建物の中にいろいろなボリュームの四角い箱がうめこまれたような建物で、これまで見たどんな美術館とも違う独特の形をしている。そう言われてもイメージできないかもしれないけれど、そうとしか言えないし、実施見ればその通りだということが分かる。
外周すべてが曲面ガラスで非常細い鉄骨の円柱で支えられえおり、内部の壁は鉄板とガラス。天井もスチールパネルか乳白色のアクリルで作られており、全体的につるりとしていて、建築的なディテールがほとんど隠されている。まるでSFの宇宙船の中のようだ。
企画展は現代美術館らしく「D X P (デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ」と言うタイトルだ。
デジタル技術を活用した様々なインスタレーション。デジタルの粗雑さも含めてとても現代的な展示が続く。正直に言って私にはうまく理解できない。それは私がデジタルの感性についていけないということなのかもしれない。
次に向かったのは谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館。日本のモダニズム建築を代表する谷口吉郎の生家跡に、こちらも日本を代表する建築家である息子の谷口吉生が設計した記念館だ。
谷口吉生の建築はシンプルで美しいディテールが特徴的だ。SANAAの建物のようなSF的、力ずくなフラットさではなく、建築意匠的な意味の中で作りこまれたディテールは、突き放したような冷たさではない、人間的な温かみを感じるけれども、乱暴さのない理詰めのディテールの中に、静かな狂気を感じる。勢いよく、乱暴にフラットさを作り込み、できなかったらしょうがないか、というような粗さを感じるSANAAの建築と逃げ場のないディテールに追い込む谷口の建築。どちらが良い悪いということはないど、恐ろしいのは間違いなく谷口の建築だと私は思う。
企画展示と常設展示があり、常設展示として現存する国の施設である谷口吉郎設計の迎賓館赤坂離宮和風別館「游心亭」の広間と茶室を原寸大で再現されている。
そして企画展は「アニメ背景美術に描かれた都市」
展示アニメーション作品は以下の通り
・AKIRA(1988/監督:大友克洋/美術監督:水谷利春)
・機動警察パトレイバー劇場版(1989/監督:押井守/美術監督:小倉宏昌)
・機動警察パトレイバー2 the Movie(1993/監督:押井守/美術監督:小倉宏昌)
・GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊(1995/監督:押井守/美術監督:小倉宏昌)
・メトロポリス(2001/監督:りんたろう/美術監督:草森秀一)
・鉄コン筋クリート(2006/監督:マイケル・アリアス/美術監督:木村真二)
展示数はそれほど多くないけれど、筆の跡までわかる原画が展示されており、見ごたえたっぷり。
ロケハンの写真なども展示されていて、その作品が好きな人にとってはたまらないと思う。
都市の風景として描かれる背景画は、どれも非常に細密な描写となる。一枚書くのにもどれだけ大変なのかと思うけれど、アニメーションではこれがシーンの分だけあるということだ。どうやって描いているのかと言えば、一枚一枚手で描いて、絵の具で色を塗っている。そこにデジタルの世界では感じることのできない人間の狂気を、私は感じる。
二つのシンプルなディテールの建物の中で開催されている、二つの企画展示。デジタルと手仕事と言うような単純な比較できないけれど、ひとついえるのは現代の表現のほうが、乱暴で、粗く、一つ前の世代のほうが緻密で繊細だ。そこに込められているのは職人の技とか言うレベルではなく、もはや狂気だ。人間がやろうとすればここまでできるんだ、という極限の世界を見せてくれる人たち。
ワークライフバランスの世界では、こんな狂気の世界を集団で作り上げることなど、もうできないのかもしれない。