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2025年1月に行った美術展他 感想

 1月に行った展覧会を一覧にして、少し感想も書いてみようかな〜と思い立って書いてみました。展覧会によって長さが全然違いますが、優劣をつける意図はなく、個人的に書きやすかったかそうでなかったか、という違いです。
 展覧会名は行った順。結構どれも滑り込みで行ったので、もう会期終了しているものがほとんどかなと思います。

・「レオ・レオーニと仲間たち」(板橋区立美術館)

 デザイナー・イラストレーターの友人と行ったので、その視点からの感想も聞けて面白かった。たくさんのねずみがいる中で主人公のねずみをどう表現するか、ビジュアル・コミュニケーションの観点から言及したパネルがあったが、友人は、そこに特に興味を持っていたよう。
 レオーニがニューヨークにいたのは1939〜1961年で、私の関心と重なる場所・年代なのだけど、同時代のデザイン史についてはあまり知らなかったな、と思いながら観ていた。
 レオーニは、デザイナー・アートディレクターとして仕事をしつつも、画家への憧れがずっとあったんですね。1930年代頃の絵画を観たときは、確かにデザインの方に才能がある人なんだろうな、と思ったのだけれど、「平行植物」シリーズの大量の素描あたりから、一気に画家になっていったように見えた。
 絵本の原画を中心とした展示室は、絵本を手に取れる椅子も並べられており、親子連れが会話しながら観たり、絵本を読み聞かせたりできる空間づくりになっていたのもとても良かった。

・「没後100年中村彝 アトリエから世界へ」(茨城県近代美術館)
 
初対面の方含む数名のアートツアーに現地で合流する形で観に行った。
 西洋絵画受容の過程が、当時の美術出版の状況や具体的な蔵書、彝がみた可能性の高い雑誌図版などの説明・紹介も交えて、とても丁寧に提示されていた。作家の実直さと、展覧会の作り方の実直さが重なるような展覧会だった。一方で、突き抜けたものをあまり感じなかったのだが、これは作家と今回のキュレーション、どちらの性質によるものなのだろうか。
 私が一番気になったのは、最晩年の作風の変容と、彝自身の言葉(うろ覚えだが、今までの静物画の描き方とは全く異なるシンボリックなもの〜というような表現)。全体を通した丁寧さに対して、最晩年の作品の扱いが結構あっさりな印象を受けたのだが、このあたりについては、まだあまり検証が進んでいないのだろうか。
 長く病身で、自分の生命の限界を感じる中での最後の数年間が、オリジナリティ獲得の足掛かりを掴んだものであってほしい、と思ってしまうのは、「早逝の洋画家」という物語を期待しすぎているのかもしれない。彝の画業が、仮に西洋絵画の優秀な受容者というのに留まるものだったとしても、おそらく自身の体調から留学等も叶わない中で、西洋絵画を学ぼうとし続けた…というのは、それだけで真に迫るものがある気もしている。美術館本館の横にある再現アトリエに入り、その狭さを体感すると余計にそう思わされる。新宿区の中村彝アトリエ記念館にも、近いうちに行ってみようと思います。
 
・「田村友一郎 ATM」(水戸芸術館 現代美術ギャラリー)
 
茨城近美の後に行った。
 こういう作品について感想を書くのが苦手かもしれない…。「話しているのは誰?ー現代美術に潜む文学」(2019、国立新美術館)は、絶対に観にいっているはずなのだが、そこにどんな作品が展示されていたのか全く思い出せず、アートツアー参加者の皆さんに教えていただくも、未だ自分の記憶として甦ってきていません…。
 
・「クリテリオム01   渡邊拓也」(水戸芸術館 現代美術ギャラリー)
 
新進作家にスポットをあてる企画シリーズなのかな。最後の一部屋を使った個展。すごく大きい展示室というわけではないけれど、メインの企画展+もう一つ、個展形式で企画を走らせられるようになっているのめっちゃ良いな〜と思いました。映像+文章を中心としたインスタレーション展示。

・「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」(銀座メゾンエルメス)
 
最終日の閉館30分前に会場につき、これ以上ないほどの滑り込み鑑賞。東京国立博物館会場の記憶がやや薄れつつあったのですが、個人的には、東博の展示はあまり良いと思えなかったのですよね。対して、メゾンエルメスは良かった。去年の3月に豊島美術館に行って、とても感動し、東博での展示を観て、あれ?みたいな感覚がありつつも、豊島美術館はそのためにつくられた空間なのだから、あの良さがないのは仕方がないのか…とも思っていて。メゾンエルメスの展示がとても良かったので、何が東博と違ったのか?を少し考えてみた。(繰り返しになりますが、あくまで個人的感想です) 
 一つは、空間の重さ/軽さ。内藤礼作品は、展示空間との関係がとても重要だと思うけれど、東博の空間は、全体的に作品に対して重厚感がありすぎたように思う。彫刻の展示室だったか?を使った1番広い会場が特にそうだったが、第一会場も多分普段は、もっと重さのあるものを展示している空間じゃないですか。そのせいか、あまり内藤礼作品と合っていると思えなかった。対してメゾンエルメスは、吹き抜け構造やすりガラスのような窓など、空間に軽やかさがあって、それが作品と調和しているように思えました。 
 二つ目は、内藤礼展のためだけに空間が独立しているか/いないか。内藤礼作品の面白さの一つに、鑑賞者が作品の影響を受けた動きをすることがあるかな〜と思っていて。豊島美術館で、鑑賞者が空を眺めたり、水の流れを見つめたりしながら、座ったり立ったり、場所を移動したりしているのがとても良くて。今回の展示でも、ごくごく小さかったり、意外な場所にふとあったりする作品達に、鑑賞者が注意を向けながら会場で過ごしていること自体の良さがあったなと思っています。東博会場のうちの一部屋は、通路のような位置にあったため、内藤礼作品があることを知らずに足早に通り抜ける人も多く、その良さが損なわれているように思いました。それぞれ色々な感じ方があるでしょうが。
 
・「THE 新版画」(うらわ美術館)
 
展示の中心の1人である川瀬巴水の作品を、多分今までちゃんと観たことなかったのだけれど、すごく良いですね。特に、夕闇や水面の表現が良かった。暗い青が美しい。都会的というか現代的というか、10代の子とかに訴えるものがあるんじゃないだろうか。
 会場にあった技法解説パネルがとても勉強になりました。

・「うらわ美術館収蔵品展 近年収集した現代アートより」(うらわ美術館)
 
うらわ美術館の収集方針は、「①地域ゆかりの作家の作品 ②本に関する美術作品」の大きく二つらしく、①はだいたいどこもそうだが、②が面白いな〜なぜその方針にすることになったのかな〜と思いながら鑑賞していた。今回展示されていた作品の中にも、物質としての本を変質させたものや、本の内容(テキスト)との関係性を扱ったものなど、色々なものがあって面白かったです。
 また、あまり見た事がない「やさしい日本語」による解説パネルがあり、こういう取り組みがどんどん増えていくと良いなと思います。

・「アレックス・ソス  部屋についての部屋」(東京都写真美術館)
 
タイトルが示す通り、展覧会全体が7つ(だったか?)の部屋に見立てられた構成となっている。展示空間に文字情報が一切なく、全てハンドアウトにまとめられている。真っ白な空間に写真作品だけがある状態が美しいのは分かるけれど、作品配置自体がわりとコンセプチュアルなのに、ハンドアウトを一生懸命読まないと意図が汲めないのは、鑑賞体験としてどうなんだろう…、と少し思ってしまった。来場者の大部分が、展示室内でハンドアウトを凝視している状態ではあったので。ハンドアウトの文字のフォント数からして、高齢の方をそんなに想定してないかなという印象なので、(実際、写美にはどちらかというと若者が行っているイメージはある) それであるならばいっそ、QRコードを使うなどで、展示空間に文字情報を入れないのとスムーズな鑑賞を両立できないのかしら…と思ったりした。QRコードすら空間を壊すだろうか、、難しいね。
 個々の作品としては、最後の方に展示されていた、美術大学だったか?の石膏像などを撮った写真が好きだった。

・「現在地のまなざし 日本の新進作家vol.21」(東京都写真美術館)
 
個人的には、「アレックス・ソス」より、こちらの方が好きだった。
 大田黒衣美、金川晋吾の作品が特に印象的。個人の生活に密着した生々しさであるとか、そこからくる切実さみたいなものに惹かれるのかもしれない。
 展示されていた金川の作品のうち1シリーズは、女性1人と男性2人の共同生活を主題としたもの。ポリアモリーを前提とした共同生活ということか。比較対象として適切か分からないのだが、少し前に、「荒川ナッシュ医 ペインティングス・アー・ポップスターズ」(国立新美術館)に行き、同性婚と卵子提供・代理出産によって授かる予定の自分の子どもを主題として扱った作品を観たのですが。荒川ナッシュのその作品は、作家個人の話を題材にしてはいるが、少し主語が大きすぎるような印象を受けたのですよね。単に私の趣味かもしれないが、ごくごく個人的なものが作品に表れているほどに、かえって、家族や恋愛のあり方という普遍的なテーマについて、鑑賞する側が考えることができる気がしたりします。

・「生活のなかのかたち 武蔵野美術大学芸術文化学科春原ゼミプロジェクト2024」(井の頭公園自然文化園)
 
出身学科の3年生なのかな?のゼミ展示。(ぱっと見で学年がどこにも書いてなかったけれど、変わってなければゼミは3年からだし4年は卒制/卒論・卒展だから。私は違う先生のゼミでした。)
 少し気になってしまったのは、学生作品を学外で発表することと、学芸員的なことを体験してみること、どちらにより重きが置かれているのかあまり分からなかった点。そもそも展示されていた学生作品はゼミ生が制作したものなのかな?あまり普段から彫刻制作を志向している学生の作品に見えなかったので、そこが気になってしまいました。(もしそうであったら本当に申し訳ない) 学芸員的なことを体験してみることに重きを置くのであれば、展示作品の作者は他ゼミあるいは他学科の学生を連れてくることも可能だろうし、、。的外れだったら本当に申し訳ないが、とにかく後輩達を応援しています…! 

・「再開館記念「不在」 ―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」(三菱一号館美術館)
 
ロートレックとソフィ・カルという特に元々強い関連があるわけではない二者を「不在」というワードで繋ぐということらしかったのですが、私には、あまりそのキーワードが説得力を持って伝わってきませんでした…。
 ソフィ・カルの両親の死を扱った作品が展示されており、かなり「限局性激痛」(原美術館、私は2019年の再現展示で鑑賞)を彷彿とさせるものだったのだが、「不在」を主題とした作品という言葉でまとめて良いものとは思えず…。
 一方、コロナ禍で展示されることなく眠っているピカソ作品(梱包されている)を撮った写真シリーズのところは良いなと思いました。それは、作品の「不在」が主題ということでしっくりくるし、ふだん現存作家の作品を展示しない館で現代美術作品を展示することの理由づけとしても、美術館や作品の収蔵自体を扱っている、という点が面白く、説得力あるものに思えました。コロナ禍でソフィ・カルが来れるのが遅れた背景とも重なるので。

・「坂本繋二郎とフランス」(三菱一号館美術館)
 
小企画ながら、坂本が影響を受けたフランスの作家の絵画が充実のラインナップで展示されており、さすがフランス近代美術に強みのある館…!と思わされました。フランスを中心とする西洋近代美術の展覧会は行くが、近代洋画はよく知らないし興味がないという人は結構いる気がするので、こういう展示から洋画に興味を持つ方がいると良いなと思います。

・講演会「美術批評家・中原佑介が見た社会」:【美術と社会】シリーズⅠ<現代アート>」(練馬区立美術館主催、講師:加治屋健司氏(東京大学大学院総合文化研究科教授))
 こちらは展覧会ではなく、長期休館中の連続講演会企画の一つ。内容を少し備忘録として書いてみます。
 批評御三家(針生・東野・中原)のスタンスの違いが示された後に、本題となる中原の美術批評について、適宜、中原によるテキストの引用を交えながらレクチャーが進んでいく。
 
中原は一見、芸術至上主義に見られるがそうではなく、「社会の一セクターとしての芸術」という意識を強く持っており、現代美術を社会の中に位置づけるということを常に考えていた、ということ。その姿勢は、「人間と物質」展(1970)が元々「人間と物質のあいだ」という名称であったことにも表れている、というあたりが、全体のまとめに近い内容だったか。講義メモを見ながら内容を思い返してみると、1960年代においては、近代を乗り越えることが一つの課題だったが、中原は、芸術の中だけで近代を乗り越えることはできない、社会の価値観全体としてどう乗り越えるかを考える必要がある、という立場をとった、という部分が特に印象的でした。
 あと、質疑応答の時間に、戦後アメリカで台頭したモダニズム美術批評の日本における受容のあり方と、針生・東野・中原の批評との関係についての質問をされた方がいらして、私もそのあたりは気になったので、とても面白く聴いていました。このあたりは、私自身の関心に引き付けて少し考えてみたいな、と思わされました。

・「150年」(南池袋)
 
いつ行こうかな〜と思っていたらあれよあれよという間にバズって日時指定予約制になっており、予約開始後即チケットを購入。周りの特に現代美術好きというわけでもない人からも、行ったという話を聞いた。すごい。
 私は閉所が苦手で、加えてたまに何も無いところで転倒したりするほど運動神経がアレなので、安全に回ろうというのに必死であまり集中できませんでした…。SNS等で行った人々の投稿を見ていたら、自分がたくさん見落としをしているのに気づき、そんな状態で感想を書くのも失礼だと思うので何も書けません、、。(泣) 


 
 読み返してみると、個々の作品よりも展覧会全体の話を中心に書いているものが多いですね。あと、鑑賞してから少し経ってから書いてる箇所も多々あるので、不正確な箇所があってもご容赦いただけると…!
 他に、武蔵美と藝大の卒展、渋谷区立松濤美術館の須田悦弘展などに行きたかったのですが行けず。2月は何を観に行こうかな。豊田市美(しないでおく、こと)や富山県美(東野芳明)など、首都圏外で気になるものもありつつ、3月末までに引越しもしたいから、どうしようかなという感じです。一カ月で観た展示全部についてざっと書くの、結構時間かかるな。2月もやるかは分からない…です。ではまた。


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