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【いつも へぐよ】

 あれ、珍しいお客様だ。
こんばんは。ご一緒よろしいでしょうか。

 じゃお隣失礼します。俺が一人目ですよね。こういうお店はよく来るの。
 あ〜経験として試しにね、いいと思ういいと思う。あ、一杯頂いてもいいですか。
ありがとう。

 カバンからちらっとスケッチブック見えたんだけど、絵描きさん?
趣味でも何でも、好きで打ち込めることがあるのはいいことだね。
俺なんて、趣味と言えば窓の外眺めるくらいで。

 ほんとほんと、よくジジイみたいだなって言われるんだけど。こう、夏の夜に網戸にして外を走る車を見るのが好きなんだ。

 網戸越しにボーッと外を見ていると、だんだん視界がぼやけてきて網戸に焦点が合ったりまた車に焦点が合って網戸が見えなくなったり。

 そうして時間を過ごしていると、普段目にしている世界は俺の目が焦点を合わせているものが見えているだけで、本当はもっと見えていない素晴らしいものが世界には溢れてるんじゃないか、って気分になってくる。

 ごめんなさい、俺が話してばっかりで。
飲むのは止めておいた方がいいんじゃない。顔真っ赤だよ。
 このおつまみ、まだ手つけてないよね。食べるのも止めておこう。気持ち悪くなっちゃうよ。下げてもらうね。お願いしまーす。

 あ〜色の話ね。あなたの見ている赤と、俺の見ている赤が違うんじゃないかって話。
確かに、その話とも似ているね。

 どんなに近しい人間でも、その人の目から見た世界を見ることは、自分にはどうやったって不可能だ。
 長く一緒にいて理解したつもりになっても、他人を本当の意味で理解することは永遠に出来ない。そう考えると、絶望感が襲ってきてなんともやるせない気持ちになってくる。
バグでどうやってもラスボスが倒せないゲームをやっているような気持ちだ。

 少しわかるかも?嬉しいな、何度かひとにこの話をしたけど、何言ってんだこいつって反応ばっかりでね。

 ところで今日は何してたの?お仕事?遊び?

…黙っちゃった。困惑、って顔だ。
ここに来るまで何をしていたか、どうやってこの店まで来たか、覚えてないよね。

 たまにあるんだ、むこうの人がふらっとこっちに来ちゃうこと。
疲れてる時なんかにボーッとしてると、こっちにたまたま焦点が合っちゃうんだね。

 よくそんな言葉知ってるね。神話とか好きなんだ。でもここは黄泉比良坂ではないよ。

 わたしの世界。今のあなたはわたしの意識。
これであなたも、少しは楽になるんじゃないかな。
 来てくれて嬉しかった。ありがとう。
出口はこっちだよ。トイレ行くフリして着いてきて。

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