台北でやさしいコーヒータイムを。①
「また自由に旅に出られるようになったらどこに行きたい?」
最近は友人と架空の旅行ツアーを作っては妄想を繰り広げている。
ずっと憧れているウズベキスタンやインド、コーヒー生産国の中心である中南米にも行ってみたいし、行き慣れたアメリカやカナダにだってまた足を運びたい。
そうやっていろいろ考えるも、台湾かな、と、まるで生まれ故郷に帰るような懐かしさと安心感を持って、その国を想う。
4年前の夏、ボストンに短期留学していた頃のルームメイトは台湾から来た女の子だった。同い年だった私たちは、2ヶ月の留学を終える頃には一緒にニューヨークに寄ってから帰ろう、と言うほどに仲良くなっていたし、私は彼女のことを冗談めかしてマイエンジェルと呼んでいた。その優しさとやわらかな性格は本物の天使のようだった。(天使には会ったことがないけれど、きっとそうだと思う。)
それが彼女個人のパーソナリティであることはもちろんだが、その後、友だちになった台湾で生まれ育った人たちも、そういう穏やかな優しさを持っていたから、もしかしたら国民性と言っても差し支えないかもしれない。うん、台湾は優しい国だな、と思う。
台湾のコーヒーショップで過ごす時間も、この時間がずっと続けばいいのにと思うほどに、優しく、やわらかなものだった。
台湾のコーヒーカルチャー
私が旅に出る衝動は、その国のコーヒーカルチャーが見てみたいと思うことがきっかけなのだが、台湾も例に漏れずそうだった。その衝動が抑えきれず、2018年5月、ゴールデンウィークに入る前に航空券を予約し、終わる頃にはもう台湾へ向かっていた。そしてそれから半年と経たずに再度訪れるほど、すっかり虜になっていたのだ。
日本とよく似ているなと感じることもあれば、全く違う側面も持っていた。
例えば。
店先に小さな焙煎機があること。焙煎機というのはそう簡単に扱えるものでも購入できるものでもないのに、台湾のコーヒーショップは必ずと言っていいほど、店先に焙煎機があるお店ばかりだ。
日本ではロースタリーカフェという言葉も馴染んできたかと思うが、大体は焙煎機を持つ基となる店舗(ロースタリー)があり、そこから別店舗に豆を卸すのが普通だ。店舗が一店舗しかないコーヒーショップであれば、そこで焙煎するしかないのだが、台湾では3、4店舗を展開するコーヒーショップもそれぞれに焙煎機が備わっていた。
(夜の灯りに照らされる焙煎機はなかなか乙である。)
また、お茶の栽培が有名な台湾だが、コーヒーの栽培も進んでいることは意外と知られていない。それこそお茶の栽培地として有名な「阿里山」を中心に農園がいくつもあり、美味しいコーヒーをつくっている。その美味しいコーヒーを丁寧に届けようとするコーヒーショップもまた、たくさん存在する。
CAFE SOLE
ひんやりとつめたいコンクリートの廊下を抜けてたどり着いたそこは、じめじめと蒸し暑い台湾の昼下がりを過ごすにはもってこいだ。窓の外にはジャングルのように木々が生い茂っている。
私が訪れたのは「松山文創園區」という複合アート施設の中にある店舗。同じ敷地内に「誠品生活」という高級デパートがあるのだが、その中にも小さなコーヒースタンドを構えている。
実は、この店のことをシアトルのコーヒーショップのバリスタさんに教えてもらったのだ。味見させてもらったその時の味が忘れられなくて、必ず来ようと決めていた。
長い間思い焦がれていたそのコーヒーは、とろりと甘く、身体をひたひたと浸しながらすみずみまで染み渡った。
シングルオリジンのコーヒーを注文すると、ホットとアイスを楽しめる。
常時5、6種類はあるだろうか、世界中から集めた高品質なコーヒー豆を自社焙煎している。
(シングルオリジンのドリップコーヒーを頼むと、
店内にあるこの小さなカートで淹れてくれた。)
また、台湾珈琲の普及のため、農園に直接訪れコミュニケーションを取り、台湾のよいデザインプロダクトとコラボレーションしたり、丁寧に届けようと努めている。
CAFE SOLE(
営業時間
9:00 - 18:00
所在地
110 台北市信義區光復南路 133號
(リンクはGoogle Mapにとびます)
STONE espresso bar & coffee roaster
きっと、一生忘れないだろう。
もう何百軒と世界中のコーヒーショップを訪れ、さんざん美味しいコーヒーに出会ってきたが、ここで飲んだオールドスクールカプチーノは衝撃的だった。
きめ細やかにスチームされた、とろりと甘いミルクの舌触り。エスプレッソのちょうどいいほろ苦さ。まるで少女漫画の主人公がロマンチックなキスを反芻するかのように、思い出すだけでうっとりとしてしまう。
一緒に注文したフィナンシェはほんのりと温めて提供され、口に運べばくしゅっとほぐれ、バターの香りが鼻をぬける。
雨の夜に訪れたその店は、たくさんの若いお客さんがとてもリラックスした様子で過ごしていた。ちょうどいい暗さの、レトロモダンな照明、落ち着いた印象のある木造りの壁や棚。完璧という言葉がふさわしい。
台湾へ行ける日がまた訪れたら、真っ先に足を運ぶだろうお店。
STONE espresso bar & coffee roaster(
営業時間
13:00 - 20:00(Closed Tuesday)
GOODMAN ROASTER
台北の中心地からバスに揺られて30分ほど。たぶん観光客はなかなか訪れないであろう山の麓のローカルな場所。有名な士林夜市の方向の、その先にあるので少し足を伸ばして行ってみてほしい。
団地と思われる建物の一階に、おしゃれな黄色い看板が映える。
店に一歩入ると、どことなく、日本の都会のコーヒースタンドを思わせるのは気のせいだろうか。それもそのはず(?)、代表は日本人の方で台湾珈琲に惚れ込み、農園と品質向上に取り組みその美味しいコーヒーを拡めようとしている。
注文したのは迷わず、阿里山珈琲。丁寧に作られたプロセスとその味わいで、少しはる価格にも納得。
お茶の栽培地だから、というわけではないけれども、烏龍茶のような香ばしさ。いわゆるコーヒーの苦味はない。そしてピーチのようなとろりとした甘さがあった。なるほど、これは心を奪われてしまう。
代表の伊藤さんが店頭に立っておられたので、たくさんお話をさせていただいた。また、この春、京都に3店舗目を開店されたそう。日本でも大好きな台湾の味が楽しめるのは嬉しい。
GOODMAN ROASTERS
(
営業時間
11:00 - 18:00
(私が訪れた天母店)
所在地
111 台北市士林區天玉街 110號
(おまけ)
店と同じ並びにある小さな食堂らしきところで食事。何が書いてあるかわからない注文表に、勘で書き込み、美味しそうな汁なし麺と小籠包的なものにありつくことができた。中心地を離れると英語が通じる率はぐっと下がるが、中国語は漢字でなんとなく想像できるから面白い。
RUFOUS COFFEE
初めて足を踏み入れたはずなのに、どこか安心するのは日本の喫茶店を思わせるからだろうか。
薄暗い店内、棚にはカップとソーサーの他に、どこのメーカーかわからないようなミルやケトル、置物がずらりと並び、ポストカードが壁にぺたぺたと貼られている。
それらはきれいに並べられているけれども、どこかちぐはぐだ。でもそんなところが日本の喫茶店とおんなじだなぁ、とくすりと笑ってしまう。
コーヒーの味はピカイチだ。今でこそどのコーヒーショップもシングルオリジンのコーヒーを提供するのが当たり前になっているが、台湾ではこの店がパイオニアとなりそのムーブメントを拡げたと言われているらしい。
エスプレッソベースのメニュー(カフェラテやカプチーノ)はエスプレッソが一緒に提供される。
海外にきていることを忘れるほど安心しきって、雨がしとしと降る様子を眺めながら過ごした。
2018年末には2号店をオープンしたそうだ。1号店とはテイストが少し変わりシックな印象。いつか訪れる日を楽しみに。
RUFOUS COFFEE(Website・Instagram・Facebook)
営業時間
13:00 - 21:30(Closed Thursday)
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台湾でコーヒーショップめぐりをするのは大変だった。なんてったって、誘惑が多すぎるのだ。
おなかをたぷたぷさせながらタピオカティだって飲まなきゃいけないし、小籠包に、魯肉飯に。
次はどこに行こうかなと、きょろきょろと看板を見回して漢字を見て何屋さんだろうかと想像する。美味しいにおいにつられながら、台湾の街をまた歩く日が待ち遠しい。