7 「残心」について語るつもりだったが
アカデミー賞も受賞した映画「ミリオンダラー・ベイビー」では、ボクシングで勝利して拳を突き上げる主人公が、ラウンドが終了したにも関わらず対戦相手が後ろから放った反則パンチで全身不随になってしまう。ボクシングのリングの上ではゴングからゴングまでの間が試合時間であり、終了のゴングが鳴ってしまえば後ろ向きで拳を突き上げることは自由である。
近年、武道の国際化によりオリンピックなどの国際大会では外国人選手が勝利後にガッツポーズする姿もある。「柔道ガッツポーズ問題」として日本人の間ではこれが問題と見做される。外国人選手はスポーツ選手であって武道家では無いのだ。
武道以外のスポーツをみると、サッカーW杯では日本人サポーターによる観戦後のゴミ拾いや、選手によるロッカールームの清掃が話題になった。米男子ゴルフのマスターズでは優勝を成し遂げた松山英樹のキャディーを務めた早藤将太氏がピンを返した後にコースに一礼した姿が話題になった。いずれも試合終了のゴングが鳴った後の話である。
私は高校時代に剣道部であったが、格技館への出入りの際には必ず道場へ向って一礼をした。練習前に礼、練習後にも礼、試合前にも相手へ礼、試合後にも相手へ礼をする。いずれも試合開始のゴングの外の話であるが、決してビッグマウスで相手を罵ったり拳を突き上げたりはしない。「場」と相手に対する敬意こそが武道の武道たる所以である。柔道の国際試合で外国人選手のガッツポーズが日本人の間で問題になるのは、日本人の内にそれが相手と場への敬意の無さ、つまり失礼と感じる素地があるからである。日本人サポーターによる観戦後のゴミ拾い、選手によるロッカールームの清掃、キャディーによるコースへの一礼からも、日本人の中にある武道的な「場」への敬意が見て取れる。
ラジオ番組で、武道家でもある武田鉄矢氏が「プーチンは何のために柔道をやっているんだ」と怒っていた。プーチン氏の振る舞いには当然、武道的な礼や敬意を見出すことは出来ない。
武道における「残心」を語るつもりだったが、話がズレて収拾がつかなくなってしまった。現在、内田樹氏の『武道論』を読んでいて、残心について書かれた項が腑に落ちたので、それを書くつもりだったのだが。・・まあ良い。
*今週の参考図書
・『武道論: これからの心身の構え』
内田樹 (著) 2021年/河出書房新社
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