16 言霊のレベル
気になっている事がある。ニュース番組などで、インタビューや取材を受けている人の言葉遣いである。それも企業や役所でそれなりの立場がある人の言葉遣いだ。「・・したいと思います」「なれば良いなぁ〜と思います」という言い回しが多く、それが気になって仕方がない。自信が無いのかリスクヘッジなのか、何だか煮え切らない態度である。ユーチューバーにも多い。「今日は・・をしてみたいと思います」「楽しんで頂けたらなぁ〜と思います」・・これを聞きづらいと感じるのは私だけなのだろうか。ユーチューバーであれば大目に見る気持ちにもなるが、企業や役所で立場のある人までもがそんな言葉遣いをしていると、何だかガッカリしてしまう。
「日本語が乱れている」と言うのは平安時代に清少納言が枕草子で嘆いているくらいだから、今に始まった話ではないのだが、しかしどうにも気になってしまう。なぜ「・・します」「こうなる事を期待します」と言い切れないのか。
私自身、さしたる立場も無いのに(であるが故に)、会やイベントの司会や回しを仰せつかる事が多い。その際に心掛ける事も、つまりは「言い切る」という事である。「これから・・を開催したいと思います」では小学校の帰りの会と同レベルである。開催するのは間違いないのだから、「開催いたします」と言い切るのが当然だ。単なる言い方の問題ではない。言葉遣いひとつで「場」の質が上がったり下がったりする。災害が起きた時に「逃げろ!」と言うのと「逃げたいと思います」と言うのでは伝わり方が違う。消防士が「全員助けます」と言うのと「みんな助かれば良いなぁ〜と思います」と言うのでは、言霊のレベルが違うのである。
思えば18年前に、起業するから一緒に手伝ってくれと私を誘ってくれた人もそうだった。その人は、大手一流企業のシステムエンジニアとして瀬戸大橋の構造計算をおこなった経歴の持ち主で、早期退職をして起業したのだが、その人の話ぶりが「なれば良いなぁ〜と思います」というものだった。何ひとつビジョンや意志力が伝わって来ず、当時から私はこの言い回しが気になっていた。
ニュース番組で見る大人の言葉遣いに関しては、日頃からのトレーニング不足としか言いようがない。人前で話をする時に「言い切る」トレーニングである。それはつまり、自分自身の態度を決めるトレーニングでもある。「言い切る」ことが出来ない態度には、言葉ひとつで職場の質が上がったり下がったりすると言う自覚が無い。言葉とは態度そのものであると言う認識も無い。役所の部長が「住民の皆様の役に立つといいなぁ〜と思います」と言うのでは困る。「住民の皆様の生活の向上に繋げて参りたい」と、お願いだから言い切ってくれ、といつも思う。
「言い切る」、これさえ出来れば晴れてその人は、信頼に足る責任感に溢れた「大人」としての評価を勝ち得るのである。もし自分自身に心当たりがあるのであれば、ぜひ今日から「言い切る」トレーニングを積んだ方が良い。
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