35 話の伝わらなさについて
奄美大島で暮らしている。島の人の語り口がとにかく分かりにくい。回りくどいのだ。「結論から先に言ってくれ、要するに何なの?!」と言いたくなる事しきりである。反対に、島の人に言わせれば私は2言3言話せばすぐに島の人間ではないとわかるのだそうだ。「話し方が島の人とは違う」と言う。方言の違いではない。京都の人が「いい時計してますなあ」と言えば「早く帰ってくれ」と言うメッセージであるのと同様に、文化的背景の違いが語り口に出るのである。
「菅首相の言葉が響かない」のだそうだ。一面、喋る事が仕事の大部分を占める政治家がこのくらいのトレーニングも出来ていないのか、との感も否めない。こればかりは文化的背景では済まされない。「30分ほどの会見で『思います』を39回も繰り返した」等、種々その原因が取り沙汰されているが、この場合、言葉尻や声の大きさなど小手先のテクニックの話ではない。
こと、仕事の現場では話の伝え方には押さえておくべき基本がある。まず「自分の言いたい事」を言わない事。つまり、メッセージを伝えるべき相手と自分の間にある共通の課題のもとで、相手にどんなアクションを求めるか、と言う目的が先にある。その上で、目的を達成するために何を言うべきか、というのが基本であり答えである。「共通の課題」「相手に期待する反応」「その上で言うべきこと」この3点を備えて初めて「伝わる」メッセージが出来上がる。仮にこの3点が押さえられたとして、首相の言葉には各所への忖度や自分や政権を守る保険的な夾雑物が多分に混ざり込んでいる。これが伝わらなさの原因だ。
エレベーターピッチというのがある。会社でエレベーターに乗ったら途中で社長が乗り込んで来た。社長に直々に自分の提案を伝えるまたとないチャンスだ。目的の階に着くまでの15秒から30秒でメッセージを伝えなければいけない。この時にも「共通の課題」「相手に期待する反応」「その上で言うべきこと」の3点を端的に伝えることで力強いメッセージになる。
そのくらいのトレーニングを積んでおいてくれ、と言うのが私から菅首相へのメッセージだ。奄美大島の優しい人たちには、そのままで良いよ、と伝えたい。
*今週の参考図書
・『ロジカル・シンキング-論理的な思考と構成のスキル』照屋 華子, 岡田 恵子 2001年/東洋経済新報社
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