#23 「夢」の陥穽
先日、とあるマルチ商法グループ関係者が逮捕されたとのニュースがあった。セミナーに大学生を中心とした若者を集め、それぞれの夢を語らせてその場の熱狂度を上げた上で「2年後には100倍の利益になる」と暗号資産への投資に勧誘していた。主催者らは若者に借金をさせて騙し取った金でタワーマンションに住み高級車を乗り回すというマンガみたいな貧困なイメージの「金持ち」を演じていた。彼らの語る「夢」とは結局哲学の無い自己満足でしかない。
NHKの『鶴瓶の家族に乾杯』で俳優の高橋一生が良い事を言っていた。「今は ”夢を持て” と夢を持たなきゃダメみたいな風潮になっている。別に夢が無いなら無いで良いじゃないかと思うんです」その通りだと頷いた。
「夢」とか「思いが大切」などと具体性のない話を並べ立てる大人は信用ならない。自分自身の空虚さを安易で耳障りの良い言葉で誤魔化し、子供たちを思考停止へと追いこむ。子供のみならず大人自身もまず知って置かなければいけない事は、そもそも自分とは何かという事であり、他者や環境との打ち合いの中でこちらが放つレスポンスこそが自分自身だという事だ。独りよがりの願望にしがみつき自分自身をクローズさせる事は、貴重なレスポンスの機会を自ら捨て去る愚行である。
夢を否定するわけではない。ただ、夢を語るのであれば自分自身の解放つまり「オープンマインド」もセットで伝えるのでなければ、メッセージとして不備であるという事だ。大谷翔平の有名な目標達成シートにも、「運」のカラムがあり、その達成のために「あいさつ」「審判さんへの態度」「応援される人間になる」と、「オープンマインド」の具体的実行策が示されている。そもそも大谷翔平が掲げていたものは「夢」ではなく具体的施策をともなった「目標」であった。
「子供たちに夢を」と言えば聞こえは良いが、本当の夢とは成長の過程で他者や環境との関係性との内に育まれゆくものである。「夢はなに?」と聞かれた子供が語る夢とは無邪気な大人のためにあつらえられた建前でしかない。子供たちは、自分自身が大人の考えるような小さな存在ではないことをちゃんと知っている。大人が思考停止の決まり文句で、大きな未来を壊してはいけない。
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