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35 満たされ行くもの

ちょっとの散歩中に出会うオジイから「毎日犬に歩かされてアホみたいじゃな」とよく言われる。「そうですねぇ」と答える。動物を飼ったことのある人とそうでない人との間には越え難い深溝がある。だから「アホみたいじゃな」と言われれば「そうですねぇ」と答えるしかない。「ホント、アホですねぇ」と。
南島では蚊が年中活動しているため、フィラリアの予防薬を毎月与える必要がある。手間だ。ヘルニアの手術では、保険に加入していなかったので手術代に加え内地への渡航費用や入院費を合わせて50万円近くを要した。人によってはこれにも「アホじゃな」と言うだろう。
何のために犬を飼ったのか、と言う問いへの答えはもう忘れてしまった。幼い頃から身近に飼い犬がいて、その後の犬のいない生活に寂しさを感じていたせいかも知れない。
「文脈」と言う言葉がある。英語に翻訳してから再び日本語に訳すと、コンテキスト 【context】「事件や出来事にかかわる事情・背後関係」と出てくる。背後の文脈によって物事は組み立てられて行く。ちょっとと言う飼い犬でもある私の文脈は、私の家族関係の中で欠かせない役割を果たしている。人と人、犬と飼い主、付き合いの中で互いが満たされて行く。だから「アホみたいじゃ」と言われながらも毎日散歩もするし犬のためにお金も使う。つまり、犬といる事は幸せなのだ。

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