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#機械式腕時計の話

機械式腕時計の話をしようとしている。時計にはクォーツ式と機械式があって、現在ではクォーツ式が一般的になっている。時計の仕組みを話し始めるとキリがないのだが、針を正確に1秒に1秒分進めるためには基準が必要になる。その基準を機械式ではゼンマイの収縮による振動で決めている。このゼンマイを水晶に置き換えたのがクォーツ式だ。ゼンマイの1秒間あたりの振動数が6振動であるのに対し、クォーツ式では1秒間に数万〜数百万回振動する。振動数の違いがそのまま精度の違いになるわけで、機械式だと1日に10秒から30秒も正しい時間からズレるのは当たり前で、クォーツ式だとプラスマイナス0.5秒、月差ではプラスマイナス15秒前後となる。つまり圧倒的にクォーツ式の方が精度が高い。さらに今では電波式時計も多勢を占めつつあり、これは世界の各所から送信されている標準電波を受信して時刻やカレンダーの修正を行う。もはや正しい時間からズレようがない。さてここから本題に入る。
 
少し腕時計に興味を持ち始めると、否が応でも機械式腕時計を一度は試したくなる。昔は機械式が当たり前で、大人たちがよく腕を振って自動巻き式腕時計のゼンマイを巻いていたのを覚えている。しかし今、精度の高いクォーツ式や電波時計が普及しているにも関わらず、なぜか精度的に明らかに問題のある機械式の方が腕時計通には好まれている。そしてクォーツ式よりも機械式の方が価格は高い。名だたる高級腕時計はみな機械式である。
 
携帯電話が普及して以来、腕時計をしない人が増えた。昔は腕時計をしなければ外出時の時刻確認に苦労した。ドラマや漫画でも道行く人に「今何時ですか?」と時間を尋ねるシーンがあったものだ。しかし今は時間の確認はスマホでする人が多いはずだ。実は機械式腕時計をしている人も、正確な時間を知りたい時にはスマホを見たりする。何のための時計なのかという話だが、ここに断言する。機械式腕時計とはアクセサリーである。クォーツ式の時計でもファッションアイテムとして着用する人は多いが、機械式腕時計は完全なる、とまでは言わないが、ほぼそれに近いくらいアクセサリーである。
 
私も1つだけ機械式腕時計を持っている。時計なんて1つで十分だろうと言う意見もあるだろうが、私は草刈りなど外での作業時に作業着の上から嵌めるチープカシオを4つ、打ち合わせや改まった場へ着けて行くためのシチズンのアクトラインを1つ、そして日常の相棒として選んだオリエントの機械式パイロットウォッチが1つある。一番稼働率の高いのがこのオリエントの機械式パイロットウォッチだ。型番はRN-AC0H03B。オリエントの製品は、品質の高さの割に安価で機械式の入門機としても人気が高い。
 
精度的にはシチズンのアクトラインが電波式で時刻の狂いも無く安心なのだが、私はオリエントの機械式を日常でもっとも長い時間使用している。時間の空いた時にスマホで時報を聴きながら、秒単位で時刻を合わせる。その日の内に数十秒の狂いが出てしまうのだけれども、それでも毎日、その作業を行う。自動巻きなので、デスクワークの私はたまに腕を振ってゼンマイを巻き上げたりもする。それは文房具愛好家が手間の掛かる万年筆を使うのとよく似ているかも知れない。機械式時計は趣味性が高いのだ。
 
昔話ばかりしてしまうが、時計の時刻がずれていて恋人同士がすれ違うなんて歌謡曲もあった。高校時代によく聴いた中島みゆきの「バス通り」には「あの日はふたりの時計が違ってたのよね/あなたはほんとは待っていてくれたのよね」とあった。機械式腕時計には物語がある。
 
なんだろうねぇ。今のキツキツした世の中で、機械式腕時計の「1分や2分くらいズレていたっていいじゃない」と言うこの緩さが懐かしいのかも知れない。

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