9 任せて貰える人であるということ
トヨタはモビリティ・カンパニーなのだそうだ。2018年5月の決算説明会で当時の豊田章男社長は、「我々が目指す『モビリティ・カンパニー』とは、世界中の人々の『移動』に関わるあらゆるサービスを提供する会社です」と発表した。初めてこの発表を聞いた時に私は、豊田章男社長はきっと「そもそも」を問うたのだろうなと想像した。愛知県にいた頃、私はトヨタの子会社で「GAZOO」というポータルサイトを提供するチームに関わっていた。当時、その子会社の社長が豊田章男社長であった。「社長が来る」という情報が入ると社内に一気に緊張が走ったのを覚えている。だから豊田章男前社長の言動はつい気になってしまう。
手段と目的についての話をしようとしている。現在私は、2つのNPOに事務局として関わっている。住んでいる集落の町内会でも集落活性化事業実行委員会の事務局長である。ワンストップで、書類作成から役所への諸手続き、打ち合わせ、ポスター等のデザイン・作成、そしてウェブサイトの構築・運営や書籍の編集、イベントの運営までも行う。本当に役に立つ仕事をするためには、それぞれの事業について深く知る事が大切で、そのために何冊も書籍を読み込む事も多い。本業ではないので、どれだけ頑張っても給料が入ってくるわけではない。ボランティアだ。しかし手持ちの技能を使って喜んで貰えることは嬉しい。ただそれだけが動機である。いや、賃金を頂いてする仕事では出来ない実験や経験値を積むことが出来るという点は、大いなるリターンとも言える。
手段と目的の話だった。つい目的を見失って話がそれてしまう。関わっている2つのNPOの理事長は、良くも悪くもクセが強い。2人の理事長はそれぞれ、行動や事業への強い欲求を持っている。発想の順番として、まず手段を先に思いついてしまう人たちでもある。そこで「そもそも、なぜそれがしたいのか」を問うて行くのも私の仕事である。手段に固執する事は一種のバイアスなので、「そもそも」を問うて真の課題を見つけ出す事によって、複数の手段が見えて来る。トヨタの方式では「5回のなぜ」を問うことによって、そもそもの課題つまり目的を見つけ出す。手段への固執からの離陸である。
思い込みや固執から離陸して上空から目的を見下ろすことで、包括的で価値的な目標や手段を見出すことが出来る。トヨタが見出した包括的で価値的な目標が、つまりは「モビリティ・カンパニー」だったのだろう。
目的とは唯一のものであり、あれこれ複数思いつくものは手段である。「なぜ」を繰り返して真の目的を見出したら、一気に上空へ飛翔して包括的な手を打つ。そうする事によって、「それについてはあの人に相談すれば大丈夫」と言われる、ワンストップ・サービスが提供出来るようになる。私の場合は「書類の作成や役所とのやりとりが大変なので手伝ってくれない?」という相談から、「そもそも」「なぜ」を繰り返し、「事務局の提供」というソリューションに行き着いている。
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