40 気分の話
「手つかずの」とは奄美を語る際に定番の枕詞だ。しかし奄美の森の99パーセントは人の手が加わっている。にも関わらず多くのメディアが安易に奄美を「手つかずの自然」と語ってしまっている。2ch創設者のひろゆきなら「ホントに手つかずなの? データ見せてよ」と言うはずだ。小池知事なら「ファクトを示しなさい」と言うだろう。気分だけで語ると奄美は「手つかず」なのだ。そう、この「気分」ってヤツが厄介なのだ。
この夏、市内の中心にラーメン屋が現れた。元カレー屋を居抜きで使ったため文字通りそれは突然「現れた」のだった。しかしその店、秋にはもう「貸店舗」の張り紙が出ていた。いったいどんな人物が始めた店なのか調べると、やはりあちこちに手や顔を出してはダメにする、要するに「気分屋」なのだった。開店してすぐに潰れた店のレビューが残っていたので見るとやはり惨憺たるもので、マズい上にオープン初日にワンオペ営業と言う、プランも何もなく一体何がしたいのかわからない状況なのだった。
震災の時には、多くの人が良い事をしている気分でデマ情報のチェーンメールをばら撒いた。インスタントに自分の満足や達成感を得ようとすると人に迷惑を掛けることになる。
奄美のある集落で、海岸の侵食被害がひどく住民が県に護岸工事の要望を出した。大きな台風で護岸林が破壊され、海岸線が集落に迫ろうとしている。住民は集落が台風の大波に襲われる恐怖と闘いながら暮らしていた。そこへ工事の反対派が現れた。工事は「手つかずの」自然環境を破壊し、奄美にしか生息しない固有種を危機に晒すのだそうだ。反対派は集落の住民ではない。どこからか虫の様に湧いて現れた。「自然を守る」という耳障りの良い言葉に乗せられて参加する者もある。人は彼らを「環境『エゴ』活動家」と呼ぶ。
妨害などにより工事が延期されて8年が経つ。台風被害の恐怖に震える集落住民は置き去りだ。反対派の言葉に乗せられて実際に現地を視察しようと本州からやって来た人は、反対派から聞いていた言葉とは違う現実を見た。自然保護を叫ぶ前にそこで暮らす人を守る方が先である事に気づいた。彼は気分で反対派の言葉に乗ったが、現地で「ファクト」を見たのだった。気分が良いに越した事はないが、まずはデータとファクトを見て気分に振り回されない事だ。
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