15 ボスとの遭遇
ちょっとを外で遊ばせる際に注意を払っていた事がある。猫との遭遇だ。この近所には、ちょっとした猫社会がある。小さなちょっとに猫どもがどんな攻撃を仕掛けて来るかわからない。外に出る時は常に神経を尖らせてきた。
しかし生後約2ヵ月、ここへ来て状況が変った。ちょっとは大きくなったのだ。少なくとも口にくわえてどこかに連れて行かれるような小ささではなくなった。この時期ほんの10日程で、ちょっとは狙われる側から狙う側になった。それほどこの頃の成長は早かった。
近隣の猫どもの中でも特に巨大な体躯を持つのが、この界隈でボスと呼ばれている茶トラだ。20数匹の猫社会を束ねている。ある時、散歩に出ようと玄関の戸を開けるや、ちょっとが飛び出して隣家の方へ行ってしまった。隣家はボスの常駐場所だ。「襲われる!」私は思った。2匹の動物が激しく走り回る音が聞こえた。マズい!助けに行かなければ。そう思った所へ茶色い影が飛び出して来た。
ちょっと?と思ったら茶トラのボスだ。その後を追う者がいる。ちょっとだ。ちょっとがボスを追い回している。
ボスの手下どもは恐れをなして遠巻きに毛を逆立てているばかりだ。追い詰められたボスが困り果てた顔で私を見ている。「コイツを何とかしてくれ」と目で訴えている。
「ちょっちゃん違うよー。それはお友達じゃないの。ボスなの」とちょっちゃんを抱き上げる。ホッとするボス。一部始終を手下の猫どもが見ていた。そのせいかどうかはわからないが、この数年後、ボスは静かにこの界隈から姿を消した。