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25 妻がプリプリと怒りながら帰って来た話

妻がプリプリと怒りながら帰って来た。出席した会合で、時間が押しているにも関わらず自分の話したい自慢話ばかりを滔々と話し続ける役員がいたのだと言う。誰かの「本部長、長すぎるぞ!」の声に「すみません、終わります」と謝罪してからさらに1分間話し続けてようやく終わったのだそうだ。
 
「その本部長は自分の役割がわかってないんだろう。トレーニング不足だ」と私は言った。私的にどんな心情があるにせよ、役職者としてそこにいる以上まずは役職者としての役割を果たさなくてはいけない。軽いトークや身内話で場の空気を和らげる場合もあるが、大抵の失言はそんな所で生まれる。何より、会合の残り時間を残りの話者数で割り算をして自分がどのくらいの時間を使って良いかを計算するのは前に立つ者の義務である。さらに言えば、そこに集った人たちがどのような意図でここに集まり、食事もそこそこに集った彼らが、会合開始から1時間以上が経過した今どのような気持ちになっているかを押し測ること。たとえどんな草案を練って来たとしても、残り時間と来場者の気持ちに合わせて話の粒度も調整出来ない事は、大人としてのトレーニング不足と言うほかない。
 
「トレーニングってどんな?」と妻が聞くので、エレベーターピッチだよと答えた。会社のエレベーターに社長と乗り合わせてしまった。自分のビジョンをアピールする絶好のチャンスだ。残り時間はあと15秒。一瞬のうちに情報の粒度と話の順番による効果を見極めて要所を押さえたプレゼンをする。別にエレベーターに社長と乗り合わせるのを待つまでもなく、会議で突然話を振られたり、街中で突然営業先の担当に会ったり、そのような状況は日常にいくらでもある。そのためには書く習慣を持つことだよと私は妻に言った。A4のコピーの裏紙をバインダーに挟んで持ち歩き、思ったことは即座に文章として殴り書きする。言語化の訓練だ。一度書いたものは保存などせずその場で捨ててしまっても良い。一度言語化してしまえば、咄嗟の時に反射的に言葉が出てくる。エレベーターピッチは頭で考えるのではなく脊髄反射である。
 
トレーニングを繰り返したアスリートが本番で無心の内に技を繰り出すように、日々繰り返し言語化のトレーニングを積むことで、迂闊な事で恥をかいてしまう大人にならずに済む。

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