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28 人が欲しがるモノと実際に必要なモノは違う、という話

「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」というヘンリー・フォードの言葉は有名だ。ヘンリー・フォードは自動車の大衆化に成功し「自動車の育ての親」と呼ばれるアメリカの実業家だ。

人は自分の想像力や知識以上のモノを欲しがることは出来ない。だから自動車を知らない人々は「速い馬」を欲しがることは出来るが、自動車を欲しがることは出来ない。同じように、歯が痛いと訴える人にそのまま歯痛薬を与えることは危険である。その奥に狭心症や脳梗塞など想像もしない大病が隠れている可能性がある。

上の話とは少し種類が違うが、わが家に同居する80半ばの義母は、思った事をなかなか素直に口に出すことができない。私や妻に「畑仕事を手伝って欲しい」と言うメッセージを伝えるために最初に発する言葉は「街へ出て△×を買って来て欲しい」といった類いで、私も妻もそれが額面通りの言葉ではなく何かのメッセージである事は良くわかっているので、よくよく尋ねてみると、紆余曲折を経て「畑仕事を手伝って欲しい」と言う言葉が出てくる。

ここで必要となるのは洞察力だ。人の言葉は本質ではなくひとつの現象であり、本当に解決すべき課題はその奥の奥にひっそりと横たわっている。これが仕事であれば、ここから「本当に片付けるべき仕事」を見つけ出す「JTBD(jobs to be Done)」という作業に入るが、ここではやらない。

誰かが「こうして欲しい」と言う場合、本来の目的の達成のためには本人が求めている手段とは別の手段があるはずだ。「髪を切って欲しい」と言われた場合、清潔を保ちたいのか美しさを求めたいのかによって解決方法は違う。またそれを訴えかける相手によっても違ってくる。製薬会社であれば髪の伸びを遅らせる薬や効果の高いシャンプーを開発するかも知れない。美容院であれば流行のカットをしてくれるだろう。

「髪を切る」「シャンプーを開発する」など複数の答えが見つかるものは「手段」である。「髪を清潔に保つ」のように唯一の状態にまで絞り込まれたものが目的である。まず唯一の目的を見つけることが先決だ。母親がむずかる赤ん坊からオムツなのかミルクなのかを感じ取るようなホスピタリティをもって周囲を見渡すことで、何かを訴える人や、うまく行かない現実から多くのメッセージを受け取る事が出来る。話はそれからだ。

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