松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート番外編 【衛生 / 物理】論点:放射線 / トリチウム
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苦手意識がある人も、この機会に、放射線 / トリチウム を一緒に完全攻略しよう!
薬剤師国家試験対策ノート NOTE ver.
放射線 / トリチウム を
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で解説します。
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松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート
問104-1【物理】
論点:放射線 / 壊変・核分裂
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Q. 親核種よりも原子番号が1つ小さい娘核種を生成する放射壊変はどれか。
1. α壊変
2. β-壊変
3. β+壊変
4. γ転移(核異性体転移)
5. 自発核分裂
(論点:放射線 / 壊変・核分裂)
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こんにちは!薬学生の皆さん。BLNtです。
今回は、薬剤師国家試験問題の論点解説ではない番外編です。
論点は、衛生と物理から、放射線です。
今回の「松廼屋|論点解説」では、トリチウムの人体への影響および環境中のトリチウムについて解説します。
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滝沢 幸穂
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松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート番外編 【衛生 / 物理】論点:放射線 / トリチウム
目次|
1|トリチウムの人体への影響
2|トリチウムの環境中での挙動
3| 参考資料
1|トリチウムの人体への影響
トリチウムの生物学的な影響について、解説します。
文献1を参考資料として引用します。
トリチウムは水素の放射性同位体で、低エネルギーのβ線(最大18.6keV/平均5.7keV)を放出します。物理的半減期は12年です。
自然界由来のトリチウムは、大気上層において、宇宙線の中性子と窒素原子核との衝突によって生成し、自然界の水循環系に取り込まれます。
その一方で、人工由来のトリチウムは、核実験や原子力施設などから主としてトリチウム水(HTO)の形で環境中に放出されてきました。
トリチウムは生物へ比較的簡単に取り込まれます。
人体にきわめて吸収されやすく、また、有機結合型トリチウム(OBT:Organically Bound Tritium)はトリチウムとは異なった挙動をとります。
国際放射線防護委員会(ICRP)はトリチウム被ばく線量計算のために水分含有量を推定していますが、体重70kgの人の60%(42kg)が水分であると仮定しています。
水分のうち56%は細胞内液、20%は間質リンパ球、7%は血しょう中に、残りは細胞外液として存在するものとされています。
飲料水や食物から摂取されたトリチウム水は胃腸管からほぼ完全に吸収され、一方、トリチウム水蒸気を含む空気を呼吸することによってトリチウムは肺に取り込まれほとんどが血液中に入ります。
血中トリチウムは細胞に移行し、24時間以内に体液中にほぼ均等に分布します。さらに、トリチウムは皮膚から吸収されます。
他方、有機成分として取り込まれた場合の有機結合型トリチウム(OBT)は一般に排泄が遅く、体内に長く留まる傾向があります。
トリチウムは水素と同じ化学的性質を持つため生物体内での主要な化合物である蛋白質、糖、脂肪などの有機物に結合します。
経口摂取したトリチウム水の生物学的半減期が約10日であるのに対し、有機結合型トリチウムのそれは約30日〜45日滞留するとされています。
トリチウムのβ線による外部被ばくの影響は無視できますが、他方、トリチウムで課題となる放射線影響は内部被ばくです。
つまり、人に放射線障害が発生するおそれがある被ばく経路は、トリチウムを体内に取り込んだ場合です。人の場合にはトリチウムの内部被ばく事故例は少ないため、被ばく量と障害との関係については、主として動物実験からの推定が科学的な根拠とされます。
放射線の生物学的効果を表す指標をRBE(Relative Biological Effectiveness,生物学的効果比)といいます。各種の生物学的指標に対するトリチウムβ線のRBEを示します。基準放射線をγ線とした場合、トリチウムβ線のRBEは1を超える報告が多く見られます。
種々の生物学的指標に対するトリチウムβ線のRBE(文献1|表2)
※独自に作図
血球には赤血球、白血球(好中球、単球、マクロファージ、好酸球、リンパ球など)、血小板があり、これらはすべて骨髄の造血細胞から作られ、それぞれ機能が異なります。
人の末梢血液に in vitro(生体外)で照射してTリンパの急性障害をしらべた結果、トリチウムの細胞致死効果はγ線より高く、また放射線感受性はいずれの血液細胞もマウスより人の方が高いことが明らかにされました。
トリチウム被ばくの場合、幹細胞レベルで変化があっても通常の血液像の変化は小さいため、急性障害のモニタリングには幹細胞チェックが重要です。
トリチウム水を一時に多量摂取することは現実的にはあり得ないこととされますが、低濃度のトリチウム水による長期間被ばくの場合を考える必要があります。
実際に、トリチウムを人が長期間摂取した被ばく事故例が1960年代にヨーロッパで起きました。トリチウムは夜光剤として夜光時計の文字盤に使用されています。これを製造する二つの施設で事故が発生しました。一つは、トリチウムを7.4年にわたって被ばくした例で、280TBq(=280兆Bq)のトリチウムと接触し、相当量のトリチウムを体内に取り込んだ事例で、尿中トリチウム量から被ばく線量は3〜6Svと推定されました。症状としては全身倦怠、悪心、その後白血球減少、血小板減少が起こり、汎血球減少症が原因で死亡していています(表3)。
人のトリチウム摂取例(文献1|表3)
もう一つの例も似たような症状の経過をたどり汎血球減少症が原因で死亡していますが、臓器中トリチウム量が体液中よりも6〜12倍も高く、体内でトリチウムが有機結合型トリチウムとして存在しているものと推定されました。
発電所および核燃料再処理施設の稼働によりトリチウムが放出されます。
ブルックヘブン・トリチウム毒性プログラムは低濃度トリチウム水に長期間被ばくする場合の健康影響について示唆を与えています(表4)。
長期トリチウム水飼育マウスにおいて、幹細胞の増殖抑制は1.67 Sv/年の被ばくから認められ、また、姉妹染色分体交換および再生肝染色体異常は5 Sv/年から認められました。
長期トリチウム水飼育マウスの生物効果(文献1|表4)
夜光剤を扱う施設ではラジウムペインター(塗装工)の骨肉腫がよく知られています。
トリチウムの人への影響はラジウムの場合と異なります。トリチウムによる発がんに関する報告は多くないのですが、X線やγ線との比較によるRBEが動物での発がん実験や培養細胞がん化実験の結果で求められています(表5)。
トリチウム水由来のβ線によって誘発されるがんのRBEはX線やγ線との比較で1〜2の範囲です。
トリチウム水誘発がんのRBE(文献1|表5)※独自に作図
その他、遺伝的影響を調べるために染色体異常の誘発、DNA損傷と修復などの細胞生物学的研究や、発生時期、すなわち胞子発生期、器官形成期、胎児期あるいは器官形成期における放射線感受性の研究が行われています。
_____トピックス_____
トリチウムの人体への影響および環境中のトリチウムについて、人口動態の死亡の動きから、乳児死亡、死産および周産期死亡に関する都道府県別の年次データを例に、実際のデータに基づく独自の解析結果と視覚化したグラフを用いて、母体の妊娠への影響と胎児および乳児への放射線の影響について考察しています。
発生時期、すなわち胞子発生期、器官形成期、胎児期あるいは器官形成期でのトリチウム水の一定量の曝露が与える影響について調査し、トリチウム水の暴露が実際にヒトにおいて、その放射線感受性の閾値を超えた可能性を示唆する結果の報告です。note matsunoya_note で公開しています。
Yukiho Takizawa, PhD.
ご興味があればこちらもご覧ください。
Health effects caused by tritium (H-3) in the data (9)
| Locally released tritium
-Infant death and stillbirth demographics-
https://note.com/matsunoya_note/n/n2b353743dcbd
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2|トリチウムの環境中での挙動
トリチウムの環境中での挙動について、解説します。
文献2を参考資料として引用します。
宇宙線の作用(自然由来)または核実験(人工由来)によって生成された大気中トリチウムは、降雨などによって地上付近に移行し、空気、水および生体中等に広く分布します。
日本での降水中トリチウム濃度は、現在、大気圏内核実験が施行される以前のレベルに戻りました(文献3)。しかし、大陸性気団に覆われたとき、トリチウム濃度の高い雨が降ることがあります。
_____ 少し解説📒 ____
降水中のトリチウムの年次推移を文献3から独自に集計・作図したグラフを以下に示します。
降水の分類として水道水(上の図)と河川水(下の図)のトリチウムの年次推移(1975年 – 2018年|最大値で集計)を示しました。
水道水において2018年12月のトリチウム水の放射活性濃度は最大で 0.75 Bq/L であり、その一方で、1975年5月のトリチウム水の放射活性濃度は最大で 5.7 Bq/L でした。
一方、河川水において2018年12月のトリチウム水の放射活性濃度は最大で 0.49 Bq/L であり、その一方で、1977年7月のトリチウム水の放射活性濃度は最大で 10.1 Bq/L でした。(データの出典:文献3, 独自に集計・作図)
降水 / 水道水
降水 / 河川水
降水中のトリチウムの年次推移(1975年 – 2018年)
※独自に集計・作図, 最大値で集計(データの出典:文献3)
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一方、大気中トリチウム濃度は減少傾向にありますが、降水中トリチウム濃度ほど減少していません。
核施設から大気圏または水圏に放出されたトリチウムは、他の放射性核種と同様に大気・水の流れに従って移流・拡散します。
大気中へ放出されたトリチウムは、大気から土壌への沈着、土壌から大気への再放出、土壌中移行、植物への取り込み等の挙動を示します。
環境中トリチウムの特徴は移行速度が比較的速いことです。また、生体中では、組織と結合した有機結合型トリチウムが生成されます。
トリチウムの環境中挙動は、
(1)地球規模での挙動と
(2)局所的に放出された場合の挙動
の二つに分けて考える必要があり、
(1)は自然由来あるいは核実験起源のトリチウムの
挙動調査および地球規模の長期間の被ばく線量評価の際に、
(2)は施設の影響評価等の際に重要となります。
トリチウムは低エネルギーβ線放出核種(最大18.6keV、半減期12年)であるため、人への影響を考える場合は体内摂取、つまり内部被ばくのみを考慮します。
国際放射線防護委員会(ICRP)が提示しているトリチウムの化学形別および年齢別の線量係数(Sv/Bq)、すなわち単位摂取放射能当たりの実効線量を表1に示します。
トリチウムの化学形別及び年齢別の線量係数(文献2|表1)
これによると、吸入および経口摂取のいずれの場合もトリチウム水(HTO)の線量係数は、トリチウムガス(HT)の10000倍となります。
また、植物等の組織と結合した有機結合型トリチウム(OBT)の線量係数はトリチウム水(HTO)の約2.3倍です。
したがって、トリチウムによる被ばく線量を評価する場合にはその化学形を十分考慮する必要があります。なお、線量係数(Sv/Bq)とは、単位摂取放射能(Bq)当たりの実効線量(Sv)です。
次章では、環境中のトリチウムの挙動について学習します。
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コーヒーブレイク☕🍰🍊(^^)/
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2-1|地球規模でのトリチウム挙動
トリチウムは自然界において常に生成されています。
自然由来のトリチウムの主な生成場所は大気です。
トリチウムは、大気上層において宇宙線の陽子や中性子と大気を構成している窒素や酸素との核反応により生成されます。
この自然由来のトリチウムは、地球全体では生成と壊変が平衡した状態にあり、その存在量は約1.0〜1.3EBq(エクサベクレル:1EBq=10^+18Bq=10^+6TBq)と原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が推定しています。
他方、地球環境中トリチウムの最大の発生源は、大気圏内核実験、特に1954年以降の水爆実験です。
1963年の大気圏内核実験停止条約締結までに自然由来の200倍程度のトリチウムが放出されたと推定されています。
その結果として環境中トリチウムレベルは大きく増加しましたが、1963年以降は核実験起源の大気中トリチウムは物理的崩壊および海水中への移行により、減少傾向を示しています。
しかし、海洋との接触が少ない大陸では核実験起源のトリチウムがまだ残留しています。
環境中のトリチウムは大気の循環や降雨によって地上付近に移動し、空気、環境水(河川水、地下水、海水等)、植物や動物の生体中等に広く分布します。核実験開始前に測定された降水中トリチウム濃度は0.77Bq/Lです。
それが1960年代の初めには12〜180Bq/Lまで増加しました。その後、減少し始め、現在はほぼ核実験前のレベルに戻りつつあります。(文献3)
水道水|
河川水|
降水中のトリチウムの年次推移(1975年 – 2018年)
※独自に集計・作図, 最大値で集計(データの出典:文献3)
降水中トリチウムレベルが高かった頃、日本など、北半球の各地で降水中トリチウム濃度が春から夏にかけて高くなる現象が見られました。
しかし、現在は降水中トリチウム濃度が低いため、季節によるはっきりとしたピークは見られません。大陸性気団に覆われたときにトリチウム濃度の高い雨が降ることなどが観測されています。
_____ 少し解説📒 ____
降水中のトリチウムの年次推移を文献3から独自に集計・作図したグラフを以下に示します。
降水の分類として河川水(下の図)のトリチウムの年次推移(1975年 – 2018年|最大値で集計)を示しました。
一番下の図からそれぞれ1977年 – 1983年、1986年 – 2002年、2003年 – 2018年の河川別の年次・月次推移で示してあります。
河川水において1977年から1994年までのトリチウム水の放射活性濃度は、なんらかの季節性変動を繰り返していることが観察されます。他方、1995年移行のトリチウム水の放射活性濃度は最大で 1 Bq/L 未満となることが多くなり、季節性の変動が観察されないわけではないもののその変動による差は減少したことが観察されます。
なお、前述の通り、1977年7月のトリチウム水の放射活性濃度は最大で 10.1 Bq/L でした。その後、トリチウム水の放射活性濃度は河川水においては、2002年10月にに最大で0.57 Bq/L、2018年12月に 0.49 Bq/L を示しています。(データの出典:文献3, 独自に集計・作図)
降水(河川水)中のトリチウムの年次推移(2003年 – 2018年|河川別)
※独自に集計・作図(データの出典:文献3)最大値で集計
降水(河川水)中のトリチウムの年次推移(1986年 – 2002年|河川別)
※独自に集計・作図(データの出典:文献3)最大値で集計
降水(河川水)中のトリチウムの年次推移(1977年 – 1983年|河川別)
※独自に集計・作図(データの出典:文献3)最大値で集計
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環境中トリチウム濃度を地域的に見ると、両極から赤道に向かって指数関数的に減少する緯度依存性があり、大気上層でのトリチウム生成率が極地方で大きいためと、成層圏から対流圏へのトリチウムの移行は極地ほど大きく、他方、赤道付近では蒸発による希釈が働くためと考えられます。
大気中でのトリチウムの化学形は、3水素ガス状(トリチウムガス|HT)、水蒸気状(トリチウム水|HTO)、炭化水素状(主にトリチウム化メタン|CH3T)等です。
地上付近で測定された大気1m^3当たりの各トリチウム濃度の経年変化をに示します(文献2|図1)。
大気中のトリチウム濃度の経年変化(文献2|図1)
1970年頃に日本で測定されたトリチウム水濃度は約70mBq/m^3であり、1990年の年平均値は20mBq/m^3まで減少しました。
一方、大気中トリチウム水濃度は、降水中トリチウム濃度ほど大きな濃度減少を示していません。
これは、雨は大気上層のトリチウムの影響(核実験により成層圏に注入されたトリチウムの対流圏への降下)を大きく受けたのに対し、地表面付近の水蒸気は土壌や植物による地下水の蒸散や表面海水との交換の影響を受けるためと考えられます。
_____ 少し解説📒 ____
2005 - 2017年の大気中の空気のトリチウム放射能濃度は少しですが減少傾向を示している可能性が示されています。2005年から2017年に至る12年間の苅羽村の大気中トリチウム放射活性濃度を空気当たりと水分当たりで示しました。近似式による実線を見ていただくとわかるように、12年でトリチウムの放射活性濃度は約1/2になりました。この放射活性の減少は、トリチウムの半減期である12年間と一致します。つまり、物理的な半減期を反映した現象であることが示唆されました。
最近の大気中のトリチウム濃度は 5 - 20mBq/m^3 程度で環境中の放射能として測定されています。
大気中の水蒸気が多い6月 - 7月に、大気の空気中のトリチウム放射能濃度が上昇する傾向が認められます。一方、大気の水分中のトリチウム放射能濃度は、3月 - 4月にかけて上昇する傾向が認められます。
(独自に集計・作図、最大値で集計。データの出典:文献3)
空気当たり(mBq/m3)
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水分当たり(mBq/L)
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大気中のトリチウムの年次推移(2005年 – 2017年|刈刃郡刈刃村)※独自に集計・作図、最大値で集計(データの出典:文献3)
_____ 少し解説📒 ____
大気中のトリチウムの年次推移は、測定地点によらず一定の傾向を示しますが、福島市の大気では、2010年次(翌年の3月に水分当たり10000 Bq/L、空気当たり40 mBq/L)、2011年、2014年、2017年(年次)に、他の都道府県と異なる数値を突発的に示している特徴があります。
これは主に2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故による災害に由来する大気中トリチウムが福島市の空気試料採取サンプルから検出された事例と推察されます。なお、福島市は福島第一原子力発電所から50km以上離れた50km-100kmの圏内にあります。また、福島第一原子力発電所から20km圏内の市区町村である双葉郡楢葉町、大熊町、双葉町、富岡町の空気中トリチウムの測定データは、2011年次以降は文献3の測定値から消えて、公開データとされていません。
様々な試料採取地の空気当たりのトリチウム放射活性濃度の年次推移(mBq/m3)を一番下の図に示しました。空気中のトリチウム濃度の月次推移に何らかの要因による季節変動が観察されることがわかると思います。この現象の一因としては、先に解説したとおり、土壌中および植物などの水分に含まれるトリチウム水の蒸散の季節変動及び、空気中の水蒸気濃度が関連していることが推察されます。
※グラフでは解析の都合から年次の1月から3月(翌年)が数字順に先頭に表されています。正確には年次で年を表すときは、月は4月を先頭にして翌年3月までの並びにすべきところですが、修正せずに掲載しています。"(-""-)"
刈刃村と福島市の比較|
空気当たり(mBq/m3)
水分当たり(mBq/L)
福島県 / 年次推移|空気当たり(mBq/m3)
様々な試料採取地 / 年次推移|空気当たり(mBq/m3)
大気中のトリチウムの年次推移(1989年 – 2017年|刈刃郡刈刃村)※独自に集計・作図(データの出典:文献3)最大値で集計
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降水および河川水中のトリチウム濃度の経年変化を図2に示します。トリチウム水濃度は、水蒸気量とその比放射能(Bq/L)で決まるので季節変化を示し、1980 - 1997年の関東平野では夏の多湿期は冬の乾燥期より4倍程度高くなっていました(文献2)。
降水および河川水中のトリチウム濃度の経年変化(関東平野)
(文献2|図2)
_____ 少し解説📒 ____
他方、北海道、京都府および愛媛県の河川の河川水中のトリチウム濃度は、1977 - 1991年は、月別でトリチウム放射能濃度が突出している現象が観察されますが、1999年以降は季節の影響が観察されません。
これは、北海道、京都府および愛媛県の河川付近では、大気中の水蒸気中トリチウム濃度が、1999年以降、減少して地上付近で地上や河川中のトリチウム水と平衡状態となり、あらたに供給されることなく、物理的半減期で減少しながら一定となりつつあることに起因する可能性があります。
北海道 / 玉川(河川水)|
北海道 / 堀株川(河川水)|
京都 / 朝来川(河川水)|
愛媛 / 新川(河川水)|
降水(河川水)中のトリチウムの年次推移(1977年 – 1983年|河川別)※独自に集計・作図(データの出典:文献3)最大値で集計
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2-2|局所的に放出されたトリチウム挙動
原子力施設から大気圏または水圏に放出されたトリチウムは、他の放射性核種と同様に大気や水の流れに従って移行および拡散をします。
大気中へ放出されたトリチウムに特徴的な環境中移行は、大気から土壌への沈着、土壌から大気への再放出、土壌中移行、植物への取り込み等です。
これらの移行は比較的速いため、事故時のように短時間に放出された場合の解析にはこれらの移行を動的に扱う必要があります。
一方、平常運転時のように一定のレベルで放出される場合は平衡状態を仮定することも可能です。
環境中でのトリチウムの放出点から人体への移行経路は図3のように考えられています。海水中のトリチウムは水産物によって取り込まれ、経口で人に取り込まれます。また、海水表面上のトリチウム水は水蒸気となって気圏および水圏において水の循環と同じ挙動をします。
トリチウムの人体への移行経路(文献2|図3)
海洋等の水圏へ放出されるトリチウムは、ほとんどトリチウム水であるため物性が酷似した水とまったく同じ挙動をします。
原子力施設から大気へ放出されるトリチウムの化学形は、主にトリチウムガス(HT)とトリチウム水蒸気(HTO)です。大気中での拡散の仕方はトリチウムの化学形には依存せず同じです。しかし、土壌への沈着、植物への取り込み等は化学形によって異なります。
また、環境中では種々の要因によりトリチウムの化学形が変化します。
大気拡散中に土壌に接触したトリチウムの一部は沈着します。トリチウムの動植物による生物濃縮の可能性、すなわち有機結合型トリチウムの比放射能が同じ生体中の組織自由水中トリチウムの比放射能より高くなる可能性に関しては、トリチウム濃度を注意深く制御した室内実験では観測されておらず、トリチウムの生物濃縮はないことが確認されています。
しかし、実験によっては見かけ上、生物濃縮が見られる場合があり、この原因として、環境中トリチウムの変動により過去の高濃度時に生成された有機結合型トリチウム濃度と、測定時の組織自由水中トリチウム濃度との間に差が生じたことなどが考えられています。
_____ 少し解説📒 ____
原子力発電所が存在する都道府県である京都府、静岡県および福井県の局所(市区町村)における大気中のトリチウムの空気当たりおよび水分当たりの放射活性濃度の空気試料採取によって測定された年次・月次推移を以下に示します。年次、月次推移において、季節変動とは異なり、不特定に随時突発的なトリチウム水の放射活性濃度の増加がみられることがわかります。
この季節変動に由来する要因を超えた突発的な局所大気中でのトリチウム水放射活性濃度の上昇は、特に福井県で顕著に観察されました。
舞鶴市
空気当たり(mBq/m3)
水分当たり(mBq/L)
大気中のトリチウムの年次推移(1990年 – 2018年|京都府)※独自に集計・作図(データの出典:文献3)最大値で集計
静岡県 / 試料採取地点別|水分当たり(mBq/L)
大気中のトリチウムの年次推移(1998年 – 2018年|静岡県)※独自に集計・作図(データの出典:文献3)最大値で集計
水分当たり(mBq/L)|高浜町
(1993 - 2018)
(1980 - 1998)
福井県 / 試料採取地点別
大気中のトリチウムの年次推移(1977年 – 2018年|福井県)※独自に集計・作図(データの出典:文献3)最大値で集計
上記のグラフからわかるように、福井県の高浜町の大気では水分当たりの放射活性濃度として最大値で、1986年11月に2072 mBq/L(=2.072 Bq/L)および 1994年11月に 1300 mBq/L(=1.300 Bq/L)のトリチウム水が観察されましたが、その一方で、1996年以降、大気中のトリチウム水放射活性濃度の増加が観察されました。そして、1998年11月には 31000 Bq/L(=31 Bq/L)、2007年11月には 52000 Bq/L(=52 Bq/L)のトリチウム水放射活性濃度が局所において観察されました。図に示した通り、比較すると若干少ないものの福井県の周辺市区町村においてもこれと連動したトリチウム水の大気中の放射活性濃度の増加が観察されました。
福井県高浜町の大気中のトリチウム水放射活性濃度52000 Bq/L とは、福島県福島市で2011年3月に観察された 10000 Bq/L の 5.2倍にあたります。
これは、局所的に放出されたトリチウムの大気中の挙動が空気試料の採取によって観察されたデータを、公開されているデータベース(文献3)の解析によって初めて体系的に視覚化し明らかにしたもののひとつであると考えられます。
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※これまでに論点解説で使用したトリチウム水の降水中及び大気中の放射活性濃度の解析結果などがグラフ化できるエクセルデータベースをExcel bookとしてデジタルダウンロードできます。
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参考資料|松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート番外編 【衛生 / 物理】論点:放射線 / トリチウム
トリチウムを徹底解説します。苦手意識がある人も、この機会に放射線の基礎「トリチウム」を一緒に完全攻略しましょう!
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オリジナルの検査値のデータ元|
日本の環境放射能と放射線
https://www.kankyo-hoshano.go.jp/kl_db/servlet/com_s_index
環境放射線データベース
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人口動態統計データベース「都道府県別の死亡の動向 / 周産期-乳児死亡の全死亡率」とピボットテーブル、マップグラフ、ピボットグラフのワークシート入りのエクセルファイル
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3|参考資料
原子力百科事典ATOMICA https://atomica.jaea.go.jp/
文献1. 放射線影響と放射線防護>放射線による生物影響>生物効果の基礎原理>トリチウムの生物影響(09-02-02-20|更新日2000年03月) https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_09-02-02-20.html
文献2. 放射線影響と放射線防護>環境中の放射能>環境中での移行と挙動>トリチウムの環境中での挙動(09-01-03-08|更新日2004年08月) https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_09-01-03-08.html
文献3. 日本の環境放射能と放射線
https://www.kankyo-hoshano.go.jp/kl_db/servlet/com_s_index
環境放射線データベース
https://search.kankyo-hoshano.go.jp/servlet/search.top
※文献1の中で引用されている参考文献:
1)沢田 昭三,岡田 重文:核融合研究者のためのトリチウムの安全取扱いの目安−1990、8章 人のトリチウム摂取による障害、平成元年度文部省科学研究費補助金報告書
2)トリチウムに関するQ&A集:放射線影響協会(1997年3月)
3)トリチウムの影響と安全管理、日本原子力学会誌、39(11)p4-32(1997)
4)トリチウムの挙動に関する参考資料集:放射線影響協会(1998年3月)
5)渡利 一夫,稲葉 次郎(編):放射能と人体,研成社(1999年6月)
※文献2の中で引用されている参考文献:
1)佐伯 誠道(編):環境放射能−挙動・生物濃縮・人体被曝線量評価−、ソフトサイエンス社(1984)
2)一政 祐輔ほか:トリチウムの影響と安全管理、日本原子力学会誌、39(11), 914-942(1997)
3)「昭和62年度文部省科学研究費補助金研究成果報告書トリチウム資料集・1988」:核融合特別研究総合総括班事業(1988)
4)新 麻里子ほか:自然環境中トリチウム挙動、プラズマ・核融合学会誌、73(12), 1347-1356(1997)
5)本間 俊充、野口 宏:環境放出放射性物質による被曝評価、プラズマ・核融合学会誌、74(7), 707-715(1998)
6)ICRP:ICRP Publication 72,Pergamon Press,Oxford,(1995)
7)C.D. Burnham,R.M. Brown,G.L. Ogram,F.S. Spencer:An Overview of Experiments at Chalk River on HT Dispersion in the Environment,Fusion Technology,14,1159-1164(1988)
8)S. Okada and N. Momoshima:Overview of Tritium:Characteristics,Sources,and Problems,Health Physics,65(6),595-609(1993)
9)日本原子力研究所 東海研究所 保健物理部ほか:保健物理−管理と研究− No.37(1994年度)JAERI−Review 95−020
10)放射線影響協会:トリチウムの挙動に関する参考資料集、報告書 資料・データ/専門用語集(1998年3月)
11)放射線影響協会:核融合施設周辺のトリチウム挙動に関する報告書(2000年3月)
12)文部科学省 環境放射線データベース:http://search.kankyo-hoshano.go.jp/servlet/search.top
13)放射線医学総合研究所:放射能調査研究報告書(2000年12月)
楽しく!驚くほど効率的に。
※以上のコンテンツは、松廼屋 Mats.theBASE BLOG https://matsunoya.thebase.in/blog にて特別公開した論点解説をもとに最新の情報を追加してリニューアルしたものです。
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参考資料|
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松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート番外編
【衛生 / 物理】論点:放射線 / トリチウム
2019/09/26 20:00 公開 https://matsunoya.thebase.in/blog/2019/09/26/200000
©2020 松廼屋 Mats.theBASE All rights reserved.
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あとがき|
トリチウムについて、トリチウムの人体への影響と環境中のトリチウム水の挙動や実際に観察されている年次、月次推移を示しながら、基本的に知っておくべきことを抜粋して、その論点を解説しました。
皆さんは、今回の科学的な論述と近年のトリチウム水の降水(河川・水道水)中及び大気中の放射活性濃度推移の実際を知って、どのような感想を持ちましたか。
特に、局所で放出されたトリチウム水の大気中の挙動とその放射活性濃度の年次・月次推移を見て、皆さんは、「はたして、この放射活性濃度の大気中水分当たりのトリチウム水は、人体に吸収されてその後、何らかの内部被ばくによる影響を全く与えないのだろうか」と疑問に思われなかったでしょうか。
わたしは、この環境中のトリチウム放射活性濃度推移を初めて見て、2019年9月でしたが、局所で放出されたトリチウム水とその人体への影響として考えられるがんによる死亡率や妊婦への影響を、自分なりに調べて明らかにしたくなりました。
それが、2019年9月26日に公開したこの論点解説から始まった一連の松廼屋 Mats.theBASE BLOG https://matsunoya.thebase.in/blog として公開されているコンテンツです。
最終的には、自分一人でできる最大限の成果として、下記のささやかなレポートをまとめて note に公開するに至っています。
note|
Health effects caused by tritium (H-3) in the data (9) | Locally released tritium
-Infant death and stillbirth
https://note.com/matsunoya_note/n/n2b353743dcbd
英語のレポート形式での記述で、図表の説明などは最小限にとどめているので、医師、薬剤師の皆さま、薬学生の皆さんなどではないとわかりにくいレベルの報告書ですが、ご興味があれば、こちらもどうぞご一読ください。
結論から申し上げますと、妊婦においての周産期死亡率および乳幼児死亡率を合計した死亡率を用いた疫学統計指標と局所で放出された大気中のトリチウム水放射活性濃度の最大値の累積値は相関しました。
これは、人口動態統計においての周産期死亡率および乳幼児死亡率に、主に福井県高浜町で観察された日本での大気中トリチウム濃度の最高値の年次・月次推移の累積値(継続的なトリチウム水内部暴露による放射活性の内部被ばく量と相関する可能性がある)が影響を与えた可能性を示唆した日本で(たぶん世界で)初めての科学的な知見です(と、思います…)。
周産期死亡率および乳幼児死亡率への放射線の影響は、比較的短期間で生体への影響が現象(エンドポイント)として見られる確率的影響および一部確定的影響です。
一方、がんの死亡率は、影響する要因が比較的多く、長期に渡っての様々な影響と治療による回復の影響が大きな要因としてかかわっているので、がんにおける死亡への局所で放出されたトリチウム水の影響に関しては、この私のメソッドでのやり方とは若干異なるアプローチが必要ですが、医療従事者或いは医療に関わる科学者であれば、放置せずにそのソリューションに向けてアプローチすべき課題であるように思っています。
それはスケーラブルにリスク管理すべき課題であるように思います。
そして、そのスケーラブルなリスク管理において、トリチウム水の生体への影響は、様々なリスク(例えば喫煙、気候変動による災害、ポストコロナなど)の中で最下位にすべき課題や放置して良い課題ではないと思うのです。
トリチウム水は、水と物性が酷似しており、水と分離できないやっかいな放射性物質です。一旦開放系に放出したら全ての水と交じり合い、大気圏および水圏、そして生物圏から決してなくなることはありません。
「いや、消えてなくなるよ!」
ええ、もちろんです。半減期は12年だから12年たてば半分の量になる。経口摂取したトリチウム水の生物学的半減期が約10日、有機結合型トリチウムのそれは約30日〜45日ですから、内部被ばくしても1月我慢すればトリチウム水の量は半分以下になる。たった1日しか摂取していないならそうでしょう。
毎日水の一部としてトリチウム水を7年間摂取していたとしたらどうでしょうか?経口で摂取していない?経肺ではどうですか?経皮では?
いや、経口で摂取していないって言いきれるんですか?
海ではどうでしょうか。
海水温が上昇すれば海上の水蒸気圧は高くなります。台風は海上の水蒸気から出来上がります。
日本は太平洋上で発生した台風が毎年来る島です。海の水は日本の上から降り注ぐんです。それだけじゃない。土壌はトリチウム水を吸着し、植物はトリチウム水を吸収し蒸散します。水と同じようにトリチウム水は水圏に存在し続ける。
魚は海水中のトリチウム水を循環します。
トリチウム水から放射される低エネルギーβ線は、生物の細胞内の細胞液に分布する。β線は、細胞内の核やオルガネラにそのエネルギーを吸収される。
わたしたちと日本のすべての生物の細胞内液は、今や、やや「ホット」な状態になりつつある。細胞内でおきている化学反応に対して、トリチウム水由来の低エネルギーβ線がどのような影響を与えるのか。それは、今まで世界が経験したことがない内部被ばくについての疫学的研究対象となる。
日本にいる人たちと生物と土壌とは運命共同体です。
この論点解説では客観的な科学的な知見をまとめて、トリチウム水を「見える化」しました。
ここまで読んでくれた皆さん、どうもありがとう。
すっきりはっきりトリチウム水が見えてきたら、合格です!
Report|
Health effects caused by tritium (H-3) in the data (9) | Locally released tritium
-Infant death and stillbirth
https://note.com/matsunoya_note/n/n2b353743dcbd
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お疲れ様でした。
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またのご利用をお待ちしております。
ご意見ご感想などお寄せくださると励みになりうれしいです。
note からのサポート、感謝します。
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このコンテンツ
Here: https://note.com/matsunoya_note/n/n0ad2b031b561
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お会いしましょう。