万象森羅パラレルショートストーリー3
―――ここは現世と他の世界をつなぐ――
――ある世界の一時(いっとき)のお話です。――
引用索引
万象森羅:設定・キャラクター等を共有して
いろんなストーリーを作っていこうという企画です。
万象森羅 本編
こちらはお寺のお勤めされているクリエイターともみとゆか様の小説です。
本編
前のお話し
2.1話 過去の記憶
私はすでに死にかけていた。身も。心も。ここは国の最果て、掃きだめ、忌むべき場所。
ある者は土を掘り起こし、虫を食べ飢えをしのぐ。ある者は水を求め井戸に落ちそのまま助からない。
感染症で多くが感染しそのまま眠りにつき輪廻に帰る。そんな日常が大手を振って闊歩している。
私がなぜ生まれたのかわからないが、1人生きるために頑張ったつもりだ。ただ、今年の冬は寒すぎた。
洞穴を少しずつ拡大し、数人横になれるスペースは作れた。周りの草や木の根、食べられる石、水分が多い竹を
口に入れ何とか命をつないでいく。
もう何年生きることができただろう?
年もわからない。名前もない。ただ、地面を這いずり回り生きる執着に身をゆだね、先人から得た知識で
出来るだけ自身の命を長く保つ。それが唯一の生きる意味だった。
でもさすがに、今年の冬は寒すぎた。なぜ私はみんなと一緒に冷凍されないのだろう。
いっそそのほうが楽だったのに。早く輪廻に帰りたい。
食料がない。水が凍っている。私は。なぜ生きているのだろう?みんなのところに行かせてほしい。
「・・・」
「・・・・・そこのモノ」
「これは、めずらしいですね。」
私はすでに動けず、目を開けているか開けていないのかわからないが、何も見えないので目を閉じているのだろう。
かすかに聴覚が脳に語りかけてくる。
「罠や、住処を作れる技術を持っていたようですね」
「これは珍しい。養成して高く売りましょう」
「この子をあっちへ・・・」
記憶はそこで途切れている。
2.2話 罠
私の放った冷撃は確かに命中した。
現に、大男は身の程もある大剣を構えたまま凍り付いている。大きいだけあって半冷凍といったところか。
しかし、しかし予想を反して、中肉の男は影響がない。奴隷の方もぶるぶる震えていてこの期に及んで間抜けな奴隷だが、
全く凍ってないのはどういうことだ?
――おかしい。凍っていない。
中肉の男は、私の様子を察知しているのかわざわざ説明をしてくれた。
「私たちは、あなたを捉える為に参りました。ギルドハンターのクラークと申します。以後お見知りおきを」
魔よけの本がすでに開かれており、見えない振動の壁が全身を覆う大きな板のように冷気、いや温度が伝わるのを防いでいる。
「説明してもわからないと思いますが、これは光の波長を制御し温度が伝わらない壁を作るれっきとした器械です。」
「そして、「奴隷様」に付いている首輪は、魔力を内部からも外部からも干渉を遮断することができます。大事な商品ですからね。」
先ほどとはうって変わって、余裕の表情さえ浮かべている。
「もしよろしければあなたも私たちの商品になりませんか?」
ふざけたセリフに対し、私は小さく舌打ちをかえす。
「そうですね。そこで震えている間抜けとは違い私は高く売れるでしょうね。
例えば、あなたの一族のすべての命とすべての財産と交換でいかがですか?ああ、これは手付金ですけどね」
手から鉄より硬い氷を出し、自分の身長と同じくらいの柄を持ったなぎ形のようなものを形作る。
私もずいぶん舐められたものだ。
妖魔の「ハンターは力だけじゃないから気をつけるんだよ」という言葉が脳裏によぎったが、
よりによって私を商品などと格下の人間がゆめゆめ口に出して良い言葉ではない。奇麗にスライスにしてあげようか。
「人間の生け作りと洒落こみたいですが、かわいそうですからひとおもいに絶ってあげます。」
クラークの持ち物は、魔よけの本だけだろうか。温度を伝えないということであれば、モノで叩けばよい。
うるさいミドリバエがぶんぶん言っているところをバシッと叩けばよい。人間の骨格など妖魔の力で簡単に粉々になる。
まてよ、他になにか対策していたら面倒だ。最短距離で胸を突こう。突いてしまえば力は分散されずたとえ壁を作っても
突破できるだろう。
3メートルほどの距離なら瞬き1つで終わる。
「――さようなら。退屈しのぎになったわ」
その言葉を聞く前に、先ほどのようにクラークは温度の伝わらない壁とやらを展開していた。
恐怖にゆがんだ顔も嫌いじゃないが、状況がわからないという無表情も私は好みだった。
「無駄です。温度遮断では防げませんね。」
ゴウという音がする前に壁に到達し、5メートルほど貫いた。
しかし。しかし、――私は何を貫いた?手ごたえがない。
左前方にいる中肉の男がゆっくりと私の存在を確認し語りかける。
「これはほんの自己紹介です。私の名前はクラーク。「魔術」が得意なんです。ですが、今回はこの器械で光の波長を変えました。
まあ、鏡みたいなものでしょうか。興味がないので「本人」に聞いてください。」
クラークは、優しそうな眼を私に向けると特に感想も持たないよくわからない顔をした。
「あなたの魔力は私の想像よりもはるか上でした。まさか浄化の叫びが効かないとは思いませんからね。すばらしい!」
クラークが魔よけの本を閉じると
「ガチャリ」と耳元で音が鳴る。
それは、クラークが魔よけの本を閉じた音とは別のものだった。
「――だから私が作った装置の方が上なんだって!叫び過ぎてのどが痛いよ。」
女性の声がした。私が反射的に首元を触ると大きな赤い首輪が付いている。
手元の武器は消失していた。魔力が切れている。妖魔の力が調節できない。
「言い忘れたけど、私はそこで「震えている間抜け」ではなく、ユキウサギ族のトレジャーハンター ノーウィ・リッカよ!
お金以外に興味がないから覚えなくていいわ!」