万象森羅パラレルショートストーリー 狐の神隠し

―――ここは現世と他の世界をつなぐ――
――ある世界の一時(いっとき)のお話です。――


引用索引
万象森羅:設定・キャラクター等を共有して
いろんなストーリーを作っていこうという企画です。



登場モチーフキャラクター
※ここでは「モチーフ」として使用しており、オリジナルのキャラクター
設定等と異なる場合があります。

https://twitter.com/Chiken_Tomomi  ともみとゆか様
たつきくん、シマ寿郎くん (※使用許可確認済)

https://twitter.com/HikaruKouno  光野ひかる様
原案 ユキウサギのトレジャーハンター ノーウィ・リッカ 
(使用許可確認済)




1.プロローグ

山の上には澄み切ったオイタケ色の木々が立ち並び、
所々ナノハナ色の蝶々(のようなもの)がリズミカルに踊っていました。
バラ色のタンポポは待ってましたといわんばかりに咲き乱れます。

「たつき殿、暖かくなりましたね。」
1間(約2メートル)程の虎のような外見をした動物が、
中空に向かって語り掛ける。

その視線の先には、虎の体躯より小さい、「たつき殿」と呼ばれた動物?が
ふわりと頭を縦に揺らす。その様子は、流麗な絹織物が風に吹かれたみたいだったが
どうやら肯定をしたらしい。
見た目は、龍のようにも思える。
しかしこの世界の龍は子供でも3里(約12キロメートル)くらいの大きさはある。
明らかに「それ」より小さい生き物だった。

その「たつき殿」は、風の吹くままに身を任せふわっと体を一回転させると虎の頭上方に近づいて行く。
体の大きさを考えると、肉食動物に小動物が警戒心もなくそのまま捕獲されて頭からパクっと
かじりつく寸前のようにも見えなくはない。

 ――彼らは当たり前のように体をすっと寄せ、虎は背中の上にたつき殿を乗せた。

「今日は、湖の先にある金剛山にでも行ってみましょうか?1日もあれば全部見回りできるでしょう。
もっとも、あなたの力ならそんなことしなくてもいいでしょうけど。」

虎は、ガラガラと豪快に笑う。たつき殿も笑った。春の陽気につられて、植物達も笑っているようだ。

そして茂みの奥のシラハナ色をしたうさぎもつられてふるふると笑っている。

「たつき殿?見なれないウサギがいますね。ちょっと行ってみましょう。」

2.トレジャーハンター

これは夢か?現か?幻か?

私は、混乱していた。
いや、現在も状況は続いている。なう・おん・でんじゃー!中だ。

私にはリッカという名前がある。

ユキウサギ族のトレジャーハンター。

自慢の脚力を生かし全世界を駆け巡り、美貌?と優れた?頭脳を駆使して
ありとあらゆるお宝をゲットする予定だ。

 ――予定だった。

私の優れた頭脳が常時えまーじぇんしーを発している。
目の前には、赤いタンポポのような花が咲き乱れ、黄色い正体不明の何かが狂気乱舞している。
頭上を見上げると、見なれない刃物のように緑色に輝いた木々が乱立している。

「あああああああ!ここはどこ!私はリッカ!あなたは誰?って誰もいない!!」

とにかく、五感が情報を集めるために翻弄している。

私は緑の国と呼ばれる地方で、今回の目的である次元を超越できるといわれている宝珠(インビジュアルなんとか?)を探していた。
何か、王宮のある(秘密です)場所にヒントがあると博士が言っていたので、ちょっと忍び込ませていただいたのだ。
もっとも、番人がいれば結果は違っていた(あいつ鼻が利くので侵入は無理!)が、その辺は私の情報網のおかげ!奴はいない。

その宝珠がどんなものなのかは興味がない。興味があるのは、高く売れるかどうかだ。
「宝石の価値を知っているあの方なら高く買ってくれるに違いない」という目算の元、入念に準備をして忍び込んだ。
地下牢を通り、宝珠のありかの中腹まで入り込めたことまでは覚えている。

そこから記憶が途切れ、現在に至る!! 以上!!!

「非常にっっ!サンチ!ピンチ!」

一番困っているのは、何かのトラップか、魔術かにハマってしまったらしく、
私の素敵な美貌があられもない(何千年も前のご先祖様ごめんなさい)と思われる姿(うさぎ)に変わっていることだ。
これでは道具も使えないし、他種とのコミュニケーションも取れないのではないだろうか。

混乱し過ぎてフルフル震えていると、ザァっと大きな音がした。

私はビクっと体が硬直し、恐る恐るゆっくりと後ろを振り向く。
時間がいつもより長く感じられた。
情報が少なく行動が後手になっているのを自覚している。
すなわちそれは動物的本能のみで動くこととなり、最悪の結果を招くことを意味している。

「 ――あっ・・・」

最後になるであろう口から漏れたのは声ではなく空気だったようだ。我ながらなんて間抜けなんだろう。
心の中で悟った。すでに逃げ道は絶たれていた。
目の前には私を一口で頭を砕くことができる金色の体躯を持った虎。
素敵な牙をお持ちだ。きっと、やわらかい肉を嚙みちぎり、か細い骨を砕くのは朝飯前だろう。・・・・私の。

(朝飯後であることを祈りたい・・)

虎(の様な生き物)は私を悠然と見下ろすと、すでに仕事を終えた後のような優しい顔で、私の頭上からその牙を振り落とした。

3.サンチ・ピンチ!

「 ――たつき殿。なぜ自分の背中を引っ張るんですか?」
はたから見ると、虎の背中にスイギョク色(エメラルドグリーン)をした珍しい動物が
ちょこんと乗ってるだけで特に何か動いたようにも見えなかった。

保護するために首根っこを咥えて移動させようとする寸前の出来事だったが、絶対的に信頼をおいている
友人の助言は聞いたほうが良いという知性を虎は備えていた。

「!このウサギは、言葉が通じる?しかも、淑女かもですって? ――だとすればなんという失態なのでしょう!」

第三者から見れば虎が獲物を頭から食いちぎるように見える寸前の体制から、
動画の巻き戻しのように器用に3尺ほど(1メートル)ウサギから離れると、だらだらと汗を流しました。

バターでも作れるのでは?と思う量の冷や汗を流しながら、虎の様な生き物は言いました。

「・・・アー。アー。ワタシノコトバワカリマスカ?」

私は、なぜか通じるその音を通して悲鳴をあげる。

「ぎゃあああ!虎がしゃべったあああああ!」

それを聞いて(通じて?)虎が漫画のように毛を逆立て痛恨の悲鳴をあげる。大きい体がさらにふっくらして見える。

「んああああ!ご無礼を働き申し訳ありません。知らなかったんです。許してください。」

命の危険はなさそうだということがわかると、私はおそるおそる、虎(のような生き物)と視線を合わせる。
お互い物珍しそうな目でしばし見つめ合った。

4.異次元緩和

私は言った。
「つまりなんですか。私は私が所属しない別の世界にいると。」

虎が答える。
「はい。いろんな次元世界がありますが、簡単に言うと、狐の神隠しとかありますよね。たまたま条件がそろうと来ちゃうんです。
6道4世10界が次元別に存在しますから、どこがどうというのは相対的になります。
ですから、次元世界は不可説不可説転(ふかせつふかせつてん)以上存在することになりまして私達には把握しきれないのです。

聞いたことがない単語が並ぶが、まあ、たくさんあってたまたま条件がそろうと来ちゃうのだろう。

「どうしたら戻れるのですか?」

虎が答える。
「難しいことじゃあありません。まだリッカ様は神隠しにあっただけで寿命がありますので転生せずに私達で元に戻せます」

極まれに神隠しによって別次元からの来訪者が迷い込むので、この世界の見回りを「たつき殿」としているとのことだった。

「たつき殿、リッカ様を元の次元に戻してあげましょう。その前にせめて無礼のお詫びにこの世界を案内したいのですが良いですよね?」

たつき殿と呼ばれた、生き物はふわりふわりと頭を縦に揺らす。その様子は、流麗な絹織物が風に吹かれたみたいだったが
どうやら肯定をしたらしい。

「リッカ様。元の次元に戻るとここでの記憶はほどんど残りませんが、せめて驚かせてしまったお詫びに私たちの世界を少しご案内させていただけまいか?」

私は、喜んで!と答える。(なにかお宝があるかもしれないし。)

「その前に、別次元での御姿をこちらの世界に寄せましょう。たつき殿、よろしくお願いいたします。」

虎がそう話すと、たつき殿がここではじめてしゃべったように感じた。今まで会話したことがないのだけどなぜか不思議と通じているように感じる。

「プラクテ・プラバスバラ」

なにか呪文のような言葉が聞こえた気がしたと思うと、――私は「ノーウィ・リッカ」地の国の住人でトレジャーハンターだ。

私は、私の記憶を手繰り寄せ、元の姿に戻った。

虎が満足そうにニコニコしている。たつき殿がその上でふわりふわりと踊っているようだ。

「元の姿もお美しいですね。ほうほう。その外套はハンドメイドですね!丁寧に作られている。道具の手入れも行き届いている素晴らしい!それと――」

たつき殿が虎をいさめたように思えた。(とくに何かしているわけではないのだけど)

「こりゃレディーに対して失礼しました!どうぞ私の背にお乗りください。特別に・飛びましょう。限られた時間でしょうから。」

特別?飛ぶ?

意味を理解するより、とりあえず金色の毛並みを待つ虎にまたがってみた。
毛は思ったよりさらさらしてふかふかだった。

虎が得意げに頭をそらし、
「私の毛並みは、次元一です!別次元では金運のお守りとして祀られたりもしているとうわさで聞いています!」
えっへん!といいそうなくらい得意そうだ。

「さて。」

風の抵抗を一瞬感じたが、重力も風の抵抗もなく足元がなくなった。
いや、飛んだのか?

眼下には大きな湖と、様々な色の木々、水晶のような透明感を持った山が見えた。
どれも持って帰って売ったらコレクターがよだれを垂らしてお金を払うに違いない。
 

「リッカ様。この森はヒトの欲で作られています。とても美しい結晶ですが、大きなショックを与えてしまうと消えてしまいます。
ですので、私達守り人の化身は物理的なショックを出来るだけ与えないよう通常モノとして存在しないようにして活動しています。
緑色といっても様々な、例えばワカバ、モエギ、ハナロクショウ、ヒスイ、その他
数えきれない色の木々があります。どれもきれいでしょう?長い年月をかけて少しずつ成長し、ここまで大きくなったのです。」

私は、あまり意識していなかったが(もちろん混乱していたわけだが)よく見ると木の1本1本の色が異なっているように見える。
上空から見下すと、まるで点描画で描いたような美しさだ。

「リッカ様。こちらの湖をご覧ください。こちらは遠く古い時代に聖獣が何万年も涙を流し続けてできたといわれていまして、万病に効果があるといわれています。」

ーーこちらの世界でも、なんか眉唾というかなんというか。透明度は高いようだが、底が見えない。ここまできれいだと少し怖い気もした。

「ここの世界は美しいモノ(お金になりそうなもの)がたくさんあって素敵ですね!」

虎が満足そうに答える

「そう言ってもらえると飛んだ価値がありましたね。さて、そろそろ戻らなければいけない時間かもしれません。ちょっと力を使い過ぎました。」

「――もう私の背から降りることができないでしょうから、そのまま元の次元にお送りいたしますね。」

「大丈夫です。私達でしたら間違いなく元の世界に戻すことができます。ですが、私達に会えなかった場合、そのまま欲にあてられて、肉体が消滅したり、罪人じゃなくても無限に次元をさまようことになる可能性もあります。」

私は、いつの間にかこの次元の姿に戻ってしまったようだった。言葉は出ないが、心の中で虎と奇妙な生き物に感謝の意を伝えるとちゃんと伝わったのがわかる。

「こちらこそありがとうございます。短い時間でしたがリッカ様にお会いできて楽しかったです。道中お気をつけて。それでは、たつき殿お願いします。」

こくりと首をもたげると、たつき殿は答えた。

「プラクテ・プラバスバラ・プラクテ・パリッシュ」

「――バンショウ・シンラ」

私は―― 

虎が呟いた「――戻りましたね。」
たつき殿はこくりとうなずいた。

5.エピローグ

「――――おーーーい。お・き・ろ!いつまで寝てんだ!」

目を覚ますと、私はいつものアジトの床に転がっていた。

「おはよう。ヒナギク。」

私は答える。

「ばっか野郎!!宝珠を盗りに行くって言ったっきり帰ってこないと思えば、犬野郎につかまりやがって!」

「ああ、それはご愁傷様。」

「罰として1週間ぼたもちくん達と一緒に緑の国の道路整備を手伝わされた身にもなってみろよ」

「大変だったね。お勤め御苦労。」

ひとしきり、興奮しきったヒナギクの受け答えをした後、今の状態を確認してみた。
できれば床ではなく布団に転がしてほしかったが、まあ命があるだけ良かったとしよう。
体に異常は見られない。

「どれくらい私は眠ってた?」

ヒナギクが答える
「7日間らしい」

「らしい?」

何でもヒナギクが言うには、私が緑の国に行ったのは10日前。
犬野郎は7日前屋敷に忍び込んだ私を見つけて逮捕したらしい。
その時の状態を伝えられたが、眠った状態で発見されたらしく
念のため治療用の保護プランターで7日間様子を見ていたとのこと。

その間、地の国の労働者を罰金の代わりとして使ったらしい。
体のいい人質のようにも思える。

「地の国と違って緑の国は無益な争いはしないのだよ。ありがたく思うんだな。
 ―――だってよ!クソっ!散々言いたい放題いいやがって!」

―――私が計画を実行したのは10日前である。しかし、眠ったまま捕まったのが7日前だとつじつまというか、
3日間のずれがある。治療用の保護プランターは軍人にとって非常に高価な物であり、
通常私たちのような一般庶民に使うものではない。どうも今回の対応は腑に落ちない。
私の記憶も。いまはおそらく一時的だと思うが、10日前の記憶がまるでないのはなぜだろう?

私が難しい顔をしていると、ヒナギクがいぶかしげにこう言った。

「あんた、狐の神隠しにでもあったんじゃないの?」


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