万象森羅パラレルショートストーリー2

―――ここは現世と他の世界をつなぐ――
――ある世界の一時(いっとき)のお話です。――


引用索引
万象森羅:設定・キャラクター等を共有して
いろんなストーリーを作っていこうという企画です。

万象森羅 本編 
こちらはお寺のお勤めされているクリエイターともみとゆか様の小説です。

本編



前のお話し+登場モチーフキャラクター
※ここでは「モチーフ」として使用しており、オリジナルのキャラクター
設定等と異なる場合があります。

前のお話し(こちらから読むことをお勧めします)書き手 光野ひかる様
https://twitter.com/HikaruKouno/status/1664845818057183232?s=20

※光野ひかる様のお話からの続きとなります。

第1話 奴隷とハンター


「久々の人間は、どんな感じだろうね」
エトワ(私)は大階段をトントンと下りると、広間の大きな扉に手をかけた。

背丈の5倍はあるだろうか、青い宝飾で彩られた見る物を魅了する豪華な扉があった。
私の頭の上、ちょうど手を振り上げた場所の宝石に妖力を軽く当てると自動で開く仕組みになっている。

大人10人がかりでも力でこじ開けることは不可能だろう。

さて、私は数年ぶりに扉が開いてく様子をゆっくり眺めていると、微弱の魔力と体温が漏れてくる。
氷の城には似つかわしくない物体が4体?いるか。

大広間は、石綿でできた鮮やかな赤い絨毯が床一面に広げてあり所々金の刺繍が施してある豪華な仕様だった。
青一面の壁と対象になりコントラストが素晴らしいが、それよりも妖魔がいうには汚れが目立たなくていいので気に入っているということだ。

私も、足元の雪を踏んでいるようなサクサクとした絨毯の感覚は好きだ。もっとも人間が現れるときぐらいにしかここには入らないのだが。

1000人は軽く収納できるであろう大広間の遠く入り口付近にそれはいるようだ。
開いた扉をぽかんと見ているが、逃げることはしていない。肝が据わっているのかそれとも世間知らずなのか。
どちらにしても、外は吹雪、中は私、助かることはもうあるまい。

先ほどのセリフを言うかどうか私が決めかねていると、あちらさんからお声がかかったようだ。

「あの!私たちは旅の行商で、キッカと申します。吹雪に見舞われて移動することができません!
どうか一晩屋根をお貸しいただけないでしょうか?」

鈴のようなキンキンとした声が大広間に響く。耳障りな声だ。
私はまとわりついた何かを振り払うように軽く頭を振ると、声の主に視線を向ける。

姿は成人を迎えたばかりのように見える。大きなウサギのような耳と赤い瞳、さらさらとした白髪。
大きな紺碧のフードの付いたマントをかぶり、ライオンの革でできたブーツを履いている。そこまではそうそう珍しいものではない。
中には防寒植物の繊維でできた厚めの外套が体を覆う。体のラインが見えないがおそらく「雌」だろうと思う。

それよりも大きな特徴がある。人間の急所の1つである首元に大きな赤い首輪をし、麻でできた頑丈なロープで後ろ手に縛られていた。
そして演技のようにも見えかねない異常な怯え。
こちらがうわさに聞く妖魔の城なのだから怯えるのは当然といえば当然だが。

それのロープを待つ「雄」が2人。
人間にしては体格の良い、2mぐらいの大男。大剣を背中に背負っている。護衛役だろう。
もう一人はローブを着込んだ中肉中勢。おそらく指揮を取る人間なのだろう。手には、魔よけの本を抱えていた。

私は妖魔から「人間は人間を売ったり買ったりすることもある」とは聞いていた。
これがうわさに聞いていた奴隷というものなのか?

初めて見るが心の中がざわつくのを感じた。

私は、静かに彼女らの方に進み、言葉を紡ぐ。
妖魔は、人間は儚いがめんどくさくもあるので遊び過ぎず一気に摘み取るのがいいよ?といっていたが、
それがどういう意味かわかっていなかった。と思う。

「ここがどこか解っていてのお言葉ですか?」

男たちは私が広間の中央まで歩み寄ると、半歩程度後ろに下がる。奴隷は動かないのでどうやら盾にしているつもりらしい。
冷撃でおそらく全員息絶えると思う。が、できるだけ散らばらないようにまとまってくれていたほうがありがたい。
後で掃除が大変だし、同系色とはいえ、絨毯が汚れるのは気になってしまうたちである。

私の声を聴いて、目を見開き、体の重心が後ろに移動している。逃げる準備だろう。
人間たちの反応はいつもと変わらないつまらないものだった。

――つまらないな。

私は、奴隷を引き連れたこの人間たちに退屈しのぎの何かを期待していたが、それもなさそうだった。

「愚かな人間どもよ。私の眠りを妨げたことを後悔するがいい――。」

と、前もって考えておいたセリフを私は呟くつもりだった。しかしそれは奴隷によって妨げられる。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー」

突然、大きな口を開いた奴隷から最後の断末魔のような叫びが発せられ、前倒しに倒れる。
私は突然の出来事に少しよろめいたが、気を取り直すと邪魔くさい奴隷のおなか辺りを蹴り上げ黙らせるとおもちゃのように数メートルころころ転がっていった。

なるほど、奴隷というのはこんな風に泣くのか。命が惜しくて?どのみち助からないのに。

残りの人間に目をやると、まるで花瓶が壊れた時のような驚いた顔で転がった先を見ている。

「どうするつもりですか?」

中肉中背の方が独り言のようにつぶやく。

私は、何十回と同じセリフを聞いてきたわけだが、彼らはきっと初めてのことだと思う。
ただ、やはりつまらないものはつまらないし、懇切丁寧に答えてあげるつもりもない。
すべてが退屈だ。

「こうするのよ」

ため息をつきながら、左手は前方に。右手は奴隷の方に。それぞれ向けると冷撃を放った。


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