予言者
ギャング映画のフリをしたイスラム教の物語
【ネタバレ有り】
カンヌでグランプリを獲るなど数々の映画賞を受賞した本作だが、
我々日本人には、かなり分かりにくい映画と言える。
フランス映画特有の説明不足ぎみな描写に加え、
舞台が刑務所なのだが、日本の刑務所と環境や規則等の違いが多々ある。
フランス語・アラビア語・コルシカ語などが入り乱れた雑多な言語社会、
アフリカ系やエジプト系もいる。そしてそれら人種差別に関する機微。
さらに物語の根幹にある、宗教文化、これが一番分かりにくい。
端的に言うとこの映画は、
「ギャング映画のフリをしたイスラム教の物語」であり、
のちにイスラム教の教祖となる、修行中のムハンマドに、
大天使ジブリールが神アッラーからの啓示を伝えるという説話になぞらえ、
それをギャング映画に仕立てた点が画期的であり秀逸なのだとか
(主人公のアラブ人青年マリクが修行中のムハンマドで、
マリクに殺されたホモ中年レイェブの幽霊が大天使ジブリールである
という説がある)
(最初は意味不明だが、幽霊となったレイェブが添い寝してきたり、
人差し指に火をともし誕生日を祝ってくれたりするからビビる。
でもだんだん馴染んできて一緒に煙草を吸ったり、
アッラーをたたえながらクルクル踊ったり、予言をくれたりもする)。
これはもうイスラム教に無知な我々日本人には全く意味が分からない。
しかし、分からないながらも、
なんかこの映画は他のと違う、という知的な深みは感じられる。
(2回くらい観るとその意味や不明瞭だった状況が分かってくる。
2回以上観る価値のある映画だと言えるし
2回目の方が面白く感じられる)。
青年マリク(シドヴィシャス似)はギャングとして成長していくわけだが、
表面的にはアホに見えてその実、知能は高く、なかなかの魅力キャラ。
刑務所は勉学の場でもあり、無学だった彼は国語と経済学を懸命に学ぶ。
その裏で薬物売買に勤しみ、殺戮シーンなどもかなりのリアルさでエグい。
そうしてマリクは人脈と度胸と予言と教養と資産を身につけ
ギャング社会でどんどんのし上がっていくわけだが、
そもそも旧約聖書は戦争の歴史書でもあるから、
それをギャングの(下劣な)抗争に例えるのはあながち間違いでもない。
しかし、それにしてもよくそれをイスラム原理主義者が許したな、
ヘタしたらイスラム過激派に消されるだろ、
と考えると、
なるほど、この映画の「分かりにくさ」の意味が腑に落ちる、
敢えてわざと難解なメタファーに仕立てた意味が。
監督 : ジャック・オーディアル
出演 : タハール・ラヒム
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