いくらくらいたい
サーモンの魚卵のことだ。
別にあなたを馬鹿にしているわけではない。
いくらを言い換えてみた。
「いくらを食べたい。」
そう呟いたのは編集担当。
先日公開した映像作品の制作中のことだ。
作品を作れるということが貴重なのはわかっているし、一つ作り上げるのが目標なので、そこにやりがいは感じている。しかし、映像を出しても評価されるのは役者。編集が上手く切り繋いでいること、膨大な作業をこなしていること、一秒に何時間もかけていることは、観てくれている人は知らない。評価もきっとされない。そう思うと、ある種の虚しさを感じるのだそうだ。
確かに、スタッフをやっていると、
そういう虚無感に襲われることはある。
もちろん、仕事にやりがいは感じている。
やりたくて、その道を選んでやっている。
がしかしだ。頑張っても何も反応のないことが
どれだけ寂しいことか。
自分は経験から知っている。
どうにか、彼女のモチベーションをあげられる方法はないか。根本的解決にならなくても、どうにか応援できる方法はないか。
そこであの呟きを引き合いに出してみたところ、ブルーギルのように食いついてくれた。
そして9/6。
自分のお財布で2杯分食べに行くことになった。
お店は自由が丘の「波の」に決定。
”いくら丼”を検索エンジンに入れて回してみたところ、とても美味しそうないくら丼の写真が出てきたからだ。
いくら。をたくさん乗っけためし。
いくら丼。とんでもない食べ物だなと思う。
あの橙色の高級な粒を頬張りに行くのか。
少し緊張する。
相方はそんなことはみじんも思っておらず、楽しみで仕方がない様子。俺のヘニャヘニャな顔面の映像を恐ろしく時間をかけて編集してくれたんだ。この労を労わなければ。
そういえば、いくらってどんな味だっけ。
回転寿司ではあまり食べないし、スーパーのちらし寿司に4粒ぐらい乗っているけど、あれはほぼ味のしない膜だ。いくらって、どんな味だったっけ。
でも高いことには間違いない。
ホームページでも一杯2000円以上した。
少し敷居が高く感じる。
だが負けてはいけない。
相手は食材だ。
お店に到着すると、行列が。
ここは予約をとっておらず、誰しもが並ばなければいけない。前に二人並んでいたので、その背後に毅然とした態度で立つ。俺はいくらを食う側の人間だという舐められないためのアピールを欠かしてはいけない。
次第に順番が回ってきて、
店員さんに声をかけられる。
「何名様ですか」
「二人です」
少し低い声で落ち着きを見せる。完璧。
相方は順番がもうすぐで嬉しそうな様子。
純粋な人間だなあ。
席に案内される。
店内は広くはなく、カウンター6席・テーブル2つ程だ。雰囲気はお洒落な明るいカフェのようで、少し意表を突かれる。しかも目の前に置いてあるいくらの置き物が可愛い。メニューも、半紙に筆で書いてあるのかと思いきや、ミニミニ黒板に清潔な字で今日のおつまみなどが書いてある。
もしや。ここは肩に力を入れていくらを食べにくるところではないのか。薄々それを察知し、少し恥ずかしくなる。が、体裁を崩してはいけない。ここまでかっこつけてきた。かっこつけ切らなければ、ダサい。
メニューをみる。途端に二人で声を上げる。
あまりのメニューの異世界さに驚きを隠せないのだ。
一言にいくら丼と言っても種類が豊富。いくらには、特上いくら、ますこ、紅鮭のいくら、黄金いくら(イワナのいくら、レア度高)がある。それぞれ色が違い、味わいも違うらしい。その4種類とも味わえるレインボー丼なんてのもある。頭に虹がかかっちゃう。しかもトッピングも選べるらしい。何ここ。超お洒落。ステキ。更に一番高い丼、特上いくら・黄金いくら・生雲丹の贅沢3種が乗った丼の名前が「神のたべもの」って書いてある。そのセンスまじで好き。俺も神のたべものを提供するお店で働きたい。
いけないいけない。かっこつけ切らなければ。
いくら側に舐められる。この時点でいくらに舐められるってそもそも何?とはなっているけども。
カッコをしっかりつけつつ、脳内に虹がかかっている俺は迷わずレインボー丼を頼む。どんなのくるんやろ。ワクワクどきどき。あちがう。どのようなものを提供してくれるのやら。お手並拝見しようか。
もうカッコつけるってなんだっけか。
とか思っていると、まずセットの味噌汁がきた。
ここでも嬉しい衝撃が。この味噌汁、濃い赤だし味噌汁だ。ここの店主、俺の舌を完全にわかってる。好きかも。味噌汁は基本何でも好きなんやけど、やっぱり海鮮には濃い赤だしと決まってる。ああなんか、見透かされたような感じ。赤面。
そして相方の丼が先に運ばれてきた。
相方は特上いくら丼の増し。次郎のようなシステムでいくらを盛りに持ってもらっている。丼と言っても、カレールー入れるやつみたいなのにいくらが別で入って出てきて、とっても可愛い。何その容器。IKEAでも売ってないよ。
相方はいくらを前に目をらんらんにしていた。
嬉しそうで何よりだ。
そしてついにやつが運ばれてくる。
レインボー丼。俺の虹。それはなんと、相方の容器より小さい容器で4つ可愛く並べられてやってきた。7人の小人が軽快なステップで歩み寄るかのように、ちんまりずらりと並んでやってきたのだ。
ああもうダメ。カッコつけてなんかいられない。
もうビジュアルに耐えられない。大好き。
それぞれ同じ器に盛られた違ういくらは一粒一粒輝いて、まるで彼らの故郷の水面のよう。なんて綺麗なんだろう。
それにこのシンプルさ。
いくら。めし。味噌汁。どうぞ。
って感じ。ストレートでかっこいい。
4種類を丼に盛ってみた。
この、「盛る」という行為がすでにエンターテインメント。いくらが容器から流れ落ちる様子はしなやかに舞う踊り子のようで、ああこの世界に重力があって良かったと思う。そして盛られたいくらたちは所狭しと肩を寄せ合い、美しく輝いている。この工程が一番食欲をそそる。
そして一口。特上いくらから。
「いくらってどんな味だっけ。」の答えが舌の上で破裂する。ああこれだ、いくらってこの味だ。魚卵といえども卵。その濃厚さとクリーミーさが舌にねっとりとまとわりついて離さない。その中にいくら独特の香ばしい旨味が押し寄せてきて、米とともに噛めば噛むほど広がる多幸感。美味い。
そしてなんと言っても弾力が違う。膜の張りが、スーパーとは段違いで、舌で押しただけでは潰れず、しっかりと歯で噛み弾ける。味も食感も美味いたべものここにありと言った次第。
いくら丼。頑張った人間へのご褒美ランキングの上位には食い込むたべものだ。相方も旨そうに頬張っている。
そして4種類の食べ比べに入る。
これがまた、俺みたいな馬鹿舌(炭酸で舌の組織を溶かすのが趣味)にもわかるぐらい、旨味や弾力、香りに差がある。どうやら漬けている出汁も違うみたいで、それぞれのいくらに合うように調整されているのだとか。俺はますこのクリーミーさに圧倒された。
そこからはもうほぼ記憶がない。
むしゃぶりつくように丼を舐め回し、赤だしを飲み、また丼を舐め回していたような気がする。
丼がすっからかんになると、なんと卵かけご飯のサービスがあるらしい。
トッピングをしらすなどなどから選べて、少量のTKGも食べられるというわけだ。俺はトッピングを蟹味噌にして、TKGもかっくらった。
鶏卵を食べると、いくらの香ばしさというのがよくわかるな。
鶏卵はクリーミーと甘みに全振りしているが、いくらには香りと旨味がある。この違いを感じてもらうためのTKGか。やられた。
食べ終わり、満足感に満たされる。
というか純粋に食べ過ぎた。丼1杯にTKGと味噌汁。大食いというわけでもないので、お腹が苦しい。カロリーとかプリン体とか考えたらやばいんだろうなあ。そんなのは知らない。プリン体だろうがヨーグルト体だろうが、俺には知ったこっちゃないんだ。今はただ幸せだ。
目で見て綺麗。食べて美味しい。香り高い。
食事として最高ランクの丼を頂いて幸せだ。
もう帰って寝たい。そろそろ帰ろう。
その時、店員さんが話かけてくる。
「お会計こちらになります。」
あそうだそうだ。お金を払わなきゃ。いけないいけない。このまま帰るのは食い逃げになっちゃうもんな。支払いは鮭られない。なんつって。ガハハ。
「2名様で、6440円です。」
ハイハイ、6400、、、、。
え?いくら?
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7:30起床。
柔軟。歯磨き。シャワー。
編集さんへのお礼にいくら丼を奢ることに。
検索した結果、自由が丘の「波の」さんに決定。
予約はとってないらしく、現地へ行ってみないと人の様子はわからない。
急いで準備して向かう。
電車には乗れないのでバスを乗り継いで現地へ。
自由が丘。一回だけUberEatsで配達しに行ったことがある。すごくおしゃれな街で、近くに住宅街もあったイメージ。
バスに乗ってる間はnote書いた。
着いた。駅前をみたことはなかったので、驚いた。すごいでかい。おしゃれ。めっちゃ綺麗な下北みたいな感じ。専門店が立ち並び、美味しそうなスーツやさん、ラーメン屋さん、レストランにおしゃ服の店。これはたまげた。
波のさんにいく。
やっぱり行列。人気店なんやなあ。
20ぷんぐらい待って、ようやく中へ。
レインボー丼の増しを注文。
えげつない。レインボーて。
最後に卵かけご飯もサービスでついてた。
最高。
そこを出た後は、少し自由が丘をぶらり。
久々の新しい街なので新鮮で楽しかった。
雑貨屋さんに入り、めちゃくちゃかわいい小物入れを見つける。
別の雑貨屋さんでは洗濯グッズが置いてあって、ハンガーと洗濯ネットを買った。
カフェにも入って絵本コラボのでっけえかき氷も食った。見た目最強かわいい。
その後は二子玉川に移動し、映画を見た。
『青くて痛くて脆い』
青いのは人間で、
痛いのも人間で脆いのも人間。
少しチープさはあったが、
没入した瞬間もあったのは確か。
映画館の力なのか、
やっぱり没入した瞬間は最高だ。
そうして帰り際に近くのスーパーで惣菜を買って、食べて帰宅。
帰りにセブンのあかにし貝を買った。
こいつ最強まじでうまい。天才。
あかにし貝を食べて、
バタンキューでねた。
20200906
〈食事〉
朝:コーンフレーク
昼:いくら丼 レインボー丼
夜:トロたく巻き、子持ちししゃものフライ、
スコッチエッグ、あかにし貝
〈エンタメ〉
青くて痛くて脆い
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