「クローズZERO」が全てを狂わせた(大学デビュー天下獲り物語③)
第3話!
前回の②の続きです!
元ネタ動画
3日連続更新です。
そろそろ粗が目立ちそうです。
ケンカは見るのとやるのでは全然違いました。
いいねとサポートもよろしくお願いします。
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工学部、教育学部を制覇しようと思ったが、工学部にも僕らと同じように目立っている1軍のグループがあった。
その中心にいるのは、「金髪坊主」。僕らが影でそう呼んでたヤツだ。
あだ名そのまま、金髪で坊主。そしてゴツい。
隆志くらいケンカが強そうだ。
その工学部の1軍のグループも派手に遊んでいるという噂は僕らの耳にも入っていた。
あそこのサークルの可愛い子グループと繋がってるだとか、他大学の女子達とコンパしているだとか。
僕らが街でナンパなんかしたら、「え?宮崎大学なの?じゃあ〇〇君知ってる?」みたいにその工学部グループの男の名前を出されることもあった。
僕はそういう話しを聞く度に少し気に入らないなと思うようになっていた。
誰かが宮崎大学をまとめないと。1軍は1つでいいと。
そんなときだった、覚えてるだろうか?
小栗旬主演の「クローズzero」という映画。
「クローズ」というヤンキー漫画を映画化した作品。
それが、宮崎に上陸してきたのだ。
季節はもう冬くらいだったか。
僕はF4の1人、新一郎とあと農学部の仲間何人かでそれを見に行った。
そのときの衝撃。
カッコいい!
ヤンキーカッコいい!
スクリーンには所狭しと暴れ回るヤンキー達の姿。
僕が中学のときに避けて進んできた道を生きている男達の生き様。
僕は一瞬で心を掴まれた。
そして思い出した。中学生の頃、ヤンキーと付き合った僕の初恋の子。
あの子がなぜ、ヤンキーに惚れたのか。その理由も少し分かった。
親元を離れて自由となった僕の前に、少しだけヤンキーの道が見えてきた。
男だったら、一度もこういう生き方せずに死んでいいのか?
そうもう1人の自分が問いかける。
呆然状態で帰ってる途中、僕はポツリと呟いた。
「なんかケンカしてーなー。」
今思えば最高にダサい発言だ。
国立大の大学生の発言じゃない。
しかし、新一郎はそれに飛びついた。
「わかるわー。オレも久しぶりにしてー。」
残りの一緒に見に行ってた仲間達も口々に言う。
「オレも。」
「なんかケンカできそうなヤツ、おらんかなー。」
そのとき、誰かがポツリと言った。
「あいつは?工学部の金髪坊主。」
電流が走った。確かに今ケンカするとしたら僕らの相手はあの工学部の1軍達だ。
僕は宮崎大学を1つにしたい。完全な天下を取りたい。
そうなれば潰す相手は決まっている。
「いいかもな。」
みんなが口々にそう言う。
「クローズzero」のおかけで、みんな完全にかかっていた。自分らが国立の大学生っていうことも全く忘れている。気分は、中学生だ。
「難癖つけて呼び出すか。」
「そうしようぜ!」
みんな、思ったより乗り気だ。
ただこの時点では冗談半分の感じもあり、みんながどこまで本気なのか探り合ってる感じもあった。
ただ、その後にアイスを買いに寄ったコンビニ、そこの漫画棚に置いてあった「ワンピース」を見たとき、
僕の中の決意が固まった。
中学のときの初恋。
あのとき、返ってこなかった「ワンピース」。
そのときからずっとくすぶっていたヤンキーへの憧れと嫉妬。
それらと「クローズZERO」のような生き方を一度でいいからしてみたいという気持ちが、全て繋がった。
アイスを食べながらコンビニの前でタムロしている新一郎達に、僕は言った。
「なあ、さっきのケンカの話し…マジで、やらん?」
こうして僕らは晴れて、金髪坊主率いる工学部と喧嘩することにした。
次の日、さっそくその工学部グループの1人をmixiで見つけたので、呼び出した。
呼び出した理由は、詳しくは覚えてない。
確か農学部のグループの1人が仲良くしていた女の子が、工学部のグループの1人とエッチしてたとかしてなかったとかそういう理由だ。
難癖だったので覚えてない。
「とにかく、お前ら工学部のヤツらは調子乗ってるからまとめてぶっ飛ばす。」という旨と、「3日後の夜、金髪坊主を連れて、大学の第二駐車場に来い。」と伝えた。
金髪坊主からもすぐに「上等だ。お前ら覚悟しとけよ」という連絡が返ってきて、瞬く間に問題は大きくなった。
農学部vs工学部。ついに天下を賭けた桶狭間の一戦の幕開けだ。
残りのF4、村崎と隆志は無関係だったが、隆志の当時の彼女が、工学部グループの1人と同じ高校で、そいつが隆志の彼女の悪口も言ってたとかなんとかが耳に入って、隆志も参戦することになった。
僕らの誰かが隆志に告げ口したのだろう。
隆志は完全に巻き込まれた形だったが、僕らは心強かった。
隆志はデカいし、おそらく喧嘩も強い。
喧嘩に協力してくれたら100人力だ。
ケンカ当日。
僕らはいつも通り大学の講義を受けて、牛もちゃんと牛舎に戻した後、僕の家に集まっていた。
集まったのはあのとき「クローズzero」を見て感銘を受けた5人。
僕はタンクトップにジャージ、ネックレス。新一郎は白の上下スウェットに金のネックレス。各々が自分が思うヤンキーっぽい格好に着替えて、バットや木刀などの武器を持ってきていた。
「オレこれ、持ってきたわ。」
新一郎が持ってきたのは、駐車場で車を停める用の縁石だった。
そんなので殴ったら死ぬし、どう使うんだと思ったけど、僕は「おお、それは使えるなー。」と言った。
「そういえば隆志は?まだ来とらんの?」
「あいつ、ビビったんやない?」
口々にそんなことを言いながらも、みんなソワソワしていた。明らかに緊張している。
初めてのジェットコースターに乗る前の子どものような顔だった。
もしかして周りのみんなも、僕のように大学デビューなのかもしれない。
僕は少し前からそう感じるようになっていた。
いくらケンカしたいとか、昔からヤンチャしてたみたいな色々強がったことを言っても、なにかふとしたときに感じるダサさとか芋っぽさというものがあるのだ。
5人の内の1人は、いつも裏地がチェック柄のシャツを着ていたし。
でもみんなそこには触れない。
大学デビューということを悟られないように、みんな前を向いて生きてる。
過去を捨て、過去の自分に蓋をして生きてるのだ。
誰かが蓋を開ければ、過去に戻っちゃうかもしれない。
そこに触れるのはタブーというのは、僕らの暗黙の了解なのだ。
「もう行くか。」
時間が迫り、隆志が来る前に僕らは待ち合わせの駐車場に向かった。
各々の武器をワゴンRに詰め込み、AK-69を爆音で流しながら、無理矢理、荒い運転をして。
駐車場に着くと、まだ工学部の連中は来ていなかった。
「あいつらビビって来ないんやね?」
「確かに。」
そんなときだった。
「ブォン!ブォン、ブォン!ブォン!ブォーン!」
地元の北九州でしか聞いたことがない爆音が、夜の駐車場に響き渡った。
眩い光が列を連なって、蛇行しながら駐車場に入ってくる。
怪物の唸り声のようなその音と、竜のような光の列の正体は、バイクだ。それも2、30台の。
バイクにまたがっているのは明らかに大学で見ていた工学部の連中じゃない。
「クローズzero」の映画にまんま登場していたようなヤツらだ。
「え?え?え?」
僕らはみんな明らかに戸惑っている。
先頭のバイクの後ろから、1人降りてこちらへ向かってくる。
金髪坊主だった。
そのとき僕らは自分の間違いに気づいた。
この金髪坊主は本物だった。本物の元ヤンキーだったのだ。
僕らは金髪坊主も大学デビューだろうと完全に見誤ったのだ。
ドラマとかだけかと思ってたが、たまにいるのだ。昔本当に悪くて、でも更生して勉強を頑張って国立大学に来たみたいなヤツが。
金髪坊主はどうやら、それだったのだ。
「松本っていうのは、どいつだ?」
僕は自分の名前を呼ばれてドキっとした。
僕がこの事件の首謀者で、農学部の代表というのは向こうも知っているようだ。
周りの仲間達がみんな僕を見つめる。
新一郎は手に持っていた縁石をいつの間にか地面に置き、車を1台停めるスペースなのに、2個の縁石がある状態になっていた。
「おらあ!とりあえず土下座しろ、お前ら!」
金髪坊主に続いて、首にウソみたいたタトゥーを入れた男がそう吠えながらこちらへ向かってくる。
「どうしよう。」
僕は必死に脳味噌をフル回転させた。
どう考えてもここは全力で土下座して、怪我を少しでも少なくして帰るのが正解だ。
ただ、今後の大学生活はどうなる?
元々は僕の「喧嘩してー」発言が発端だ。
なのに、あいつ口だけだったんだ、あいつイキってただけでただのビビリだったんだ、とか仲間に全部バレてしまう。
せっかく過去に蓋をして生きてきたのに、過去戻っちゃうんだ。
土下座するにしてもせめて1番ではない、新一郎とか他の仲間達の後だ。
新一郎とか他の仲間達も大学デビューだったと確定した後にしないと。
「どいつが松本だ?」
金髪坊主は威嚇しながら、どんどんと近づいてくる。
そんなとき、僕は「クローズzero」を思い出した。
たくさんのヤンキー達を相手に暴れまくる小栗旬の姿。
僕はこの大学でも見事に成り上がれたじゃないか。なら、今の僕にできないことはないんじゃないか。
何故か不思議と、まだ高く飛べる気でいる自分もいるのだ。
覚悟を決めた。
ここで引いてもどうせ今後の大学生活は地獄だ。
なら、ここで自分の可能性を信じてやれるだけやってみようじゃないか。
きっと周りの仲間たちも覚悟を決めてるはずだ。
「オレだよ!松本はオレだ!」
僕はそういって前に進んだ。
金髪坊主のところへ進んでいく。
そして、後ろをパッと振り返ると…
みんな正座していた。
新一郎も、他の仲間たちも。
「ええっ…」
思わず声が漏れた。
でももう僕は止まらない。そして前を向き直した瞬間…
ボコッ!!
鈍い音ともに、閃光が走った。
金髪坊主の右ストレートが僕の顔にクリーンヒットしたのだ。
「痛っ!!」
脳が、これはマジでダメなヤツだと一瞬で僕に伝えた。
遊びでも映画でもない、今まで経験したことのないリアルな痛み。
鉄の匂いが一瞬で鼻に広がる。
「うわああ!」
このままじゃやられる!
そう察知した僕は無我夢中で金髪坊主に拳を繰り出した。
慣れない僕の右ストレート。
それは、金髪坊主のゴツい体、太い首の上についている顔に、ペチンと情けない音を立てて当たった。
金髪坊主は僕のパンチによろめくことも、いったん距離を取ってガードを固めることも一切せず、そのまま僕の襟を掴んで地面にバンッと投げつけた。
そこから僕はあっという間に馬乗りになられて、嵐のような拳の打ち下ろしを喰らった。
そのとき僕は思った。
「あっ…これ死ぬ。」
今後の大学生活とかそれどころじゃない、自分は今ここで死ぬと。
パンチを喰らうたびに目からは火花のようなものが散るし、頭はコンクリートにガンガンに打ちつけている。
どこか甘い考えだった。
喧嘩で人は死ぬはずがないと。
「クローズzero」ではあれだけの大乱闘をしてても人は1人も死ななかった。
でもそれは映画の話しだ。リアルな喧嘩では人は死ぬかもしれないのだ。
そんな大事なことに今気づいたのだ。
金髪坊主は攻撃をやめてくれない。
そして、みなさんは経験があるだろうか?
人間が本当に死の間際に立たされたとき、そのときに出る本当の一言、分かるだろうか?
それは…
「助けて…」
助けてなんだ。
本当に助かりたかった。
僕は振り絞った細い声でそう呟いた。
金髪坊主はその声が届いたか届いてないのか、分からないがそれでも攻撃をやめない。
なんなら、先ほどの首にタトゥーが入った男も攻撃に加わり、僕を蹴っている。
意識が遠のく最中、僕はぼんやりと村崎とやっていた「ヤンキー遊戯王」を思い出していた。
暴走する金色のゴリラ、金髪坊主、攻撃力2800、守備力2500。
僕は、大学デビューの口だけ男松本、攻撃力500守備力300。
最初から勝負にならない。
「なにしよんや、お前ら!」
突如、駐車場に怒号が響いた。
その声に金髪坊主の攻撃がやっと止まった。
声の方を見ると、また1人、茶髪の鳥の巣みたいな頭をしたヤンキーが駐車場の階段を登って、近づいてきていた。
そしてその後ろからもう1人。隆志の姿。
「どういうこと?隆志と一緒にいるヤツは誰?」
薄れる意識の中、そんなことを考えるのも束の間。
初登場、茶髪鳥の巣頭のヤンキーは倒れてる僕の元へ近づいてきた。
「なに、勝手に喧嘩初めてんだ!」
茶髪鳥の巣頭のヤンキーが、金髪坊主を突き飛ばす。
そして…
ボグッ!
僕は思いっきり蹴り飛ばされ、生まれて初めて意識を失った。
目を開けると、そこは自分の家だった。
まるで何十年もの長い眠りから目を覚ました後のような感覚だった。
「おお、松本!」
近くには新一郎と他の仲間達がいる。
まったく状況が理解できない。
「お前、気失ってたんよ。やからオレ達で運んだんだ。」
そうだ。
喧嘩してたんだ。
「クローズzero」やってたんだ。
起き上がろうとしたら激痛が走った。
それでもゆっくり起き上がって鏡を見る。
そこには顔が3倍くらいに腫れ上がった血まみれの化け物がいた。
他の仲間達の顔を見ると、みんな傷一つ負ってなかった。
僕を置いて早々に喧嘩から降りたことを責めようかと思ったが、もうそんな気力は湧き上がってこなかった。
僕も馬乗りで殴られて「助けて。」なんて言って醜態を晒しているし。
「ケンカは…どうなったん?」
ゆっくり口を開いたが、痛い。
口の中もそうとう切れている。
新一郎が少し言いづらそうに答えた。
「…隆志が終わらせてくれた。」
「隆志?」
確か気を失う間際に見た。隆志が駐車場にやってきていたのを。
聞いた話しはこうだった。
どうやら隆志は中学・高校時代、ヤンキーではないけれども喧嘩も強く、ヤンキーに一目置かれる存在だったようだ。
今回、金髪坊主達とこういう喧嘩をすることになったと昔友達だった、あの茶髪鳥の巣頭のヤンキーに相談すると、そのヤンキーが金髪坊主とも顔見知りでもあったようで、仲裁してくれるという話しになったらしい。
結果、隆志がいない間にもう僕が勝手に喧嘩を始めていたため、そのヤンキーは仲裁することもできず、隆志は金髪坊主とタイマンを張ったとのことだ。
隆志と金髪坊主のタイマンは互角。
お互いに一歩も引かず、殴り合ったらしい。
そして戦いの末、勝負はつかず2人はお互いの健闘を称えあい、握手をして友情が芽生えて終わったらしい。
なんだよ、それ。
隆志が1番カッコいいじゃねえか。
そして、隆志は大学デビューなんかじゃなかった。金髪坊主と同じ本物のヤツだったのだ。
そして僕は本来、負わなくてもいい傷をおったのだ。
僕の家に隆志の姿はない。
どうやら鳥の巣頭のヤンキーと一緒に帰ったらしい。
新一郎や他の仲間もしゅんとしている。
それはそうだ。
こいつらも金髪坊主の前に正座してしまってるのだ。
僕はその後、新一郎に病院に連れて行ってもらい、色々な精密検査を受けた。
結果は奇跡的に異常なし。
死を覚悟したが、思ったより体は頑丈だったみたいだ。
でも僕はしばらく包帯まみれの腫らした顔で大学に通うことになった。
そして、僕のそこからの大学生活は一変した。
どこまで話しが広がってるのか分からないが、周りのみんなが僕を見て笑ってるような気がするのだ。
「あいつあれだけイキがってたのに、工学部のヤツにボコボコにされたらしいよ。」
「みんな正座してたんだって。」
「松本なんか、助けてとか言ってたんだって。」
口ぐちに周りのヤツらがそんなことを言ってる気がする。
僕は肩で風を切って歩くことをやめた。
工学部のヤツらと大学内ですれ違うときは、さっと目を伏せた。
新一郎も周りのみんなも、喧嘩のことはなかったかのように振る舞っている。
誰もその話しをしない。
でも少しだけ以前と違うのだ。
あれだけイキがってたみんなも、なにかよそよそしい。
僕らの薄い氷の上で成り立っていた関係は、この事件を機に確実に変化していた。
僕は思った。
終わったんだと。
僕の天下取りを夢見た大学デビュー生活が。
隆志と初めて2人きりになったのは、工学部の喧嘩から1週間経ったときくらいだった。
その日は僕と隆志だけが取っている講義があり、それを受けた後に二人で学食に行くことになった。
学食に向かう途中、金髪坊主の軍団とすれ違った。
隆志と金髪坊主はすれ違うとき、「おおっ。」と笑顔で挨拶をして、2、3言会話を交わした。
その間、僕はずっと下を向いて携帯をいじるフリをしていた。
隆志と学食に着いた。
まだ口の中が切れて痛い僕は、食べやすいうどんを頼んだ。
隆志もうどんを頼んでいた。
長い沈黙。周りの雑音に、僕らのうどんをすする音だけが聞こえる。
「この前、ありがとな。」
「えっ?」
さすがに2人きりで喧嘩のことに1回も触れないのは気持ち悪いので、僕から仕掛けた。
「ほら、喧嘩。なんかあの金髪坊主に仇討ってもらう形になっちゃって。」
「…別にお前の仇討ちのために、喧嘩したわけやないけん。」
「えっ?」
隆志は僕の方を見ずにそう答えると、そのままうどんをすすった。
「…でもあれだな。金髪坊主と互角だったんだろ。オレもなかなか良い勝負したと思うんやけどなー。結局負けちゃって。」
自分でも何言ってんだと思った。
なにが良い勝負だと。一方的にやられて「助けて。」と言っただけだろ、と。
でも自分の口から勝手に言葉が出る。
自分の惨めでちっぽけなプライドをなんとか少しでも守りたいと。
「オレの右ストレートのダメージ、あいつに残ってた?」
「あのよー」
隆志が箸を置き、今日初めて僕の目をじっと見つめた。
ドキッとした。
そして瞬時に身構えた。
分かったからだ。
これから飛び出す隆志の発言が、確実に僕の胸を切り裂くと。
「お前って、ダサいよな。」
「えっ?」
「入学したときから分かっとるからな。お前無理しとるって。」
目の前が、一瞬で真っ白になった。
想像以上の言葉だった。
心を切り裂くどころじゃなかった。
完全に、木っ端微塵に、砕く言葉だった。
鼓動が早くなる。
言葉が全く出てこない。
バレていたのだ。
僕の今までが。
「本物」の隆志には。
「ご馳走様。」
隆志はそう言うと、空になったうどんの器を持って去っていた。
僕はただ呆然と、その場を離れることができなかった。
そこから僕は全ての終わりを覚悟したが、隆志は思いの外、普通に接してきた。
相変わらず喧嘩のこともそれ以来、一切触れないし普通に話しかけてくる。
村崎はそもそも初めから喧嘩のことなんか関係ないって感じだし、表向きは僕らのグループは今まで通りだった。
でも僕はすごいコンプレックスを抱えるようになった。
心にはずっと残っている。
隆志のあの一言が。
寝ようと布団に入ると、いつも散らつく。
馬乗りで殴られて、「助けて。」なんか言った自分の情けない姿が。
僕は、今までつけていた金のネックレスも、ゴツいピアスも外して、髪も黒にした。
僕が少しでもイキがったり、ヤンキーぶったりしたら、周りが心の中で笑うような気がしたのだ。
「本物になりたい。」
大学から車で10分。
村崎と夕暮れの海を見ながら、僕はポツリとそう呟いた。
「は?なにいってんの?」
分かってんだ。
自分がちっぽけな人間だって。
それを必死に隠してここまで来た。
でも全部バレた。
このままじゃ僕はずっとダサいまんまじゃないか。
本当にダメなヤツのまま、大学生活を終えていいのか。
「オレさ、ボクシングしようと思って。」
「ボクシング?」
「強くなりたい。」
村崎が思わず、笑った。
「ちょっと待って。お前もしかしてこの前の喧嘩が原因でそんなこと言いよる?」
「うん。あれがどうしても悔しくて。」
「大学生だぞ、お前!国立の!」
村崎の120%真っ直ぐ真っ当なツッコミが夕暮れの海に響く。
「え、なんかそういう喧嘩負けて強くなりてーみたいなのって、中学生とかまでじゃないの?」
全くその通りだ。
でもオレはダメなんだ。
このまま何もしないと本当にダサいヤツのままになってしまうんだ。
「ダサすぎるって、それは!」
村崎は笑ってる。
僕は真っ直ぐ海を見つめたまま答えた。
「今のままの方がダサいんよ。」
④へ続く↓
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