プロローグ(言葉の旅の手引き)
こんにちは、松本修です。どうぞよろしくお願いいたします。このnoteは毎週更新のつもりでスタートします。
内容は、
①全国方言分布図を分析して、日本語の歴史をたどること。
これがメインのテーマです。「方言分布図から日本語の歴史をたどる」
というタイトルで連載します、
それとは交互に、
②「オサムの視点~あほあほエッセイ~」という私のエッセイを連載します。言葉やテレビの仕事、郷里・滋賀県の海津に関することが多くなるでしょう。
またときおり、
③「悲惨か歓喜か?オサム氏と私」と題して、知友の方々による、私との交友のエッセイも載せます。知友には、私をどん底に突き落としたり、あがめたてまつって絶賛したりしつつ、印象深い実話などを語っていただきます。
②、③のエッセイはともかく、①のテーマ、「方言分布図を分析して、日本語の歴史をたどる」ことは、ひとつの学問を背負っていくことになりますから、あらかじめ知っていただきたい基礎知識が必要となります。以下の記述から、基礎知識を吸収していただきましょう。
方言分布図から日本語の歴史をたどる
このシリーズでは、毎回、カラー版の全国方言分布図を一枚採り上げ、その分布図を分析します。分布図から、日本の話しことばの歴史を読み取ることを試みるのです。
方言分布図は、1991年の年末に、全国すべての市町村に向けて方言の通信調査を行って、翌年回答を得た、その成果を図面に落とし込んだものです。
私の方言分析の基礎は、柳田國男の「方言周圏論」に則っています。
これまでこの理論は、不当に貶められてきた、というのが私の考え方です。この理論は、方言分布図を読み取る上で、極めて有効な理論であると、私は確信しています。
「方言周圏論」に沿って分布図を分析し、この理論のゆるぎない有効性を世に示したいと考えています。その結果、日本語の歴史が、恐るべき明瞭さで、あなたの眼前に浮かび上がってくることでしょう。
柳田国男の「方言周圏論」とは何か?
柳田國男は全国に向けて、32語の方言の通信調査を個人で独自に行い、その中の「カタツムリ」の呼び名の方言分布を分析して、昭和2年(1927)、のちに「方言周圏論」と命名される考えを打ち立てました。その趣旨はこうです。
古語は単に辺境に残るというばかりでなく、その残り方には、きちんとした規則性がある。すなわち、首都であった奈良・京など近畿の都(みやこ)から見て、より古い言葉ほど日本の遠くの地域に残っているのである、と。
たとえば、ひとつの池がある。そこに小石を投げ込むと、円(まる)い波紋が広がる。同じところにまた小石を投げ込むと、ふたつ目の波紋が広がる。こうして次々に同じところに石を投げ込むと、多数の同心円が広がっていく。その中心点が都である、というわけなのです。
今、東京が、圧倒的な影響力で全国に文化を発信しています。京もまた、明治維新で首都の地位を東京に奪われるまで、千年以上、言葉の文化を発信し続けました。方言とは、そんな京の文化の波及の跡を現代に留めたものなのです。それが方言周圏論の考え方です。柳田國男はこう語っています。
方言は、近畿地方、より正確にいえば千年の都、京都を中心軸としてコンパスで円を描けば、同心円の円周上に同じ方言が、あたかもバウムクーヘンのように、いくつもの圏をなして分布しているはずだ。柳田國男はそういう内容を主張したかったのです。
(詳しくは拙著『言葉の周圏分布考』をご参照ください)
では、じっくりとお楽しみあれ!
松本修(まつもと おさむ)
1949年滋賀県生まれ。京都大学法学部卒業後、朝日放送に入社。「探偵!ナイトスクープ」の「企画」者として、今も毎回の番組に携わっている。大阪芸術大学教授、関西大学・弘前大学・甲南大学・京都精華大学講師を歴任。
企画・演出・制作などしたテレビ番組に「霊感ヤマカン第六感」「ラブアタック!」「わいわいサタデー」「探偵!ナイトスクープ」「合コン!合宿!解放区」「清貧テレビ」「劇的!大改造ビフォーアフター」などがある。著書は『全国アホ・バカ分布考』『探偵!ナイトスクープ アホの遺伝子』『全国マン・チン分布考』『言葉の周圏分布考』など。