お好み焼定食の怪
8年前のエピソードを披露させていただきます。
取引先に、東京の本社から大阪支社に転勤してきた方がいて、公私にわたって比較的親しくさせていただいていました。
ある時、東京に戻られて1年近く経過した頃、私に東京へ出向く用事ができました。
「また機会があれば、お会いしましょう。」
そう交わした言葉通り、連絡を入れて、お昼に会おうということになりました。
「お好み焼はどうですか。大阪の方に失礼かもしれませんけど・・。(笑) 」
「いいですね。東京のお好み焼か・・。興味津々です。」
藍染の暖簾をくぐってお店に入りました。
メニューを見て、何を頼もうかと考えていた時、思いもしなかった発声音が私の耳に達したのです。
「僕はお好み焼定食。」
「えっ。ええぇぇーー!!」
私の声があまりに大きかったからか、大層驚かれました。
注文を聞きに来た店員の方も同じような顔をして、私の顔を覗き込んでいたのは言うまでもありません。ひょっとすると、店内にいたお客さんの視線が集中していたかもしれません。
「どうしました?」
何かありましたかという感じで尋ねられた時、一瞬、返答に窮しました。
3秒ほどの間を置いてから、思いきって正直に白状せねばなるまいとの結論に至ったのでしょう。私は言いました。
「それはない!それはあり得ませんわ。」
お好み焼定食の豚玉と私が注文した単品の豚玉が焼かれている鉄板を挟んで、『お好み焼定食』についての熱い議論が展開されることになったのは想像に難くないでしょう。
「お好み焼定食は邪道なんですかね・・。」
「いや、違いますよ。私が食べたことがないだけのことなんです。」
邪道の邪。
同じ「じゃ」という読み方で「蛇」があります。
『蛇の道は蛇』
お好み焼を美味しく食べる仲間に、分け隔てなどあろうはずがありません。
お好み焼定食。
摩訶不思議なお品です。