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ワーケーション体験ツアーは「ホットなワーケーション」になっていないか?

2020年の夏以降、日本で一気にgo toキャンペーンとも関連してワーケーションが広がっていく中で観光の文脈がやや色濃くなります。観光業界、地方自治体が誘致をはじめていく際にまずはどんなものか知ってもらおうと「ワーケーション体験ツアー」として企画されるものも増えてきました。

ツアーでは(良かれと思って)その地域の良さやいろいろな施設を見てもらおう、面白い人に会ってもらおうとして非常に予定が詰め込まれます。2泊3日で初日はAとBという場所を訪問して夜は交流、2日目は朝にヨガをして仕事、お昼は名物を食べ、午後はCという施設を見学して、Dという体験を...といった具合です。

もちろん企画する人が自分の企業や地域でどのように展開しようかと考える材料を集めるためのツアーであればそれで良いのかも知れませんが、ひとりのワーカーとしてワーケーションを体験しようという意味ではピントがずれる可能性もあります。

施設や活動、交流のどの要素もワーケーションをするなかで魅力となる要素ですがそれはあくまでそういった要素があるので長期滞在ができるとすべきものであって、2-3日で効率よく消化することが目的ではないと思います。

一通りそういった要素があることを知ってもらうという意味では効率的ですが、ワーケーションを試すという意味からは離れてしまう危険性もあるでしょう。むしろそれらの経験をするのに忙しくて仕事がいまいちできなかったとか、できたとしても生産性が上がるわけではなかった、ということにもなりかねません。

メディア論の始祖とも言えるM. マクルーハンは有名な「メディアはメッセージ」というコンセプトだけではなく「ホットなメディア・クールなメディア」という概念も提唱しています。

非常にざっくりと説明すると、「ホットなメディア」とは情報が高精細で、そのため参加者の関与が低いメディア、あるいはそうした状況を指しています。一方で、「クールなメディア」とは情報が低精細で、逆にそれゆえに参加者の関与が高い、とされています。

このフレームで考えると、ワーケーション・ツアーは体験の密度が上がり、段々とワーカーたちの関与の余地が少なくなって「高精細」になっているのではないかと感じることがあります。

ワーケーションは海外でデジタルノマドたちが実践したり、日本でも実験し始めた段階では通常の観光やオフィスワークと比べると別にこれがワーケーションのやり方という決まったものもなく、どうやるのかも手探りでした。

そもそもワーケーションをやろうというよりも自分たちのライフスタイル、ワークスタイルがワーケーションと呼ばれていただけです。そういった意味では誰も提供、準備してくれないし、そういった意味で「低精細」だからこそ関与の余地が大きいものでした。

もちろんワーケーションについては、低精細にすれば自動的に参加者の関与が高まるというものではないのでやはり何かのきっかけは必要だと思います。しかしそれを高密度で案内することによってワーケーションの本質が一部失われていることも自覚的であるべきでしょう。

ホットなワーケーションになると観光の合間に仕事をしているように感じるかもしれません。別の言い方をすると、それはさまざまな要素を「加える」志向になってしまいがちです。日本の企業でワーケーションの導入を考えた場合、やはり働き方がベースにあり、そこに遊びや観光、滞在、を「重ねて」いくという志向で進めることが重要でしょう。そして「重ねる」ためにはある程度、低精細であることがポイントなのではないかなと思います。

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松下 慶太
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