*脚本の本棚*最愛の慈泣き(脚本抜粋公開)

『最愛の慈泣き』 (初演 2017年)
作 ひなた 菱咲 (菱路コネクト)

モア モア/ジャイアントモア

杏理 アン/ジャイアントモア

シャイ ジャイナ/ジャイアントモア

リョーコ リョコ/リョコウバト

レイ レイサン/レイサンクイナ

ライ ライナ/カロライナインコ

シギ タシギ/タヒチシギ

クライ ラクイン/ゴクラクインコ

上池 ウェーク/ウェーククイナ

岩佐 イワサザイ/スティーブンイワサザイ

ミヤコ ミヤコドリ/カナリアミヤコドリ

ウッチャン ウっちゃん/メガネウ

ホモ ヒト

ニノゲン ヒト

ヒトシ ヒト

○一景A

(1駒)

もあ 初めまして、もあと言います。最も愛すると書いて、もあです。 走る事、食べる事が好きです。よく聞き上手と言われますが、人と話すのも凄く好きで、この仕事を通して沢山の人に出会える事が楽しみで楽しみで仕方ありません。これからももっともっと 頑張って、立派なアイドルになるのが、私の夢なんです。

○一景B

(2駒)

ホモ 果たしてアイドルは偶像か。画面の向こう、またはステージの上、手の届かぬ所で華やかな存在であり続けるアイドルは。

ミヤコ 先生、難しいです。

ホモ ミヤコさん、半端な気持ちでいるから聞いてられないんですよ。

ミヤコ  偶像ってなんですか。

シギ 崇拝される物。

ミヤコ  崇拝って、凄い凄いって言われて大事にされる。

シギ  そう。

ミヤコ じゃあ、アイドルは偶像なんじゃない。

ホモ  シギさん、口を挟まない。

シギ  すみません。

ホモ アイドルは偶像です。しかし実像でもあるべきだと私は思います。

杏理 うわ、また先生の変な話。

上池 アイドルが実像ってどういう事ですか。

ホモ  その、普段のあなた達です。日頃から体を作り、技を磨き、感覚を研ぎ澄ます、そういう血のにじむ努力をしなければいけない、 まぎれもない人間であるあなた達自身は実像です。誰からも崇められません。

杏理 私ちやほやされるよ先生。

ミヤコ 可愛いは作れるよ先生。

ウっちゃん お年玉沢山もらえるよ先生。

シャイ ウっちゃん。

ホモ  いいですか、ただの実像であるあなた達が偶像に、ただの一般人からアイドルになるためには、自身をしっかり鍛えなければ いけないんです。

シギ つまりレッスンをしないとってことですね。

杏理 最初からそう言えばいいのに。

ホモ はい、今日はここまでにします、お疲れさまでした。時間までスタジオは使って良いので各自練習しとくように。

○一景C

(3駒)

シギ ホモ先生の話長い。

杏理 ホモ先生の理論ってただややこしくしてるだけなんだよね。

岩佐 なんで、先生はホモ先生なんですか。

杏理 そのまんま、ホモだからだよ。

上池 こういう世界だと珍しくないよ。

ミヤコ 岩佐くん、食べられないようにね。

もあ ミヤコちゃん、おどかさないの。

ミヤコ もあ、こないだのオーディションどうだったの。

もあ 緊張したけど、楽しかった。

ミヤコ 手ごたえは。

もあ ミヤコちゃんは。

ミヤコ ひみつ。

もあ ずるい。

ウっちゃん 私はばっちりだったよ。

もあ 本当、ウっちゃん。

ミヤコ ウソだー、私の横でどたどたしてたじゃん。

ウっちゃん いつもよりはちゃんとやれたもん。

○一景E

(5駒)

ホモ 彼女達は意志を呑む。それはある種の覚悟だ。例えば緊張したとき、 手のひらに人という字を書き空で呑む。やってきた事を発揮する為に。また或いは若さゆえの一時の不安や疑問、悔しさなどを喉の奥に呑みこむ。それは向上心だ。

ヒトシ  先生、良いですか。

杏理 なんなの。

ヒトシ  今日は皆さんにお知らせです。新しいユニットを結成することになりました。

シギ 何人ですか。

ヒトシ 三人です。

ウっちゃん 誰だろう。

シギ 先生早く。

ヒトシ はい、新しいユニットのメンバーは、もあさん、杏理さん、シャイさんです。おめでとう、これから、三人でユニットを組み、活動していく事を事務所で決めました。

もあ 本当ですか。

ヒトシ やれるかな。

杏理 当たり前です。

ホモ よくいった。

シャイ 良いんですか。

もあ シャイちゃん、自信もって。

ヒトシ 良いチームになりそうだ。

ホモ ヒトシくん、ユニットの名前は何だ。

ヒトシ シャイ、杏理、もあの三人で、もっともっと大きくなることを目指し、ジャイアントモアとしました。これから三人で頑張ってください。

三人 はい。

○二景A

(6駒)

もあ 今日はありがとうございました。

ニノゲン ジャイアントモアの皆さん、凄く良かったです。次のライブも観に来ます。

杏理 嬉しいです、一所懸命頑張るので、応援よろしくお願いします。

ニノゲン はい、勿論です。それじゃ。

シャイ ありがとうございました。

もあ ニノゲンさんいつも来てくれるね。

シャイ ニノゲンさんって。

杏理 ニノミヤゲンで、略してニノゲン。うちの事務所の他の子のとこにも行ってるから、アイドルが好きなんじゃない。

シャイ はあ。最初は頭真っ白だったから、これから少しずつお客さんの顔覚えていかなきゃ。

杏理 シャイもありがとうだけじゃなくてもう一言ぐらい言えたらなあ。

シャイ すみません、やっぱりまだ緊張して。

杏理 CD三枚目よ。そろそろ堂々としてくれないと。

もあ まあまあ、事務所の人もシャイちゃんはそこが良いって言ってくれてるし。

杏理 分かってるよ。2人が甘い分、私が引っ張らないとね。

もあ 任せた。

杏理 またそういう時に楽して。

シャイ 杏理ちゃん、ありがとう。

(8駒)

もあ ヒトシさん。

ヒトシ ああ、もあさん、お疲れさま。頑張ってるみたいだね。

もあ はい。

ヒトシ ユニットは、どう。喧嘩とかない。

もあ そういうの聞きます。

ヒトシ なさそうだね。

もあ シャイちゃんは頑張り屋さんだし、杏理ちゃんはスカッとしてて何でも話せるので、私が乱さないようにしたいななんて。

ヒトシ 苦労しそうだね。でも、楽しい。

もあ 楽しい。

ヒトシ でしょ。

もあ 気になるとしたら。

ヒトシ なんですか。

もあ 気になるとしたら、ミヤコとウッちゃんですね。

ヒトシ ああ、同じ時期に入った。

もあ 同期なんで、やっぱり気になりますね。

ヒトシ 先越しちゃうとね。

もあ 先越すというか何というか、でも。

ヒトシ そうですね、でもミヤコさんもデビューしてるし、ウッちゃんも良いキャラだから、そのうち来るんじゃないかな。それはそうと、次の曲とライブの事何だけど。時間ある。

もあ 勿論です。次はどんな曲になるんですか。

○二景B

(10駒)

ホモ いやあ、岩佐くん人気だねえ。昨日のライブも良かったよ。

岩佐 先生、ありがとうございます。

ホモ いやいいんだ、私ももともと、イベントを主催してみたかったもので。それも岩佐くんの力あってだよ。

岩佐 そんな、事務所とホモ先生のお蔭です、ほんの少しずつでも、恩返ししないと。

ホモ ありがとう。さすが岩佐くんだ、これかr真央一蓮托生。狭い範囲だが、ツアー成功させような。

岩佐 はい、是非宜しくお願いします。

上池 お疲れさまです。

ホモ おお、上池くんか。頑張ってな。

上池 はい。岩佐くん、応援してるね。

岩佐 上池さんも頑張ってください、上池さんならきっと仕事とれますよ。

ホモ ほら、岩佐くん、行こうか。

(11駒)

ウッちゃん あ、ミヤコちゃんソロデビューおめでとう。

ミヤコ ありがとう

ウッちゃん どうしたの、うかない顔して。

ミヤコ 私と同じ時期に、もあがユニット組んで。

ウッちゃん すごいよね。

ミヤコ 事務所がそっちの方を推してるから。

ウッちゃん おふ。

ミヤコ 私のやる事は全部事務所のいう通り。なのにあの三人は……もあはマイペース、シャイはあの個性で受けて、杏理はまあ、凄いけど。

ウッちゃん もあちゃんに嫉妬してるんだ。

上池 ミヤコちゃんも凄いと思うよ。ほら、三人は三人の力があるから。ミヤコちゃんはこれからだよ。

ウッちゃん 上池さん天使だなあ。

ミヤコ 上池さんは、まだ決まらないんですか。

上池 うん、私始めるの遅かったから。

ウッちゃん そうだよ、これからだよね。私も小さい頃あんまり体動かさなかったからダンスがなあ。

ミヤコ あんまりそれ関係ないよ。

上池 ミヤコちゃん。

(12駒)

リョーコ 他人の話ばかりしてないで、自分のやることをやったら。

ミヤコ リョーコ、さん。

例 リョーコやめよう。

リョーコ だってこの子達がもあの事を。

レイ 私達には関係ないじゃない。

ミヤコ ……。

シギ  そうね。売れた人たちにとっては私達の事なんて関係ないよね。

ミヤコ シギちゃん。

シギ あんたなんでデビューできてるわけ。言われたままの事してるだけじゃん。

リョーコ それも仕事よ。

シギ 私の方が上手くやれる。

リョーコ アイドルをなんだと思ってるの。そんな人を恨むような顔して、誰が応援してくれるの。

シギ こんな顔だなんて酷い言い方。

ウッちゃん そうは言ってないような。

シギ あーあ、リョーコさんは良いですね、綺麗でスタイルよくて、アイドルとして上手くいってて、プライベートも充実して。

リョーコ シギ。

レイ シギちゃん、あんまり大きな声で言わないで。

シギ レイさんがやってるぐらいのことは私だってできるのに。

リョーコ 杏理に先越されて妬いているの。

シギ なに。

リョーコ 別に。つまんないなと思って。

シギ なによ。

リョーコ つまんない子だなって。

シギ は。

リョーコ ミヤコちゃんだっけ、下に落ちるとこんなのばっかりだよ。上を向いて、自分を高めていって。

レイ ごめんね、気にせず頑張っていこうね、私達もまだまだだから。

リョーコ レイさん。

レイ 今行くから。

ウッちゃん ミヤコちゃん、ウジウジしてたら抜いちゃうからね。

ミヤコ う、うん。

ウッちゃん 言っとくけど私は下には居ないよ。横に居るからね。

ミヤコ もう、オーディション受かってから言って。

ウッちゃん 売れてる売れてない何て私達の仲には関係ないの。

ミヤコ もあも。

ウッちゃん もちろん。

(13駒)

シギ ……つまんない。

杏里 シギ。

シギ 杏里。

杏里 マネージャー見なかった。

シギ いや。見ない。

杏里 そっか。どこ行ったんだろ。

シギ あのさ。

杏里 ん、なに。

シギ 大丈夫。

杏里 大丈夫ってなにが。

シギ ジャイアントモアで。皆キャラ違うから、疲れない。

杏里 母、なんだよそれ、疲れるに決まってんじゃん。シャイは頼りないしもあは上手い事美味しいとこに居るし、私がどんだけ盛り上げてると思ってんの。

シギ 大変そう。

杏里 でも楽しいんだ。

シギ へえ。

杏里 私がいっぱいいっぱいの時はもあが回してくれるし、困ったらシャイをいじっときゃオチがつくし。

シギ 変なファンとかいない。

杏里 まだそんな気になんないかな。

シギ やらしいプロデューサーとか。

杏里 マネージャー良い人なんだよ、だから仕事相手の人もちゃんとしててさ。

シギ ああしろとかこうしろとか。

杏里 なんなの。……どうかした。

シギ いや、別に。

杏里 そう。

シギ うん。

杏里 頑張ろう。

シギ ああ。

○二景C

(14駒)

シャイ 杏里ちゃん離れてくださいよー。

杏里 シャイー。

シャイ なにー。

杏里 疲れたー。

シャイ そうですか。

杏里 めちゃくちゃ疲れたー。

シャイ 私もちょっと。

杏里 シャイはいいなあ。

シャイ なにがー。

杏里 悩みがなさそうで。

シャイ ええ……ええー。

杏里 シャイは平和だ。

シャイ 今まさに困ってます。

もあ さ、やろっか。

杏里 もあマイペースすぎない。

もあ え、なんで。

杏里 一人で黙々やってさ。

もあ どう見ても二人の方がマイペースじゃない。

シャイ え、それ私も。

もあ 一緒一緒。

シャイ もあちゃんから何か言ってくださいよー。

もあ ちょっと巻き込まないでよ。

シャイ 同じメンバーじゃないですかー。

杏里 運命共同体じゃないかー。

クライ 準備できたの。

もあ クライさん。

杏里 私はバッチリです。

シャイ ああ、ずるい。

クライ ジャイアントモアの新曲、どうなっても知らないよ。

三人 御鞭撻お願いします。

クライ 全く、余裕は大物の証かな。

もあ 大物だなんて。

杏里 ジャイアントモアだけに。

クライ 面白い

杏里 すみません。

クライ 不思議な名前よね。

シャイ 確かに。

杏里 なに。

シャイ ジャイアントモアって、鳥の名前だよね。

もあ 絶滅したっていう、凄くおっきいダチョウ。

杏里 あー結成した後に聞いたかも。

シャイ しかも飛べなくて、走るだけだったとか。

杏里 えーもう嫌な名前だなー。

もあ 良いじゃん、それで。

クライ なんで。

もあ 飛んだらまたどこかで降りなきゃいけない。それなら、地に足つけて走れる方が良いじゃん。

クライ そうね。

シャイ それにもっと大きくって意味なら、私達が大きくなったら、この居なくなった鳥も浮かばれたりして。

杏里 ええそんな事背負うの。私その鳥に興味ないよ。

もあ 私もそんなに詳しくないけど、なんか良いじゃん。

杏里 なに。

もあ 誰かの、とか。何かの、とか。そういうの背負ってその為に頑張るの。私達そういうもんじゃん、アイドル。

シャイ やることは変わらないよね。

クライ お、シャイも言うじゃない。

杏里 売れる事。

もあ そうだね。おっきくなる。

クライ その為に、次も気合い入れないとね。

シャイ うう緊張します。

杏里 言ったそばからー。

クライ 鳥の話になったからついでだけど。

もあ クライさん、なんですか。

クライ 鳥はね、食べ物を鵜呑みに、丸呑みにするの。

シャイ 歯がないから。

クライ そう。でもそれだと消化しにくいから、小さな石ころを呑みこむの。お腹に貯めたその石で、食べた物をすり潰す。

杏里 へえー。

クライ でさ、緊張したら、手に人って字を書いて呑んだら落ち着いたりするじゃない。

もあ はい。あっ。

杏里 先輩もしかして。

クライ そう、石を呑むように、意志を呑むの。

杏里 だじゃれー。

シャイ でも、私達にぴったりですね。

杏里 別に名前がジャイアントモアじゃなくてもそれやるよ。

もあ 確かにね。

シャイ 頑張ろうって気持ちを、胸の内にしっかり呑みこむんですね。

クライ なんでも口に出したら良いってもんじゃないしね。

もあ 貯めこんじゃいそう。

杏里 シャイとか特に。

シャイ 悩みがなさそうって言ってたのに。

クライ まあ、頑張ってね。

シャイ はい。

もあ 次の曲、クライさんのデビュー曲のカバーなんですよね。

クライ そうね、あんまり売れなかったから、微妙な気持ちだけど。ごめん、今言う事じゃなかった。

杏里 良いんですよ、私達がドカンと日の目を浴びせますから。

もあ 頼りになるー。

杏里 一緒にやるんだぞ。

シャイ それで、クライさんが教えてくれるんですよね。

もあ 下手打てないね。

杏里 打たない打たない。

クライ じゃあ、振り見てみよっか。

○二景D

(15駒)

ニノゲン おおこれがジャイアントモアの新曲。最高だ。

もあ はあ。

ウッちゃん お疲れ様。

ミヤコ 新曲良いね。

ウッちゃん 本当。

ミヤコ クライさんの曲なんでしょ。

もあ うん、そうなの。

ウッちゃん いいなあ、先輩の曲をカバーできるなんて、羨ましい。

ミヤコ 同じコピーでなんでこう違うのかな。

もあ どうしたの。

ミヤコ なんでも。

ウッちゃん ほらほら、次は皆で踊るよ。

ミヤコ はいはい。賑やかで良いね、事務所のイベントも。ウッちゃんもデレてさ。

ウッちゃん ね、本当、凄くラッキーだよね。

ミヤコ 嫌味で言ったのに、空っぽでいいなあ。

ウッちゃん ほら準備準備。

(16駒)

シャイ あ、クライさん、次一緒ですね。

クライ そうね。

シャイ 恐れ多くて緊張しそうです。

クライ そういう時は。

シャイ はい、わかってます。

クライ 凄いな、私の曲、こんな風になるんだ。

シャイ クライさんのお蔭です。もっと頑張って追いつかないと。

クライ ああ、本当、凄いなあ。

(17駒)

ホモ 岩佐くん、どうだい、このステージ。

岩佐 凄く刺激的です。特に、今勢いのあるジャイアントモアの方々。

ホモ そうだなあ、ここに一枚かむ事が出来たのは幸運と言う他ない。

岩佐 先生。

ホモ 岩佐くん、このステージが成功するよう頑張ろう、上手くいけば今後もあのユニットとイベントを企画出来ると良いな。

岩佐 ……はい。それは嬉しいですけど。

(18駒)

シギ ……。

杏里 ああシギ。もう次の準備できてるの。

シギ 出てる曲、杏里より少ないからね。

杏里 もうまだそんなこと言って。シギもつい最近デビューできたんだから、これからはアイドル志望の女の子じゃなくて、同じアイドルとして、競争だよ。

シギ 競争、そうだね。

杏里 次は二曲後か。奥袖で待機してようかな。

シギ 水要る。

杏里 ありがとう。

シギ 私も行くよ。

杏里 オッケー。一緒に踊れるなんてちょっと前までは思ってもみなかったね。

シギ 私は、ずっと待ってたよ。

(19駒)

もあ あ、杏里ちゃん。次だよ。

杏里 うん。

シャイ どうしたの。

もあ もしかして緊張してるんだ。

杏里 はは、そんなこと。

上池 みんな、始まるよ。いこう。

(20駒)

もあ 杏里ちゃん。杏里ちゃんどうしたの。

杏里 ……苦しい、助けて。

もあ なんで。

ホモ どいて。

岩佐 いたっ。

上池 岩佐くん大丈夫。

岩佐 多分、いや……。

ホモ イベントは中止だ、早く医務室へ。

もあ 一体何が起こってるの。

(22駒)

ミヤコ クライさん。

クライ 杏理は。

ミヤコ 今、安静にしてますが、顔色悪くって。

クライ そう。

ミヤコ ここにいるのはなんでですか。

クライ え。

ミヤコ 杏理ちゃんの傍に居ないのは、なんで。

クライ ……あんまり大勢で行っても。

ミヤコ ちょっと悔しかったんじゃないですか。カバー。

クライ 少しだけね。

ミヤコ ほっとしてるんですか。

クライ ……。

ミヤコ 最低ですね。

クライ うん。私、こんなだったんだって思った。こんなので、続けて良いのかなとも。真似されて、もっと良い物にされるぐらいのことしかしてこなかったなら、意味ないじゃんって。

ミヤコ それは。

クライ 真似されて、私のを誰かの物にすげかえられて。自分じゃなくても良かったんだって。コピーされて、私は消えてくのかなって。この先新しい何かを作っても、それはそのうち私の物じゃなくなる。誰かに真似されて、誰かの物になる。

ミヤコ やめてください。

クライ なんで。

ミヤコ 私は、ずっと、私じゃないままなんですから。真似されるだけ、良いじゃないですか。私は一度だって、私を求められなかった。

クライ じゃあ貴女は、これからよ。

ウっちゃん 贅沢な悩みだなあ。

ミヤコ ウっちゃんには分からないよ、きっと売れても。からっぽだもん。

(23駒)

シャイ 杏理ちゃん、大丈夫。

杏理 吐き気がする。

もあ 何か変な物食べた。

杏理 分かんない、ごめん何も考えられない。

もあ ごめん。

シャイ 今救急車来てるって。

もあ 私、ここに案内してくる。

シャイ うん。

杏理 シャイ。

シャイ なに。

杏理 ごめん、水、欲しい。お願い。

シャイ 分かった、すぐ買ってくるから。

杏理 うん、ありがとう。

(24駒)

シギ 杏理、大丈夫。

杏理 ううん。だめ。

シギ そう、これ、観にきてたファンの人から。水。

杏理 ありがとう。

シギ 薬も持ってるから、あげるね。

杏理 うん。なんの薬。

シギ 漢方かな。今でも良いけど、あとで呑んだ方が良いよ。

杏理 う、ああ、ああーーっ。熱い、お腹が、喉が、喉がーっ。

○二景E

(25駒)

ヒトシ 何してるんですか。

もあ 何かしてるように見えますか。

ヒトシ 何を考えてるんですか。

もあ 何を考えたら良いんでしょうか。

ヒトシ 気になる事は、今全部、考えちゃうのが良いかもしれません。

もあ はい。

シャイ ヒトシさん。私達は、どうなるんでしょうか。

ヒトシ 杏理さんは、歌えなくなってしまいました。ジャイアントモアからは脱退ということになります。本人の事情ということで、表向きには。

シャイ 二人ですか。

もあ やれないなんて言わない、今まで杏理が居てくれた分、強くならなきゃいけない。

シャイ そうだね。楽しみにしてくれる人たちも、居るし。暗い顔して居られないよね。頑張らないと。

ヒトシ もっと、悩んでても良いんですよ。

もあ なんでですか。

ヒトシ 求められてるからといって、辛い時にまで応えようとしなくて良いんですよ。

シャイ でも、それじゃ。

ヒトシ 待ってる人が居るからって何ですか。支えてくれる人が居るからって何ですか。順序があります。まず何より、貴女達は誰に頼まれたわけでもなく、自分でアイドルになる事を決めたのですから。まずは自分の在りようを考えてから、そうしてから最初に期待に応えたら良いんです。

(26駒)

上池 あ、皆さん。おはようございます。

シャイ 上池さん。先生。

ホモ おはよう。

上池 あの、えっと。

ヒトシ 今は、何も言わないであげてください。

上池 すみません、皆、元気なくて。

ヒトシ 優しい証拠です。

上池 クライさんも、曲、売れなくなってきてるみたいで。悩んでて。

ホモ 上池さん、今は自分の事も考えましょう。

上池 自分の事は、良いんです。

ホモ 何年、ここに居ますか。

上池 ヒトシさんが来る前から居ます。

ホモ SNSでも一定のファンは居ますし、たまに舞台でも、活躍はされてますが、上池さんのやりたい事はそれじゃないのは知ってます。

上池 そうですけど、もう。

ホモ きっともう少しです。レッスンには行きますか。

ヒトシ 無理はしないで良いんですよ。

上池 行きます。

シャイ 上池さん。

ホモ その意気があれば、きっと飛び立てます。行きましょう。

(27駒)

ヒトシ 二人は休んでてください。

もあ 飛び立つ。

シャイ もあ。

もあ ジャイアントモアは、飛べないんだ。

ヒトシ それは……でも。

シャイ でも、走れるよ。走って、前に進める。

もあ そうだね。うん。走ろう。

ヒトシ 二人は、ジャイアントモアがどこに棲んでいたか知ってますか。

シャイ ダチョウは。

もあ 砂漠、じゃないけど、広いところ。

ヒトシ 森です。ジャイアントモアは、緑豊かな森に棲んでいたのです。

もあ じゃあ、走れなかったんですか。

ヒトシ 勿論早く走れたでしょうね。でも、彼らは、資源に恵まれた森の ある島で生まれた。きっと、愛されていたんじゃないかな。

シャイ 恵みに、囲まれてた。  

ヒトシ そう。貴女達も、同じです。苦しい事もありますが貴女達には、まだ多くの味方がいます、それを頼りながら、無理せず頑張りましょう。

シャイ はい。

もあ ヒトシさんありがとうございます。

シャイ 私達のマネージャーがヒトシさんで良かった。

もあ ほんと。  

ヒトシ これからも宜しくお願いします

○二景F

(28駒)

ニノゲン ジャイアントモア、二人体制で再始動。これからって時に 杏理ちゃん抜けとは、痛いなあ。でもまだ勢いはあるし、 もあちゃんシャイちゃんのコンビも緩くて良いなあ。ん、んん。 今話題の事務所で新スクープ。あのアイドルに熱愛発覚、 スキャンダル。お相手は同じ事務所の。

ニノゲン リョーコちゃんに手を出したライとかいうくそ虫。ツラ見せろやあ。

ホモ 下がってください。

ヒトシ イベント中止します。一旦中へ。

ホモ 大変申し訳ございません、本日はこれにてイベント終了させて 頂きますので、お客様方には。

ニノゲン どんだけ貢いできたと思ってんだ。注いだ僕の愛を返せ。

ホモ あなたは、確か。他の子のとこにも。

ニノゲン そうだよこの事務所の他のにも貢いできたんだ。俺が支えて きたんだ。杏理ちゃんの事も何だったんだ。この事務所は おかしいんじゃないか。

ホモ すみません、こちらへ。

ニノゲン その態度はなんだ。説明しろ。ワゴン借りてここに突っ込んでも良いんだぞ。全部壊してやる、俺の時間を返せー

(29駒)

クライ ライくん。大丈夫。

ライ クライさん、俺、どうしよう。

クライ リョーコと話さないとだけど、多分、リョーコのユニットとライくん、どちらかは……。

ライ ここに居られなくなるんですか。

クライ ……。

ライ クライさん、聞いてますか。

クライ ごめん、ちょっと、他人どころじゃなくて。

ライ そんな。何があるんですか。

クライ もあ達にコピーされてから、あまり売れなくなって。

ライ それでも皆よりは。

クライ だって、同じ曲でもっと売れちゃう子が居るのよ。私がやる意味って。コピーなんて手伝わなきゃ。

ライ カバーですよ。

クライ 同じじゃない。

(30駒)

ミヤコ クライさんが、何かしたんじゃないですか。

クライ 何をしたっていうのよ。

ミヤコ とぼけて、分かんないんですか。

クライ ……冗談じゃない。

ミヤコ こないだの杏理のも、まだ解決してないじゃないですか。あれだって、クライさんじゃないですか。

ライ クライさんが。

クライ もうやめて。

ミヤコ 許してないんですからね。私。もあ達が悩んでる間に事件にかこつけて売り出される私の気持ち分かりますか。やめたくてやめられるんならまだ良いじゃないですか。私はもう自分の意志で進むことも退く事も出来ないんです。

ウッちゃん お客さん、やっと皆はけました。

ミヤコ ……。

ウッちゃん どうしたんですか。

ミヤコ いつもそうやって分からない振りして。

ウッちゃん ミヤコちゃん、諦めちゃ勿体ない。私なんか、今日もスタッフで手伝って。

ミヤコ はいはいありがとうね。

ライ ミヤコ。

ウッちゃん 待って。

クライ ダメだ。

ライ なに。

クライ もう、何も感じないんだ。いつか皆同じになる。諦めてたんだなあ。

(31駒)

ミヤコ はあ、はあ。

もあ ミヤコ、どうしたの。会場、大変だって。

ミヤコ もあ。もあは、なんなの。 

もあ え、なに。

ミヤコ 人の曲で人気とって、今一体なんなの。誰なの。

もあ 私達は、ジャイアントモアだよ。私も、シャイも、杏理だって。

ミヤコ 杏理はもう居ない。

もあ ……。

ミヤコ 杏理はもうジャイアントモアじゃない。

もあ やめて。

ミヤコ あんただって居ない。誰かの真似して、誰かに言われるまま、誰かの作った私達はもう私達じゃない。

ウっちゃん ミヤコ。

ミヤコ あんた。

ウっちゃん ごめん。ごめんなさい。

ミヤコ は。

ウっちゃん 私、ミヤコちゃんの気持ちわかんなくて、ううん、分かろうとするの怖くて、ずっと、ちょっとでもわかんない事はそのまま 分からないままで良いやってなっちゃってて。

ミヤコ 何謝ってんの。何まだ良い子でいようとしてんの。そういうの卑怯だよ。謝るだけじゃ何の意味もないよ、空っぽ。空っぽだから仕方ないかな。

もあ お願い止めて。

ウっちゃん 空っぽ空っぽってうるさい。良いじゃん。皆売れて、皆踊れて。 皆可愛くしてもらって。私なんかできない事だらけだよ。 踊れないし歌えないし何も上手くできないしさっきだって他のスタッフさんがお客さんの相手して帰ってもらってて私はどうしたら良いのかわかんなくてただすみませんって言うだけで、私、空っぽかもしれない、何もないかもしれない、だけど苦しいし悔しいしもっと、もっとみんなの傍で仕事したいよ。

もあ やめて。お願い。分かんない。頑張りたいのに。なんで、こんなにたくさん。

ミヤコ 人形になって、体が衰えるまで自分を呑みこんで、どうやって楽しめるの。

ウッちゃん もう、やだなあ。昔は、あん何、もあちゃんミヤコちゃん仲良かったのに。楽しかったのに。

もあ 杏理……助けて。私、無理だよ。

○二景H

(37駒)

シギ さってと、次のイベントのお客さん、集めないと。

ニノゲン シギちゃん、次のライブ、決まってるんですね。

シギ  はい、色んな話はあるけど、私は負けないように、皆さんの前に立ち続けようと思います。それが皆の為になるかは分からないけど、私自身がそうしなくちゃいけないって感じたからです。是非 応援しにきてください。

ニノゲン 勿論です、思いっきり、飛び込んでいきますね。

シギ  ありがとうございます。

ニノゲン スタッフさん、事務所の皆さんも、お元気でしょうか。

シギ  はい、皆、あの事にめげず、一緒に盛り返そうとしています。みんなで、お客さまをお迎えしますね。

ニノゲン そうですか、楽しみにしてます、僕も盛り上がるよう頑張りますよ。盛大に突っ込みにいきますね。

シギ  突っ込みに。

シャイ 杏理ちゃん。大丈夫。あれからね、私達、二人だけで、続けてるんだ。杏理ちゃんが居ないとやっぱり大変でさ。ずっと待ってるから、早く帰ってきてね。どうしたの杏理ちゃん。どうして、そんな。

リョーコ やめてください、もう私からは何も言う事ないんです。

ライ  ありえない話です、ただ、あの記事が原因であり、元凶です。

レイ 私は関係ありません、もうやめたんです。

クライ 次ですか、皆が歌いやすい歌ですね、是非カラオケで歌って下さい。

上池 やだ、今月払えない、また滞納だ。いつになったら。

岩佐  もう、体が限界だ。なんで僕ばかり。

ミヤコ 基本的になんでもします。好きな言葉ですか、冒険とか挑戦ですね。

ウっちゃん 私、アイドル、目指していました。今はもう違いますよ。

シャイ 杏理ちゃん、どうしてそんなに、私をにらむの。

リョーコ あんなに人気だったのに、短かったなあ。

ライ 環境が変わったら、生きていけない。

レイ  関係ないのに巻き込まれちゃったら。

クライ 過去にも明日にも私は居ない。

上池 搾り取られて。

シギ 狙われて。

そしてあっという間に食いつくされる。

岩佐 誰かの休まる場所でしかない。

ウッちゃん 利用されるだけの私達。

杏理 私達を殺したのはニンゲンだ、ニンゲンの、欲望に熱く煮える人間の意志で、私達は殺されたのだ。

シギ なにあの車。

シャイ やだ、もうやだ、私が悪いのかな。私が、怪我とかしていれば良かったのかな。そもそも。ジャイアントモアに。こんなの 耐えられないよ。もう。私なんか。私何ができたかな。走れたかな。飛べたかな。そっか、飛べないんだった。広い空に身を任せても、ただ落ちるだけの、滅んだ鳥。

(38駒)

モア シャイ、シャイー。ああ、どうしてこんな、皆、どうして。これから、これからアイドルとして羽ばたくはずだったのに。ミヤコ ちゃんは人に作られた環境に耐えられず。ウっちゃんは上手く 飛べないからって上池さんと一緒に使いつぶされて、リョーコとライくんはあんなに、どこのイベントにも居るぐらいだったのに、レイさんは二人から飛んだ火の粉が原因で、クライさんはもう クライさんとしての誇りを失って、シギちゃんはファンの人に 狙われ岩佐くんはあの先生に。
杏理ちゃん、私無理だった。シャイも私も、苦しい思いたくさん 呑みこんだ。こんな意志呑みたくなかった。二人しかいなくなって、二本の足しかなくなったジャイアントモアが、片足を失ったら、走る事もできないよ。杏理ちゃん、シャイ、ごめんね。
これは、これは羽根。皆は、私達は、私は、鳥。ここは森。
 私達ジャイアントモアの生まれた森。
私は、絶滅した鳥、ジャイアントモア。

○三景A

(39駒)

ヒトシ 昔、ジャイアントモアという鳥が居ました。彼らは食べた物を消化する為に、石を呑みこんでました。硬い硬い、石を、生きる為に。

ニノゲン どうします、我々人類の食糧問題は。

ホモ 人類とはた君、話が大きいじゃないか。しかし安心したまえ、この小さな島にこんなにも大きな鳥が居るのを見つけてここにきたんじゃないか。

ニノゲン ええ、こん何大きな鳥、本当に居るんですね。襲ってきませんか。

ホモ 温厚だから大丈夫さ。珍しいので剥製にしようと思ったんだがね、ほら、肉も旨く島にはまだたくさんいるという。

ヒトシ このモアは、研究の為にここで飼育しているので、すみませんが。

ホモ 分かってる、分かってるよ、学者さんは真面目でいけない。

ニノゲン 他にも、利用できる鳥はたくさん居ますよ。食べるだけじゃなく、ペットにだって。

ホモ そうか、じゃあ早速行こうか。

ヒトシ モア、運動の時間だ、広いところに行こう。

○三景B

(42駒)

ニノゲン 奴らは石を呑みこむか、そうか、じゃあ、それを……。

ニノゲン 熱い熱い焼け石にしたら、どうなる。

モア ……。

暗転

○三景C

明転

(45駒)

ラクイン ……。

モア う。うう。

ラクイン 誰か居るの。

リョコ あなたは。

モア モア、です。

リョコ ジャイアントモア。

ライナ 具合が悪いのか。

モア みなさんは。

ラクイン ここに、連れてこられたの。

モア なんで。

ラクイン なんでって。あなたは。

モア 私は、ここで産まれましたから。ずっとここで。人間という生き物がたまにご飯をくれたり、体を綺麗にしてくれます。

ライナ 人間ってもしかして。

リョコ 私達はその生き物に、連れてこられたの。危険な道具で眠らされて。

ラクイン あれは、危険な生き物よ。

モア そうですか、私によく会ってくれるヒトは、良いヒトですから、 想像できませんね。 でも。

ライナ でも。

モア 今朝、別のヒトが傍に居たのですが、不愛想で、少し乱暴で、そのヒトといたからか、体がとても、苦しいのです。喉が、この腹が、焼けるように痛いのです。

リョコ ……逃げて。

ラクイン リョコ。

リョコ ここに居ても、最後には殺されるだけ。

モア といっても、あそこには高い柵が。

リョコ 超える。あなたには出来る。飛び越えられる。

モア あの柵を。

リョコ だって私は、あなたと同じジャイアントモアを、知ってるんだ。

ライナ 生きるんだ。外は、広い。

モア 森はありますか。

ライナ ある。あるぞ。

モア 行ってみたい。たまに、ここで小さな緑を眺めてると、懐かしくなる。

ラクイン 行って。きっと他の鳥達もまだいる。

リョコ 逃げて。

ライナ 頑張れ。早くしないと奴らがくる。

モア ありがとう、行ってきます。

リョコ 力を振り絞れ。

○三景D

(46駒)

ヒトシ 居ない。

ニノゲン 暴れて逃げちまったのか。さっきまでぐったりして居たのにな。

ヒトシ モアに何をしたんだ。

ニノゲン ああ、どうやってこのでかい鳥を安全に狩れるか考えたんだ。それで、焼け石を置いておいたらあいつ、ひょいと呑みこんでよ。最初はのたうち回ってたんだがたまんなかったな。

ヒトシ お前、命をなんだと。

ホモ おっと、おやめください。ここの学者さんは猛獣に襲われましたと報告しなきゃいけなくなる。

ニノゲン どこに行く。

ヒトシ 探しにいきます。モアを。どこかで倒れて居るかもしれない。

ニノゲン 持って行けよ。

ヒトシ なぜ私が銃なんか。

ニノゲン もしかしたら、あまりの苦しさにお前の事も忘れておとなしくついて来ないかもしれない。それに。

ホモ 仮にもあの動物の管理者だ、責任をとれる形で行ってください。

ヒトシ ……。

ニノゲン はは、よほど大切なんだな、あんな毛むくじゃらの商品に。

ホモ そうですね、それでは、我々もいきますか。

ニノゲン ええ。

(49駒)

ライナ こん何、皆捕まっちゃった。

リョコ 他の鳥達は、大丈夫かな。

ライナ リョコ、そこに居るの。

リョコ 見えない、おびただしい数の鳥の体で、ライナが見えない。

ライナ そろそろ、俺も限界だ。

リョコ 体力が奪われてしまった。

ライナ リョコ、さようなら。

リョコ 好きだった。

ライナ ああ、好きだった。

リョコ はは、もう何も聞こえないや。

ラクイン ああ、皆、皆あの人げんに滅ぼされてしまう。

ホモ さあお客さんよくお越しになりました、これがあのペットとして人気のゴクラクインコでございます。

ラクイン え。

ニノゲン お客さんお買い上げですか。お目が高い。さあさあ次の方もどうぞ。

ラクイン やめて。

ホモ この二羽ですか、色が違うのはオスとメスです。

ラクイン 違う。

ニノゲン その地味なのは、雛です。そのうち綺麗になりますよ。

ラクイン それは私じゃない。

ホモ これは島の固有種です、珍しいですよ。

ラクイン 私が、私がゴクラクインコだ。

ニノゲン 変異体です。

ホモ 品種改良しました。

ニノゲン これこそが本家本元。ははあ、だんだん売れなくなってきたな。

ホモ 綺麗でないものも混ざってしまってるからな。

ニノゲン このインコも価値が落ちてしまった。

ホモ 御墨をつけて居たのが今やゴクラクインコの名は烙印を押すのと同じ。

ラクイン こんな、明日を奪われ、昨日を偽られ、私の生きた証は、過去は、未来でさえも、余りにも暗い。

ニノゲン 最後の一匹ですよ。

ホモ やけに綺麗じゃないか。これは高く売れそうだ。

○四景A

(50駒)

ヒトシ モア、モア。

モア その声は、誰。

ヒトシ ヒトシです。

モア 人間。

ヒトシ 人間です。

モア その手に持ってるのは、何。

ヒトシ 猟銃です。

モア それは、なんですか。

ヒトシ 弾が出ます。

モア それは丸いのですか。

ヒトシ はい。

モア 硬いのですか。

ヒトシ はい。

モア 大きさは。

ヒトシ 小さいですよ。

モア 呑みこめるほどに。

ヒトシ ええ。小さく爆発して、飛び出ます。

モア 熱い石なのですね。それを、私にもらえませんか。腹の中に 悪い虫がいるのか、痛くてたまらないのです。蠢く虫なんかには、私達の熱くて硬い意志は、食い散らかせないはずですから。

ヒトシ できま線。

モア どうして。

ヒトシ 僕はこの引き鉄を引く事なんて。

モア 銃を持ってるのはどうしてですか。

ヒトシ え。

モア 弾が入ってるのはどうしてですか。

ヒトシ それは。

モア ここに来たのは、誰かに言われたからですか。

ヒトシ 誰か。

モア それはニンゲンです。あなたはニンゲンの言葉でここに来て、ニンゲンの明日の為に撃つのです。ニンゲンが引き鉄を引くのです。

ヒトシ ニンゲンが引き鉄。

モア さあ、それは何ですか。

ヒトシ これは。

モア 銃ですよ。

ヒトシ 違う。

モア 弾が出ます。

ヒトシ 弾なんか。

モア それは意志です。

ヒトシ 君の意志は。

モア それは硬くて熱い小さな石ころです。

ヒトシ でも。

モア でもそれが私には必要なんです。小さくても見えないかもしれない、その意志が。時に毒の様に私を蝕み、時に喉に詰まり息苦しくする、小さくて硬い、熱い意志が。私が私として生きる為二、どうか、その石を。

ヒトシ あ、ああー。

○四景B

(51駒)

ミヤコ 15世紀、カナリア諸島に人間が移住。乱獲、外来生物により数を減らし、さらにリゾート地として島中をコンクリートにさレ、1940年カナリアミヤコドリ絶滅。

ウっちゃん 別名ベーリングシマウこと、メガネウ。鈍重で上手く飛べず、警戒心のないことから食用として乱獲。この鳥が発見されてから111年、1852年絶滅。

リョーコ リョコウバト。その肉は美味で食用として乱獲。50億羽もいたが1914年、飼育していた動物園にて、最終個体が老衰により死没、わずか100年ほどで絶滅。

ライ カロライナインコ。同じく大量にいたがペット、食用、環境破壊により1904年絶滅。リョコウバト最後の一羽と同じ園にて、この世から去る。

レイ 1954年。レイサンクイナ。飛べず、外来生物や環境破壊により数を減らし、戦火に巻き込まれ32年で2000羽が消え、絶滅。

クライ 美しさからついた名はゴクラクインコ。ペットとしてブームになり乱獲。1921年絶滅。しかし今でも他のインコがゴクラクインコとして偽られ市場に並ぶ。

シギ タヒチシギ。賢い鳥だったが人間によって移入されたブタに卵やヒナを食べられほんの8年で絶滅。タヒチシギの卵はまるで小さな石のようだった。

上池 ウェーククイナ。1941年より第二次世界大戦でウェーク島を占領した陸軍の食糧として乱獲され、この飛べない鳥はたった5年で絶滅。

岩佐 スティーブンイワサザイ。スティーブンズ島に来た灯台守の連れてきた猫を含む、野生化した猫によて、わずか2年後、1894年絶滅。

杏里シャイ ジャイアントモア。

杏里 ニュージーランドに住んでいた史上最も背の高い鳥。

シャイ 温暖化による生息環境の現象、繁殖力の低さに伴い、乱獲により。

杏里シャイ 1950年代以前には絶滅。

もあ 乱獲の際、石を呑む習性を利用した人間によって、ジャイアントモアは焼け石を呑む事で狩り尽くされた。

                      最愛の慈泣き より

脚本抜粋掲載なので飛び飛びてすがシーンとしてお楽しみください。
役者へのリクエストは脚本記載の(○駒)の駒数でリクエストください。

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